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異文化に持ち込んでいる自分の物差し

異文化に持ち込んでいる自分の物差し
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「中国人にも、日本人と同じようにコーチングできるものなのでしょうか?」

上海で日系企業の日本人マネジメント層の方々から受ける最も多い質問の一つです。

コーチングの三原則の一つに「個別対応」があります。

相手が日本人であろうが中国人であろうが、「人は一人ひとり違う」という前提にたち、相手に合わせてテイラーメイドで関わる、という考え方です。

この原則をお伝えすると「それも理解できるが、何か腑に落ちない」という反応をする方が多くいらっしゃいます。

「スジ」に沿う日本、「量」で考える中国

「考えずに話し始める」
「大げさな話が多い」
「余計な話が多い」

日系企業の駐在員の方とのコーチングで、中国人部下についてよく耳にするコメントです。

質問し、話を聞くというコーチング型アプローチを実践する中で、相手の反応に違和感を覚えることが多いようです。

90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事している田中信彦氏は、日本人と中国人の違いのひとつとして次のことを紹介されています。(※1)

  • 日本人は、話にスジが通っていること、つまり「規則」「ルール」「道徳的規範」など「こうするべきだ」といった「べき論」を重視する。
  • 中国人や中国社会は「現実にあるのか、ないのか」「どれだけあるのか」という「量」を重視する。

これをベースに考えると、日本人駐在員が中国人部下とのコミュニケーションで覚える違和感は、「よく考えてから発言すべき」「誇張せずに話すべき」「余計な話は避けるべき」という自分自身が無意識に持っている「べき」に反した時に生まれているのではないでしょうか。

田中氏はさらに、「問題は、自分自身の慣れ親しんだ判断基準をうまく運用できない相手を『出来が悪い』と思ってしまうことにある」とも指摘しています。

イライラの元は何か?

私のクライアントのAさんは、40代後半に初めて海外駐在となりました。

部下は全員中国人。人事労務問題で揺れ、一体感が薄れた組織をまとめることが彼のミッションでした。ミッション達成に向け、赴任直後から中国人幹部たちと1on1を開始しましたが、イライラが募るばかり。

イライラの原因は、「今までこんなにも多くのことをやってきた」という自慢話ばかりを彼らがすること。

その状況が続く中、自然と細かい指示・命令が増え、「自分は部下にとって話しづらい存在になっているのではないか?」と本人も感じるようになっていました。

そこで、「Aさんは、なぜ部下たちが話すことにイライラするのか?」をコーチングで扱ってみました。

その中で分かってきたのは、日本で育ってきたAさんは、「謙虚であること」を美徳として育ってきたこと、そして「人に自慢話などすべきではない」という「べき論」を持っていることでした。

目指すのは組織の一体感を高めること。しかし、このままではうまくいかない。

その後、Aさんはあることに気づきました。実は、彼らが話していることは自慢話ばかりでない、ということに。

よくよく聞き続けていくと、自慢話に聞こえるのは、話全体の3割程度。

それなのに、その3割が気になるあまりイライラし、他の話まで聞こえなくなっていた、ということにも気づきました。

「今も、自慢話をすることが良しとは思えない。ただし、自らをアピールすることが当たり前な中国の文化背景があることを知った今、話の全てを否定的に聞いてしまうことによって人間関係が築けないのはもったいない」

そう考えたAさんは、自慢話をするのは「悪い」のでなく、「違い」であると認識することにしました。

すると、徐々に相手の話を聞けるようになり、部下から食事に誘われるまでの関係に変化していったのです。

INSEAD(欧州経営大学院)教授のエリン・メイヤーは、文化の違いを可視化した「カルチャーマップ」を提唱すると共に、メンバーとそれぞれの文化の違いについて話し合うことを薦めています。

そして、次のようにも述べています。

「あなたのメンバーが同意するかは問題ではありません。大切なのは価値観や働き方の違いについて考え、話し始めることです。金魚が水の中にいることを意識していないように、人間も相手と比較しない限り自分の文化を認識するのは難しいのです」

23の省、5つの自治区、4つの直轄市、そして2つの特別行政区に約14億人、56の民族が暮らしている中国は、日本人には想像もつかないレベルのダイバーシティが存在しています。

日本で過ごしている限り、異文化対応の経験はある意味限られています。そこで、文化の異なる相手と直面した時の戸惑いは大きなものに感じるのかもしれません。

自らの文化背景の中で知らず知らずに持っている「べき」という物差しの存在を知ることで、共感こそなくとも、自分と異なる物差しが存在することを認識する。

そして、その物差しが目標達成の障害になっているならば、それをいったん「横に置く」ことが必要かもしれません。

異文化ダイバーシティのある相手とのコミュニケーションで、違和感を覚える時こそ、あなたの物差しを知るチャンスかもしれません。

あなたのポケットにはどんな物差しが隠れていますか?

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【参考文献】
※1  田中信彦(著)、『スッキリ中国論 スジの日本、量の中国』、日経BP、2018年

※2 エリン・メイヤー(著)、田岡恵 (監修)、樋口武志(翻訳)、『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』、英治出版、2015年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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