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VUCAを生き抜くために必要な5つの姿勢
コピーしました コピーに失敗しましたVUCA (不安定、不確実、複雑、曖昧)と言われる今、経営を着実なものにするために偶発性やエラーをできるだけ排除しようと考える経営者もいらっしゃいます。
人は、自分の確信が揺るがされると、身体への攻撃と同様の苦痛を感じるそうです。
ですから、脳を心地よい状態に保つために不確実性や曖昧さを排除しようとするのは当然のこととも言えます。
一方、自然界には「偶発的なエラー」によって成長が促進されたり、課題が解決されたりする事象が数多くみられます。
「良い偶然」を生む5つの要素とは?
たとえばアリの世界では、エサを見つけた働きアリが、そのルートをフェロモンで示します。他のアリは、それを手掛かりにエサを見つけ、住処まで運びます。
最も効果的なエサの獲得プランは、「いかに正確な道」をトレースできるか。
しかし、「正確な道」をトレースできるアリ塚よりも、時に道を間違えたり、寄り道をする「マヌケなアリ」がある程度存在する方が、エサの持ち返り効率が高まることが分かりました。
「マヌケなアリ」の「適度なエラーや寄り道」が最短なルート開発や生産性を高めるのだそうです。
自然界で起こっている「適度な偶発性」を、人の世界でももっと生かせるのではないでしょうか?
* * *
スタンフォード大学の心理学教授だったジョン・クランボルツによる「成功者のキャリアの8割は偶然によって形成されている」という理論があります。
同教授は、個人のキャリアは偶然起こる予期せぬ出来事に決定されており、偶発的な出来事は、本人の主体性や努力しだいで最大限に活用し変える事ができることを提唱しました。
私がコーチングをしたある経営者は、ある会合で「偶然に」知り合った生け花の先生に、突如、生け花を習い始めました。
しばらくして感想を聞くと「ご縁だと軽い気持ちで始めたのですが、生け花は、経営者として物事を立体的に捉える視点を磨くのに役立っているように感じます」と仰っていました。
クランボルツ教授は、キャリア形成につながる「良い偶然」を引き起こす要素を5つあげています。
それは、「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」の5つです。
449回のエラーを越えたチーム
半世紀も前のことですが、ユニリーバの洗濯洗剤が高圧噴霧用ノズルに目詰まりを起こしました。
流体力学や高圧システムなどの専門家チームが集められ、あらゆる角度から調査・分析しながら原因究明をしました。しかし目詰まりは改善されず、失敗に終わりました。
そこで、やぶれかぶれでとったのが、領域のまったく異なる生物学者チームに助けを求めることでした。
この門外漢のチームは、問題のあるノズルを10個用意し、わずかな変更を加えながら検証を重ねました。そして、わずかな小さな成功を見つけると、それをベースに改良を重ねました。
その地道な作業を繰り返すこと45世代目。449回のエラーから、ようやく満足できるノズルの改良版を作り出しました。
彼らが行ったのは、たくさんの失敗を「是」とすること。そして、そのプロセスの中で起こる「偶発性」すなわち「小さな成功」にかけることでした。
このチームには、先の「良い偶然」を起こす5つの要素が備わっていたと言えます。
- 専門外の分野に対する「好奇心」
- 未知なるものへの「冒険心」
- 粘り強く続ける「持続性」
- 逆境もポジティブに捉える「楽観性」
- 変化に対応する「柔軟性」
冒頭に述べたように、VUCAが前景化するいま、リーダーは無意識にも確実性を求め、偶発性や曖昧なものを排除しがちです。
しかし、リーダー自らが、偶発性に信頼を置くことこそが、自身と組織の進化を育む契機となるのではないかと私は考えます。
過去に私が出会ったノーベル賞受賞者や経営者には、家とオフィスの行き来を毎日異なるルートにしたり、月に一度、ビジネス書以外のコーナーで目をつぶって手にした本を購入したりすることを習慣にしていた人たちもいらっしゃいました。
頭では「偶発性は大事」と分かっていながら、無意識に排除してしまっていることは無いでしょうか?
あなたはどこで「偶発性」を育みますか?
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【参考資料】
・山口周、『武器になる哲学』、KADOKAWA、2018年
・マシュー・サイド(著)、有枝春(翻訳)、『失敗の科学』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年
・J.D.クランボルツ(著)、A.S.レヴィン(著)、花田光世(翻訳)、『その幸運は偶然ではないんです!』、ダイヤモンド社、2005年
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