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リーダーとして、人の「妬み」にどう向き合うのか?

リーダーとして、人の「妬み」にどう向き合うのか?
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A氏は、困難な組織再建を成功させ、グループ子会社の社長に就任しました。

事業の勝ち筋を読み解く力、的確な経営判断、会議や1on1での丁寧な説明、古参の役員に対する遠慮のない指摘など、隙の無い鉄壁さを思わせるリーダーシップで「次のグループ社長候補」とまで噂されるようになりました。

複数の組織調査でも彼のイニシアチブに好意的な支持が多いことは明らかで、それは成功の予感を示していました。

少なくとも、A氏の元に、グループ代表から苦言が入るまでは...。

直属幹部たちの「本心」とは

「君は、やり方を変えた方がよいだろう」

着任して半年後、A氏は直属部下の幹部たちから強い「妬み」を買っていることを、代表の指摘によって初めて知ることになりました。

「妬み」とは、他人と自分を比較することで生じる感情です。

それ自体は、人の自然な感情といえます。しかし、「悪性の妬み」になると、人は成功を収めている人をその立場から引きずり下ろしたいとさえ思うようになるそうです。これは社員の生産性を低下し、非協力的な行為を増加し、グループの団結力を妨げるレベルにまで発展する可能性があります。(※1,2)

そもそもA氏は、直属の幹部たちに「自身の方針に共感してほしい」と望んでいました。いくつかのアセスメントでは、彼らは表面的には共感しているように見えました。

しかし、エグゼクティブ・コーチングの一環でインタビューをしてみると、彼らの本当の声は、共感とは程遠いものであることが分かりました。

「A氏は、僕らとは違う次元の人なんですよ。
失敗したことなどないだろうし、次のCEO候補にも選ばれているんでしょ。
少なくとも僕はそんなんじゃないから、共感と言われても難しいよね」

幹部らは、事業に厳しく、正しい経営判断をするA氏のことを認めてはいました。

一方で、厳しく指導・叱責されたことへの反感や、A氏と対峙するときに認めざるを得ない悔しさといった、いく分屈折した感情を抱いていることも伝わってきました。

直属の部下たちのインタビューをまとめた「生の声」に目を通しながら、A氏はつぶやきました。

「事業の成功は譲れませんから、私のスタイルを変えるつもりはありません。ただ、方針への共感を望む前に、『人として受け入れてもらう』方が先ですよね...」

事業方針を伝える以前に「等身大の自分」を見せずに尊大な印象を与え、「悪性の妬み」を生み出しているのは自分が原因だと考えたのです。

A氏には、研究員時代から事業責任者・経営者になるまでの間に数々の失敗をした過去がありました。そこから多くを学び、その延長線上に今がありました。

しかし、経営者としてリードすべき自分が弱さを開示するのは、信頼を損ねると考え、敢えてそれを伝えていませんでした。それが却って、有能で完全なエリートに対する「悪性の妬み」を喚起させたのかもしれません。

妬みのマネジメント

ハーバード・ビジネス・スクールのリサーチに、妬みのマネジメントについて、A氏の思惑とは逆の考察を導き出しているものがあります。(※1,2)

  • リーダーの失敗を知ったとしても、リーダーに対する評価が下がることはないこと
  • また、リーダーの地位に対する認識にも影響は与えないこと
  • ただし、この作用は、ある程度の成功を収めている人物に有効であること

A氏は、発表資料の冒頭に、新しいスライドを追加することにしました。

  • 材料分野で、一流の研究員を目指して入社したこと
  • 研究員時代の志が挫折し、苦悩し、退職を考えたこと
  • 研究員のキャリアに限界を感じ、事業家に転身したこと
  • 担当事業で大きな損失を生み出してしまったこと

これまで封印していたエピソードでした。

新しい資料を使った初めてのタウンホールミーティングの日がきました。

事業戦略と進捗の分析・指摘で始まるいつものスタイルをやめ、A氏の最近の気づきや、自分がどのようにしてここに来たのかなど、生々しい失敗談を織り交ぜたストーリーから始まりました。

常に周囲の助けがあって、前に進んで来れたこと、今も自分一人では、とても脆弱な存在だと感じていること、そういう「気持ち」で今ここにいること...。

正直な気持ちを語りました。

直属の部下たちは、頷くこともなく、いつもの通り、淡々と黙って聞いていました。

A氏は、アンケート結果を待ちました。

「Aさんのことを誤解していました」と言うコメントがぽつりぽつりと見られましたが、

特に目立った変化はなく、A氏は不安になりました。

ただ一点だけ、アンケートの回答率に大きな変化が見られました。以前30%だった回答率が、90%以上になっていたのです。

A氏は生の声を聞くために、速やかに1on1を実施しました。

その数週間後のことです。

幹部の2名が突然、A氏の部屋を訪問しました。

激しく対立し合っていた組織のトップ同士です。

その二人が、なんと、シナジーに向けた提案を持ってきたのでした。

また、変化することに頑なに躊躇し続けていたある事業部長からは、グローバル化に向けた具体的なプランの提案が上がってきました。

A氏に抵抗していた7人の部下のうち、4人が明らかに変化を見せ始めたのです。

* * *

人がつまずきや失敗を語る効果については、興味深い研究結果があります。(※1)

  • 起業家が過去の失敗談を語る場合、投資家は信頼のおけるプライドを感じ、傲慢ではなく自信があると感じる
  • その時、投資家は「悪性の妬み」ではなく、「温和/無害な妬み」を感じる
  • それは、温かく柔らかい感情と言うべきもので「この起業家は成功するにふさわしい人物だ」と考える気持ちを喚起する
  • 更に、自分自身の業績も高めたい、とやる気の感情を喚起させる

幹部たちが抱いていた「悪性の妬み」は、A氏の等身大のつまずきや失敗体験の共有を通じて解毒され、最後は、自身のコミットメントへと昇華されたのかもしれません。

「悪性の妬み」は、リーダーが直面しうる、最も難しい感情のひとつではないでしょうか。ともすると「難しく、避けたいもの」「目をつぶりたいもの」になりがちです。

しかし、勇気をもって向き合う価値がありそうです。

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【参考資料】
※1 Dina Gerdeman, 2018, Why Managers Should Reveal Their Failures
President & Fellows of Harvard College

※2 Karen Huang, Alison Wood Brooks, Ryan W. Buell, Brian Hall and Laura Huang, 2018
Mitigating Malicious Envy: Why Successful Individuals Should Reveal Their Failures
Harvard Business School WORKING PAPER SERIES

羨望がもたらす悪影響から組織文化を守る3つの方法~団結と信頼と寛容の文化をつくる~
ロン・カルッチ
ハーバード・ビジネス・レビュー オンライン 2019.10.28

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