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「好奇心」に満ちた組織をつくるには?

「好奇心」に満ちた組織をつくるには?
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1700年ごろまでの中国は、明や清の王朝による統治の下、世界で最も裕福な国家の1つでした。

しかしその後、西欧諸国が急速に工業化していくのに比して、衰退していきます。その原因の1つが「好奇心のマイナス収支」にあったのではないかと歴史学者のトビー・ハフは説いています。

中国のエリート層が「現状の成功」に満足し、西洋の新しい知識や技術への「好奇心」を持たなかったからではないか、というのです。(※1)

「好奇心」と企業組織の関係

国民の「好奇心」によって国家の盛衰が決定されるとしたら、企業組織も社員の「好奇心」の多寡が、その発展・成長を決定しているといってもおかしくはありません。

ハーバード・ビジネス・スクールのフランチェスカ・ジーノ教授の論文「好奇心を収益向上に結び付ける5つの方法」(※2)には、複数の業界の3,000人を超える調査で、92%の回答者が好奇心旺盛な人はチームや組織に新しい発想をもたらし、好奇心は仕事満足度とイノベーション、好業績につながると考えていることが紹介されています。

一方で「仕事をしているとたびたび好奇心が沸いてくる」という回答は約24%にすぎず、「好奇心」に満ちた組織つくりは、企業経営にとって大事な要素でありながら難しいテーマであることがわかります。

では、「好奇心」に満ちた組織は、どうしたらつくることができるのでしょうか?

「好奇心」はどのように生まれるのか?

「好奇心」とは「情報の空白」に対する反応だとカーネギー・メロン大学の心理学者のジョージ・ローウェンスタイン教授は説きます。

「知りたいことと」と「すでに知っていることの間に空白がある」と感じると、知りたいという「好奇心」がそこに生まれます。(※1)

ちょうど、完成近いジグゾーパズルのワンピースが抜けているような状態です。その空間を埋めようとする意識が強く働きます。

しかし、人は経験を積むと、実際以上に「自分は知っている」「わかっている」と過信する癖があるそうです。神経学者のロバート・バートンはこのことを「確信エピデミック」とよんでいます。

そこには「情報の空白」がなくなり、「好奇心」に火がつく機会は低下していってしまいます。

それでは、確信エピデミックの魔力を逃れ、「情報の空白」を顕在化するためには、どのようなセッテングが必要でしょうか?

質問と「好奇心」の関係

数年前、マネージャーが部下開発を促進するためのツールとして「部下に関する100の質問」をつくりました。

100の質問には、「私にとって成功とは?」「上司に私自身について知っておいて欲しいことは?」「私が人に誇れる仕事上の強みは?」などの質問が100個用意されています。

マネージャーは1人の部下を想定して、その部下になりきって100の質問に回答していきます。

このツールを複数の会社で何度も実施しましたが、全ての質問に答えられたマネーネジャーは皆無でした。そして、多くのマネージャーが、このプロセスを通して「思ったより、部下について知らないことに気づいた」そして「もっと、部下のことを知りたい」と部下への「好奇心」を募らせたのです。

「社員に会社の価値観を根づかせるにはどうしたらいいのか?」と頭を悩ませていた経営者にも、同じことが起こりました。

コーチングのセッション中に「社員は、会社の価値観について本当はどう思っているのか?」という問いが浮かんだ瞬間です。

その「質問」を起点に、
「どういう伝え方をすれば社員に想いが伝わるのだろうか?」
「社員は今、経営陣に何を求めているのか?」
「社員は今、経営チームをどう見ているのだろうか?」
など、その経営者の頭の中に、社員に関係する質問がどんどん湧いていきました。

そして、それらの質問を自問自答しながら、「社員について知らないことがたくさんある」ということに気づいていったのです。そして、もっと知りたいという「好奇心」が高まり、社員とスモールミーテングを始めるまでに至りました。

その後、社員と対話を重ね、社員への理解が深まるにつれて、会社の価値観を全社に根づかせる良いアイディアも手に入れたと言います。

どうやら、「質問」は「情報の空白」を顕在化するために役立ちそうです。

「質問」は「情報の空白」を顕在化させ、「好奇心」を生み出す触媒となります。

上司と部下が、あるいは同僚同士、または部門を超えて、お互いが「質問」を投げかけあうことが「情報の空白」を作り出します。そして「好奇心」を組織内に喚起させます。

そのことが、新しい行動や思考を、組織内に生みだす契機になるのではないでしょうか?

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【参考文献】
※1『子供は40000回質問する』(光文社)
イアン・レズリー(著)、須川綾子(訳)

※2 「好奇心を収益向上に結び付ける5つの方法」
フランチェスカ・ジーノ
ハーバード・ビジネス・レビュー 2018年12月号

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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