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「とりあえず集まって話そう!」が残念な理由

「とりあえず集まって話そう!」が残念な理由
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「たくさんの人に会議で発言してもらう」
「クチコミを見比べてレストランを選ぶ」

一見、異なる2つの行動ですが、背景には共通して「集合知の価値」があると考えられます。

「集合知」とは、個人から情報を多数集めて組み合わせ、より高度な次元となった知性や情報のことを言います。

価値ある「集合知」を多く生み出せる組織は、高いパフォーマンスを発揮するでしょう。

しかし、ただ意見が多く集まれば集合知が生まれるか、というとそうでもありません。大人数が集まった会議でも良いアウトプットが生まれないことがあります。

それでは、「価値ある集合知」が生まれる場合、生まれない場合は、何が分水嶺となるのでしょうか。

「みんなの意見」は正しいのか?

2004年にジェームズ・スロウィッキーが書いた『「みんなの意見」は案外正しい』という書籍がベストセラーになり「集合知」が注目を集めました。この本の中で、経済学者ジャック・トレイナー教授による集合知の実験が紹介されています。(※1)

それは、大きな瓶に入っているジェリービーンズの数を多くの人数で予想するというもの。

正解は850個です。

56人の学生が自分の思う推定値を提出したところ、その平均値は871個となり、個々が出した推測値よりも正解に近い数字になりました。

この実験は、人が集まって意見を持ち寄ることで、正確に近いものが得られるということを示しています。

それならば、ネットで商品を購入する前にレビューの星数を見ることは、正確な評価を知るための参考になるはずです。しかし、レビューが増えれば増えるほど正確になるかというと、そうではないとネットワーク科学の世界的第一人者、アルバート=ラズロ・バラバシは言います。(※2)

* * *

バラバシの研究室を卒業したダーシュン・ワンは、17年にわたって2800万ものAmazonのカスタマーレビューを蓄積し分析しました。

その結果、星の数は社会的な影響によって大きく歪められていることが明らかになりました。

バラバシは、ジェリービーンズとAmazonのレビューには決定的に違う点がひとつあると言います。それは、意見を表明する前に、他の人の回答を知っているかどうか、ということです。

たとえば、ある商品を買って少し気に入らないところがあったとします。星3つだと思ってレビューを書き込もうとすると、他のレビューは全て星5つだった。そうすると、星4つ位かな、と評価を上げてしまうことが起こるのです。

こうして歪みが生まれ、みんなの意見が集まっても信頼の高い情報とはならないという事態となります。

ジェリービーンズとAmazonの研究結果から、「集合知をつくる」という同じ活動でも、そのプロセスによって「信頼できる情報」になるかどうかが違うということが分かります。

「最高のコラボレーション」を生む方法とは?

では、ビジネスの現場ではどうでしょうか。

多くの人の意見を集める場と言えば、真っ先に会議が思い浮かびます。

会議については、フラッシュメモリのコンセプトをつくり、イノベーションを生み出し続けるビジネスデザイナー濱口秀司氏がとても興味深い実験をしています。

濱口氏の実験では、参加した学生が7人ずつの3チームA、B、Cに分けられ、「60分間で積み木をつかってチームでひとつ、今までに見たことのない、面白い作品を作る」というタスクに取り組みます。

各チームには、作業を黙々と進める「ひとり作業」と自由に話せる「コラボレーション」の時間割合について、次のような指示が与えらました。

Aチーム
60分間すべてコラボレーション

Bチーム
40分間、ひとり作業
20分間、コラボレーション

Cチーム
20分間、ひとり作業
20分間、全員が自分のアイディアを発表。その後、ひとり作業
20分間、コラボレーション

3つのチームのうち、どれが優秀な作品を生み出したでしょうか。

60分経過後、参加者全員で目をつぶって、自分以外のチームで素晴らしいと思う作品に投票を行った結果、Cチームが一番票を集めたそうです。

濱口氏は、世界中で何回か同じ実験をしているが、Cパターンが「ダントツでいい」と言っています。

Aチームは、はじめからみんなでたくさん話し合う中で、面白いアイデアがいくつも出てくるそうです。しかし、「こんな視点もあるんじゃないか」と意見が飛び交うばかりで議論に終始し、アイディアが膨らみません。

濱口氏は、答えとロジックについて一人ひとりが責任を持って自分で考える「静かな時間」をもつことが、チームで最高のコラボレーションを生むために大事なことだと言います。

そして、同じ「静かな時間」をもつBチームでもなくCチームが成功するポイントは、一度アイデアを共有することで自分のバイアス(固定観念)を壊して、もう一度考える時間が持てることにあるそうです。

一人で考えを突きつめていると、気がつかないうちに、自分の中に「バイアス」ができてしまう。しかし、少しでも他の人のアイディアを見る時間をもうけることで、バイアスを壊し、新たな発想が生まれると濱口氏は言います。

「価値ある集合知」の創り方

ジェリービーンズ、Amazon、積み木と3つの実験結果をご紹介しました。

ここから分かるのは、「一人で考える時間」と「集団で考える時間」をどう組み合わせるかによって、「集合知の信頼性」が違ってくるということです。

とりあえず集まって「自由に意見を言ってみて」という会議は集合知が生まれない場合があります。

各自の意見が曖昧な状態だと、Amazonレビューのように最初の一人の発言に引っ張られた意見が続くかもしれません。また、積み木のAチームのような状態になり、良いアイデアが出ても議論に埋もれてしまう可能性があります。

集団でのコラボレーションは大切ですが、はじめに他人に左右されず、頭を絞って自分の意見を深め、明確にするプロセスが大事です。

「一人で考える時間」と「集団で考える時間」どちらか一方ではなく、両者を行き来しながら進めていくことが「価値の高い集合知」を生み出す鍵なのではないかと思います。

集団で考えようとする場合、一歩立ち止まって次のことを考えてみてください。

  • 参加者はどれくらい自分の意見を持っている状態だろう?
  • 自分自身は、どれくらい考えてから対話に臨んでいるだろう?

まだ意見を持てていない状態だと感じたら、話し始める前に、一人で考えを深める静かな時間をとってみることをおすすめします。

その後、話して意見を聞き合い、また一人で考える。この繰り返しが組織として「価値ある集合知」を生み出していくのではないでしょうか。

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【参考資料】
※1 『「みんなの意見」は案外正しい』(角川文庫)
ジェームズ・スロウィッキー(著)、小高 尚子(監修, 監修, 翻訳)

※2 『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』(光文社)
アルバート=ラズロ・バラバシ(著)、江口 泰子(翻訳)

イノベーションの『男女差』はなぜ生まれるか」 濱口秀司
濱口秀司さんのアイデアのカケラたち
ほぼ日刊イトイ新聞

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