Coach's VIEW

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社長!あなたは、今週どんなふうにビジョンを体現しましたか?

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企業経営者や経営企画部門の方、コーチなど数名でコーチング勉強会を実施しました。その中でもっとも多くの話題を占めたのが「ビジョン浸透」についてでした。

数年前にコーチング研究所がコーチングを終えたエグゼクティブ100名超を対象としたアンケートでは、「コーチングによる効果」の1位になったのが「ビジョンが明確になった」(※)という項目でした。ビジョンについて日々考えているはずのエグゼクティブがそう回答するわけです。「ビジョン」を扱うことの重要性や難しさ、奥深さを思い知る結果です。

勉強会で盛り上がったのが、ビジョン浸透にまつわる「ありがちな前提」についてでした。

ビジョンの浸透を進めるときに、どうやら我々は「当たり前」と思い込んでいる「前提」に基づいて施策や対応を考える傾向があり、その「前提」が変われば「対応」も変わるのではないか、という話でした。

では、「ビジョン浸透」に潜む「前提」にはどのようなものがあるのでしょうか?

本コラムでは、「3つの前提」をご紹介します。

前提1:「告知すれば浸透する」という前提

大学院時代の友人が、大企業からベンチャー企業に転職しました。転職後、はじめて飲みに行った時に面喰らったことがありました。

彼が、今の会社のビジョンについて熱く語っていたからです。大手企業にいた20年間は、ただの一度も話題にならなかった話題です。そのことについて触れると、

「前の職場では、いたる所でビジョンについて書かれたものを目にする機会があった。けれど、文字情報だけでは自分事として捉えることがなかったのかもなあ」と。

ところが、スタートアップ企業では一人の人が複数の仕事に関わる傾向があります。彼自身も営業だけでなく、採用活動などさまざまな役回りをこなしているそうです。会社の社会的信用が十分に確立されていないため、前職とは比較にならないほどビジョンについて聞かれる機会が多いとのことでした。

彼曰く、「自分で喋れば喋るほど、言葉の一つ一つが腹に落ちてきて、最終的に自分の言葉で伝えられるようになってくる」のだそうです。

「ビジョンは『告知したら浸透する』ものではない。自分で喋り、言葉にすることではじめて腑に落ちる感覚がでてくる。ビジョンは、誰かと『喋って』いないと存在しても無いようなものなんだと思う」

彼が何気なく漏らしたその言葉が、私の中ではとても強く印象に残っています。

前提2:浸透「させる」という前提

「ビジョンで謳っている『信頼』や『創造性』を会社全体に浸透させたい」

「現場を仕切っているマネージャー層を中心にビジョンを理解させたい」

組織のリーダーのみなさんからよくお聞きします。

「組織を変えていきたい」「一人ひとりを活かしていきたい」という責任感を感じると同時に、どこか「させる」という表現が私の中で引っかかりを生んでもいました。

そんな中、勉強会に参加していたコーチから、興味深いシェアがありました。

「クライアントであるエグゼクティブがあまりにも『させる、させる』を連発するので、『では、あなた自身はどうなんだろう?』とふと思ってね。思わずこう聞いてみたんですよ。『A社長、あなた自身は、ビジョンで謳っている"フェアネス"をどのような形で実行されてみましたか?』と」

すると、立て板に水のように話をしていた社長が、一瞬にして沈黙したそうです。

自分は周囲に実行「させる側」であり、よもや自らも「共に実践する」とは夢にも思っていなかったようだ、とのことでした。

そのセッション以降、周囲に見えるA社長の印象が変わったそうです。

社長自ら「これらを我々がやる『フェアネス』とは具体的にどういうことだろうなあ」と幹部たちに問いかけ、一緒に考える機会が増えました。

社長の自分事のスタンスに役員メンバーも少なからず影響を受け、自分たちにもやれることがないだろうかと考え始めたそうです。

そして、ビジョンについての話題が役員の間でも発生するようになり、徐々に組織全体にも広がっていったということでした。

前提3:「未来に行うもの」という前提

以前、ある企業の事業部でビジョンの浸透を図るプロジェクトがありました。私は、その責任者である事業部長Aさんのコーチとして関わりました。

初回のコーチングで、彼は現状について語りました。

「ここまでの準備は順調に進んでいます。この後3カ月間は啓蒙用のパンフレットやカードといったツール類を作成します。イントラネットでの告知、社内報での啓蒙も予定している。そして半年後から、いよいよ本格的に社内でのビジョン浸透を図っていく予定です。きっといい感じで1年もすれば浸透していきますよ」

意気軒高で自信たっぷりの様子でした。私はその様子に、ちょっとした違和感を覚えました。

その違和感の正体は、「今は準備段階で、ビジョンは未来に実行するもの」という「前提」を事業部長が抱いていることでした。

そこで、この後1週間分のスケジュールをお聞きしました。そして、この1週間で事業部長なりにビジョンに掲げられた「リスペクト」や「誠実」に関することを実践できないか、質問をしてみました。

「明日の社内定例ミーティングで、相手に『リスペクト』を示す行動を取るとします。それは、具体的にAさんのどんな行動になりますか?」

「今日の午後、これから訪問するお客様が、Aさんと会って『誠実』を感じ取るとします。それはどういう行動をとった時だと考えられますか?」 

などなど。

Aさんは汗をかきながら、いくつもの予定の中で自分なりのビジョンの表し方、行動での表現方法について必死で考えていきました。

セッション最後につぶやかれました。

「ビジョンって、現在(いま)この瞬間から実行できるものなんですね」

「ビジョンを実行に移す未来を、今とは別モノであるかのような錯覚を抱いていました」 

「日々の実践、積み重ねが、最終的に大きなビジョンの実現につながるんだと思いました」

* * *

ここまで、ビジョン浸透にまつわる「3つの前提」についてご紹介しました。

「告知する者」から「喋る者」へ

「させる者」から「ともに行う者」へ

「未来に行うもの」から「現在(いま)から行うもの」へ

ほかにも沢山の「前提」が存在していることと思います。

この「前提」を変えていければ、これまでとはまるで異なる新しい視点や打ち手も見えてくるかもしれません。

皆さんの組織は、ビジョンの浸透に向けて、今どのような「前提」が目の前に横たわっていますか?

その「前提」をどのように変えていくと、どんな新しい視点や方法が手に入りそうですか?

※ここでは、将来的に「こうなっていたい、こうしたい」という組織や社会の姿を指し示す意図としての企業理念やミッション、バリュー等類似概念の総称として使用しています。

※コーチ・エィの中にあるリサーチを専門に行っている機関

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