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私の世界、あなたの世界

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「部下に何回指示しても、やってくれない。だから自分がやるしかないんです」
「これだけ言ってるんだから、ちょっとはわかってよって、心の中で叫んでいます」

コーチングで、クライアントから聞いたお話です。

かくいう私も、「こんなに話してるのに、なんで前に進まないのかな...」と、思わず嘆き節が出てしまうことがあります。

こうした「言っても伝わらない」ことは、人と人が一緒に仕事をする上で、頻繁に起こる問題です。

組織に潜む、膨大な「言っても伝わらない」こと

ハーバード・ケネディ・スクールで、リーダーシップ論の教授であるロナルド・ハイフェッツ氏は、「リーダーが解決できない問題のほとんどが、『技術的問題』ではなく『適応課題』だ」と言います。(※1)

「技術的問題」とは、既存の知識や高度な専門知識、構造、手続きなどによって解決できるもの、「適応課題」とは、そこに関与する人々の優先事項、信念、習慣、忠誠心を変えなければ対処できない複雑で、解決が困難な問題だと同教授は説明しています。

例えば、会議に20名のメンバーを招集することを考えてみます。

スケジュール調整ツールやカレンダーのリクエスト機能を使えば、簡単に招集することができます。ところが、なかなか出欠を入力せず、いつまでも未定で出欠がはっきりしない人によってスケジュール調整が進まないといったことは、「適応課題」と言えます。

埼玉大学の准教授で、経営学者の宇田川元一氏は、著書『他者と働く』の中で、「組織とは、そもそも関係性である」と述べています。

仮に100人の組織があったとすると、「1対1の関係性」は、4950通りある計算になります。

この4950もの関係性において、「適応課題」が発生すると、組織の成長スピードが鈍化することは容易に想像できます。

では、組織で多発しているであろう「適応課題」を越えるものは何なのでしょうか?

「適応課題」を阻むものは何か?

冒頭のクライアントとのコーチングを進めていく中で、彼の発言の背景に、「私は正しい。部下が間違っている」という、自分のみを正当化する「スタンス」があることが見えてきました。

もし2人の人が、互いに「私は正しい。あなたは間違っている」というスタンスに立っているとすると、どれだけ話しても、「言っても伝わらない」という適応課題は解決されないでしょう。

また、どちらか片方だけが、「私は正しい」というスタンスに立っていたとしても、片方の人は、「あなたは間違っている」と相手から否定されている印象を受け、最終的には「私こそ正しい。あなたの方が間違っている」となってしまうかもしれません。

「言っているのに伝わらない」という「適応課題」が発生する背景には、このスタンスが関係していそうです。

「私の世界」を越える

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、伊藤亜紗氏の著書『目の見えない人は世界をどう見ているのか』に、解決のヒントを見つけました。

この本は、視覚障がい者が、どのように世界を認識しているかを理解するために、4名の視覚障がい者の方との対談を通じて「目の見えない人は世界をどう見ているのか」を明らかにしようとしたものです。

この中で紹介されている一言に、私は衝撃を受けました。

それは、伊藤氏が、目の見える人にとっての想像力とは何かを説明しているときに、視覚障がい者の方が発したある一言です。

「なるほど、そっちの見える世界の話も面白いねえ!」

自分と他者との関係性について考えることができる、とてもパワフルな一言です。

先ごろ、伊藤氏の講演を聞く機会がありました。

その講演の中で、シンプルな「問い」が紹介されました。

「そっちの世界は、どう?」

これほど、他者の世界への興味を示せる「問い」があるでしょうか?

思わず問いかけてみたくなります。

「言っても伝わらない」という「適応課題」には、やはりそこに起こる理由があり、その理由は、私の世界ではなく、相手の世界の中にあることなのです。

この問いを問いかけてみたい相手は誰でしょうか?

とは言え、もし直接問いかけるのが難しいのなら、このコラムをお相手に転送し、対話のきっかけにしてみてはいかがでしょうか?

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【参考資料】
※1 ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティ・リンスキー、アレクサンダー・グラショウ (著)、 水上雅人 (翻訳)、『最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』、栄治出版、2017年

※2 宇田川元一、『他者と働く~「わかりあえなさ」から始める組織論~』、NewsPicksパブリッシング、2019年

※3 伊藤亜紗、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』、光文社新書、2015年

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