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異文化チームを成功に導くシンプルな戦略

異文化チームを成功に導くシンプルな戦略
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Language: English

多国籍メンバーから成る異文化チームを率いるリーダーに出会う中で、海外経験や文化に関する知識などが、必ずしもチームの成功を左右する要因になるわけではない、と感じることがあります。

はじめての海外赴任で成果を上げる方もいれば、豊富な海外経験をもちながらも、異文化の壁に苦心し続けるリーダーもいます。

ダイバーシティな環境でチームを成功に導くリーダーシップとは何なのでしょうか?

「異質な場面」が脳に起こす反応

そもそも、多国籍メンバーによる「異文化チーム」のマネジメントは、なぜ難しいのでしょうか?

多国籍で異文化という「異質な場面」は脳のメカニズム的に、人にとって概して「恐怖」な体験になるようです。

新しい環境で悪戦苦闘しているとき、人には危険な区域に入ったハンターや兵士と同じ「反応」が生じるものであることが数々の研究から分かっています。(※1)

つまり、「新しい環境」では、大脳辺縁系の脅威を司る中枢の「扁桃体」が直ちに活性化し、周囲の人たちのことを「予測不可能で怪しいもの」とみなすよう制御されるのだそうです。(※2)

文化の種類や内容がどうであれ、その人にとって「新しいもの」「不慣れなもの」は、瞬間的に扁桃体からストレスが誘発されます。見慣れないはじめての相手の態度や言動を「個人攻撃」だと解釈するメカニズムが作動するのです。

そして、その対象について「敵か? 味方か?」を判断することで、自己防衛をするのだそうです。

その結果、

「アメリカ人は、みんな~」
「やっぱり、中国人は~だ」
「インド人のパターンは~」

といった「反応的な言動」を生み出していきます。

冷静に考えれば、「アメリカ人」という人はいませんし、「インド人」も一人ひとり異なります。

つまり、新しい、見知らぬ文化に対する洞察を進める以前に、脳の扁桃体がバイアスをかけ、恐怖体験を解毒する形で国や文化の違いを「言い訳」として使ってしまうのです。

こうしてみてくると、文化的な多様性に関する知識を提供する研修は、たしかに、事前学習によって恐怖体験を緩和する狙いがあるのかもしれません。

ただ、実際のシリアスな場面に直面すると、その事前知識が、かえって私たちの「視点の柔軟性」を奪うこともあるようです。

芯を食わぬ議論を打破した、女性役員の一言

私のかつてのクライアントA氏の組織は、クロスボーダーでの買収を通じて、一気にビジネス面・文化面で、ダイバーシティに向き合うことになりました。

8名の経営チームは、5カ国の異なる文化的多様性を持ち、幹部同士の相互理解がうまく進まぬ様子は傍目にも明らかでした。

文化的な相互理解が不足しているのではないか、と考えたA氏は、日本の伝統的文化の紹介と共に、異文化理解に関する合宿研修を開催しました。

しかし、研修が始まるや、A氏の懸念していたことが噴出し始めました。

互いに相手を攻撃しないための回りくどい説明や、自分の領域を守るための過剰な背景説明...。

「さっきの講義にもあったように、米国と日本はこう違うので...」
「中国市場には、独特な商習慣があり...」
「日本との文化の違いが...」

発言のたびに多くの前置きやエクスキューズが加わり、芯を食わない議論を通じて、8人は静かにバラバラになっていきます。

その重さに耐え切れず、A氏は突然、休憩時間を挟みました。

休憩の直後、今度は人事領域を担当する女性役員が、唐突に話し始めました。穏やかな口調で彼女が差し出した意見は、その後の場の方向性を変えることになりました。

「そろそろ、ビジネスの話をしませんか?
私たちが話題にすべきは、『文化の違い』ではありません。
チームでどう結果を出せるか、です。
そこに焦点を合わせませんか?
また、1つ提案です。
発言するときに、『日本人』『アメリカ人』ではなく、
人物や部署を特定した議論をしませんか。
誰がどんな役割を果たすのか、それを具体的に話すのが生産的です」

場は、一瞬、凍り付いたかのように静まり返りながらも、うつむき頷き始める人たちの姿も見えました。

後から聞くと、この女性役員は、度重なるクロスボーダーM&Aを経験する度に、文化の違いが相互理解の対象ではなく批判や正当化の材料にされるシーンを経験してきたそうです。

そういう時こそ、本来の目的、すなわち実現したいビジネスに立ち返ることそして、解決しがたい人種や文化の特徴を議論するのではなく、ビジネスの成功とそこでの各人の役割から目を離さないこと。

それが、彼女の見出した解決の鍵でした。

ダイバーシティを成功に導くリーダーは、何を見ているのか?

多国籍で異文化な環境でチームを率いる難しさを感じるときこそ、自分が今、リーダーとしてどこに焦点を当てようとしているのか、そこをじっくりと観察してみる価値はありそうです。

異文化という「異質」な面に焦点が当たっていたら、脳は、その機能に忠実に防衛反応を創り出している可能性があります。

一方で、私たちには、新たな焦点を創り出す意図的な選択の余地も残されています。

焦点の選択に、反応を持ち込むのか? 意図を持ち込むのか。

多国籍で異文化な環境の下でチームを成功に導くリーダーシップの可能性は、そこにあるのかもしれません。

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【参考資料】
※1
Cross-Cultural Leadership Skills Are Not What You Think
May 10, 2018
Gabor Holch
2018 Chief Learning Officer ? CLO Media.

※2
Robert Maurer, “One Small Step Can Change Your Life”
The Kaizen Way
邦訳:「脳が教える 1つの習慣」

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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