Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
最後に残された「やっかいな問題」に挑む
コピーしました コピーに失敗しましたいま皆さんが直面している「進捗困難なやっかいな問題」とはどのようなものでしょうか。
- 部下が思うように動かない
- 組織がまとまらない
- 役員間の合意が得られない
どんなに優れた経営論をかざそうとも、うまくいかないことがあります。トップが他の役員から反旗を翻され、失脚することさえあります。
「すべての悩みは、対人関係である」
これは、心理学の三大巨頭の一人、アルフレッド・アドラーの言葉です。
最後に残された「やっかいな問題」は、なぜ起きるのか?
エグゼクティブコーチをしていて思うのは、優秀なクライアントに「最後の課題」として立ちはだかるのは、やはり対人関係、人と人との関係性である、ということです。
これは当然と言えば当然でしょう。クライアントの皆さんは、既存の知識や方法で対処できる問題は、十分に解決できる人たちだからです。
最後に残されるのは、まさに人との「やっかいな問題」。
では、これは、どんな時に起こるのでしょうか。
- 将来を見据えると、今のうちに取り掛かった方が良いと思われる事業再編や人員再編
- 顧客ニーズにスピーディーに応えたい営業部門と、安全なものを納品したい製造・開発部門の確執
- 先行きの見えない既存事業から撤退できず、小手先のテコ入れに注力してしまう。
いずれも、それぞれの立場、それぞれの言い分、それぞれの物語、そしてそれぞれの正しさがあります。
「やっかいな問題」を乗り越えるもの
私たちコーチ・エィは、「『対話』を通じた組織開発」を提案しています。
それぞれの「正しさ」と「正しさ」がぶつかる「やっかいな問題」を乗り越えるには、コーチングに基づく「対話」しかないだろうと考えているからです。
「対話」とは、「私も正しい。そしてあなたも正しい」という前提に立った上で「さて、ここから我われ、どうしていけるだろうか?」を共に考え、見つけ、双方が腹落ちするまでの関わりのプロセスだと考えているからです。
ここには、コーチングに基づいた「相手への向き合い方」があります。
- 向き合うその時は、地位や年齢に関わらず「相手と対等であろう」とすること
- 「こちらの正しさ」はいったん脇に置き、「相手の立場」に立って話しを聞くこと
- 相手の目標達成に向けてどう進められるかを、「相手の物語」を聞きながら共に考えること
このような向き合い方をすることで、はじめて 「さて、ここから我われ、どうしていけるか?」のアイディアやヒントを共に見つけ出すことができると考えています。
このプロセスは、相手と自分との間に「新たな関係性をつくり上げていくこと」にほかなりません。
* * *
相手と向き合う面談の場でコーチングが行われている時とそうでない時では、互いの間に大きな違いが生まれることを示すデータがあります。
1on1のなかでコーチングを行うとどうなるか?
[調査対象:コーチ・エィのプログラム(DCD)に参加したリーダー/ 2,624人のSH 11,584人 調査内容:D-meter1回目・2回目/ 調査期間:2015年5月~2018年3月] コーチング研究所 2019年
1対1の面談で「相手が感じる効果」に着目したもので、この結果からは、コーチングが行われる面談では行われない場合に比べ、2倍以上の違いを相手が感じていることが分かります。
しかし、この「対話の技術」は、英会話や筋トレと同じく、一朝一夕で身につけられるものではありません。
相手とガチで向き合う覚悟を持ち、コンフリクトを恐れず、逃げず、場を持ち続け、フィードバックをもらいながら修正をかけていく。このプロセスが欠かせないのです。
これは、かなり忍耐の必要な訓練とも言えます。
次のコメントは、ある組織変革プロジェクトでコーチングによる対話を実践したリーダーたちから寄せられたものです。
- プロジェクトスタート時は、即座にこちらの言い分を話したくなった。社員一人ひとりが大事な役目をもっていることを感じてもらえるように関わるようにしたところ、互いに協力意識が生まれた。コラボやアイディアが増え、サポート態勢が高まった。その結果、商品販売のレスポンスが早まり、売上が上がった。
- これまでは言葉や文化の違う相手のことを勝手に諦め、私だけが奮闘していた。相手の話に耳を向けるうちに彼らへの期待が沸いてきた。同時に、相手からも意見や提案を言ってくれるようになっていった。気づくと、一緒に次の一手を考えようとしている自分たちに気づき、感動を覚えた。
* * *
「最後の課題」にむけた「対話の積み重ね」に投資する経営者がいる一方で、「そんな時間はない。スピードが求められる今の世の中、のんびりできません」という方もたくさんいらっしゃいます。
でも、それは本当でしょうか?
「対話をする時間がない」のではなく、「対話がないからややこしくなり、前に進まず時間がなくなっている」とは言えないでしょうか?
「最後のやっかいな問題」に発動できる「パワー」とは?
『7つの習慣』のスティーブン・R・コヴィー博士らとともに、コヴィー・リーダーシップ・センターを設立したひとり、ブレイン・リーは、著書『パワーの原則-影響力を発揮しつづけるパワーとは』で、人を動かすパワーには3つあると説いています。
- 「強制」のパワー
- 「実用」のパワー
- 「原則中心」のパワー
私なりに整理すると、「強制」のパワーは、字のごとく自分の望むことを他人に強制的にやらせることです。権威があれば機能します。
「実用」のパワーは、ノウハウや情報など、相手が必要としているものを持っていることで生み出されるパワーです。
そして、「原則中心」のパワーとは、「尊敬」のパワーとも言えます。
いかに相手から「尊敬」されるか。その度合いが高ければ高いほど人は動くということです。
そして「相手からの『尊敬』の度合いは、自分が相手を認める気持ち、尊敬している気持ちがどれだけ伝わっているかによる」ということです。
ビジネスでは、さまざまな場面で、リーダーシップの発揮を求められます。
そして、「最後のやっかいな問題」を抱えたそのときにリーダーが発動できる「パワー」には、3つ目の「原則中心」のパワー、すなわち「相手を尊敬する力」しか残っていないだろう、と私は思うのです。
そして、このパワーを使おうとしたときに求められるのが、まさに「対話の技術」だと思うのです。
あなたの「相手を尊敬する力」は今、どれくらい発揮されているでしょうか?
あなたはその相手を、どれくらい認め、どれくらい尊敬しているでしょうか?
そして、その気持ちをどう伝えていますか?
※ Driving Corporate Dynamism(DCD)は(株)コーチ・エィの登録商標です。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考資料】
※1 アルフレッド・アドラー
「人生の意味の心理学」の著書。フロイト、ユングと並ぶ「心理学の三大巨頭」の一人。
日本では、岸見一郎著『嫌われる勇気』などで広く知られる。
※2 ブレイン リー (著)、フランクリンコヴィージャパン(編集)、『パワーの原則-影響力を発揮しつづけるパワーとは』、キングベアー出版、2003年
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。