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主観が未来を創る
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「君の気持ちなどどうでもいい。やるべきことをやってくれ!」
マネージャーになってから、部下にこのセリフを何回言ったか分からない...。
とあるマネージャーがつぶやきました。
マネージャーは、組織の目標や未来、部下の実績のためにこのセリフを言うのだと思います。
これは何も特別な例ではありません。私たちの日常には、生産性と引き換えに本人の「気持ち」や「想い」といった「主観」をなおざりにすることが時々起こっているように思います。
なぜ「主観」はなおざりにされるのか
「あなたの意見は主観が入りすぎていますね」
「もう少し客観性が欲しいね」
「それは君の主観だよね」
ビジネスの世界ではとくに、主観的なものを排除し、客観的にものごとを見ることが求められる傾向にあるのではないでしょうか?
「主観」は学術的なエビデンスのように一般化して捉えることが難しいというのも理由のひとつでしょう。
「必要なのは客観的な情報。主観的なものは無意味」と。
一方で、私たちは「主観」に基づいて生きる生き物です。
私たちの五感はすべてが主観であり、「人」は自分を中心に「主観の世界」で生きているわけです。
「主観」とは、その人が感じていること、思っていること、つまり「その人が体験していること」のすべてだと言えます。
もし、自分の「主観」が大切にされなかったらどうでしょう?
その時の感覚は、あまり良いものとは言えません。それは「自分自身」が大切にされていないときに感じるものと、ほとんど同じだからです。
離職率の上昇を止めた部長は何をしていたのか?
ある病院スタッフから、興味深いエピソードを聞きました。
他部署の人たちや患者さんたちから「明るくて優しい」と評判だったマネージャーが、ある時部長になりました。この部長のマネジメントは、次のようなものでした。
- ミーティングはできるだけ短い時間で終わらせる
- 発言したり、結論を出したりするのは限られた一部のスタッフに限っている
- 半期に一度の面談をやらずにすませることもある
- 部下のキャリアプランについては、本人よりも部長の主張が強い
- 面談後、部下は「丸め込まれた」「話したことを全くわかってくれない」と思ってしまうことがある
この部署では、その年にスタッフの半分が退職したそうです。
そこで、別の部長が就任しました。この人は、「やり手、厳しい、怖い」と病院中で評判の人物。この人のマネジメントは、
- 私は「この部署を○○にする」と自分の実現したいことを示す
- それについて、スタッフ全員に発言の機会を与える・どんなに忙しくてもミーティングの時間を十分に確保し、話し合うことを大切にする
- 半期の面談以外に、廊下で会うと少しの時間でも話す
- 相手の話に重きをおいてスタッフの主張を一生懸命聞く
というものでした。そして、この年は、1人の離職者も出なかったそうです。
メンバーの離職を左右したのは、「明るい・優しい」や「厳しい・怖い」といった部長本人の雰囲気やイメージではありませんでした。部下との間で意図的に「会話をしている」という点が大きく影響したのではないでしょうか。
「主観を大切にする」とは?
全国に店舗展開している企業で「店長のコミュニケーション」を調査したところ、「売り上げが高く、離職の少ない店舗の店長」の特徴に「インフォーマルな会話をしている」「レスポンスが早い」「個別対応をしている」「考えさせる質問をしている」「権限委譲している」といったものがありました。
「インフォーマルな会話」とは、自分自身のことや、体調、プライベートといった仕事以外の話題。つまり、自分自身のこと、「主観」について、部下が話せる状態をつくっているということです。
感情や想い、考え、意図、解釈などの「主観」を、わたしたちは「言葉」というシンボルを使って相手に伝えようとします。
お互いの理解を深めるためには、そのシンボルに込めた背景、想い、意図、解釈などを具体的に聞く必要があります。
そうした対話を可能にするのは、「自分の主観を言っても大丈夫。相手の主観を聞いても大丈夫」という心理的安全性をお互いの間につくることです。
相手の想いを聞く
自分の想いを話す
そして、お互いを理解する
時に主観と主観がぶつかり合うことがあるかもしれません。しかし、お互いの主観に価値を置き、まずは相手の想いを受け取る。
この対話のプロセスの中でこそ、それぞれの「主観」は影響し合い、変容していくことが可能になります。
「一人の想い」が、形を変えてお互いの「新しい想い」に変わる。
「相手の問題」が、二人の「共有すべき問題」に変わる。
「部下の成長課題」が、部下本人の課題ではなく、上司と部下が協力して取り組むべき「二人の課題」に変わる。
「自分一人のささいな思いつき」だと思っていたことが、対話を経て発展し「会社全体の取り組み」に変わる。
相手を人として大切にする。
それは、未来に向けて変化を起こすことにつながるのだと思うのです。
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