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「対話の倦怠期」を乗り越えるには
2020年01月22日
エグゼクティブ・コーチングを受ける経営者の多くがコーチとの「対話」を有益に感じ、ご自分の部下と1対1の時間をもたれます。そして、
「相手が嬉しそうに沢山話してくれた」
「知らない一面を知ることができた」
と手ごたえを感じ、張り切って取り組まれたものの、しばらくするとこんな心境を吐露されます。
「次に何を聞いたらいいか悩んでしまう」
「気づいたら、いつもと同じ仕事の話しかしなくなっている」
「部下がつまらなそうにしている」
そして、このまま「対話の時間」をもち続けていいものかと考え始めます。
「倦怠期」は健全なもの
これと似た状況、似たような経験...そうです!
毎日ドキドキしながらデートを重ねていたカップルにやがて訪れる「倦怠期」です。
辞書によれば 「倦怠期」とは、飽きて嫌になる時期。
夫婦のような長い付き合いの中で起こる現象だとすると、上司と部下の「対話」に起きる倦怠期も時間を重ねたからこそ起きる「健全なもの」と捉えることができるのではないでしょうか。
では、それにどう立ち向かっていくのがよいのでしょうか?
* * *
全社をあげて、新規事業の創出に取り組む製造業の社長Aさんも、自身のエグゼクティブコーチに刺激を受け、部下との「対話」に挑まれた方の一人です。
Aさんは、新規事業の創出には、5,000人の全従業員の意識と行動の改革が必須だと考えています。
ただ、長年にわたり大手企業からの依頼に応じて大量生産し続けてきた習慣から、会社全体が受け身体質にありました。ここからの脱却には事業部長がキーになると考えたAさんは、5名の事業部長と個別に「対話」の機会を持ち始めたのです。
その効果はすぐに出始めました。
事業部長たちが次々に
「会社のビジョンを自分の言葉で表現できるようになった」
「会社の体質について部内でディスカッションするようになった」
「部下に権限を委譲し、新規開発にむけた時間を確保できるようになった」
など、自身のさまざまな変化を口にするようになったのです。
しかし、その対話の時間も、やがて「倦怠期」に。
「聞きたいことはすべて聞いてしまった。何を聞こう?」「いつも同じことを質問されると思われていないか?」「部下たちはすでに自分で考え、行動をしている。私との対話の時間は不要なのではないか」など、Aさんは悶々とし続けました。
そんなAさんに、エグゼクティブコーチが提案しました。
「事業部長に、直接聞いてみてはどうでしょう?」
「倦怠期」からの突破口
Aさんは、部下たちに思い切って聞きました。
「この時間がどんな時間になると、より有益な時間となりますか?
後で振り返るための"問い"を、事前に一緒に考えませんか?」
事業部長は、いつもと毛色の違うAさんの質問に一瞬面食らっていましたが、少し考えた後意見を出し始めました。
- 言いにくいことでも、本音で話すことができたか?
- この「対話」は、自身の新たな一面を知ろうとするものだったか?
- この「対話」で、新たなチャレンジを明確にしたか?
- 次回の「対話」で、成果を話せるイメージはあるか?
など、たくさんの「問い」を作ることができました。
Aさんは、こうした「事前の問い」を相手と一緒に考えることで、「対話を一緒により良いものにしよう」という同志のような一体感が生まれたとおっしゃっていました。
エグゼクティブコーチがしている「コミュニケーション」の振り返り
今交わしているコミュニケーションが、お互いに利益を生み出しているかどうかを当事者同士でチェックすることを「メタ・コミュニケーション」といいます。
会社の存在意義から中期経営企画、目の前の課題など、コーチングで繰り広げられる広範なトピックの中から、より探索的に成果創出に向けた「対話」を重ねるエグゼクティブ・コーチングでは、特に重要なもののひとつです。
話しながらどんなことを感じているのか?
どのようなことに気づいているのか。
この「対話」は役に立ったのだろうか?
自分たちが交わしてきたコミュニケーションを客観的に振り返ります。
自分の立場になったり、相手の立場になったり、両方を同時に観察できるようになると、「対話」を建設的な方向へコントロールすることができるようになります。
部下との対話に「倦怠期」を感じたら、「メタ・コミュニケーション」のための問いを一緒に考える。そうすることで、2人の「対話」はより有益なものになるはずです。
「対話の倦怠期」に立ち向かうメタ・コミュニケーションに、相手をどう誘いますか?
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