Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


非常時には「センス・メイキング」

非常時には「センス・メイキング」
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

新型コロナウイルスが猛威を振るい、実体経済や私たちの日々の生活に大きな影を落としています。

このような非常事態の中、組織を存続、発展させるために、どのようなリーダーシップが求められているのでしょうか?

2011年の東日本大震災で未曾有の危機を体験した福島第二原発の増田尚宏所長の400人のメンバーとの関わりに、そのヒントがありました。

危機を前に、所長は何を「やめた」のか?

福島第一原発がメルトダウンとなった当時、10キロ離れた第二原発も危機的状況を迎えていました。しかし、第二原発は、原子炉内の最大圧力が基準値を超える2時間前に、冷却システムの復旧に成功します。

ハーバード・ビジネススクールの教授ランジェイ・ガラディらの論文には、増田所長とメンバーが、計り知れない不安と疑念を抱きながらも、この難局をいかに乗り越えたのかが記されています。

増田所長はまず、メンバーから入ってくる情報を吟味し、危機内容を随時チャートにまとめていきます。そして、チャートに新しい情報を書き加えながら、いつものように熱弁をふるったり、命令したりすることを「控えた」のだそうです。

その代わり、データや情報を示し、メンバー一人ひとりが、不安と向き合い、新たに迫りつつある現実をどう解釈するのかを考えるよう促しました。その上で、各チームがどこで、何をすべきか、指示を与えたそうです。

こうして予期せぬトラブルが発生するたびに、メンバーとその状況を適宜見直しながら、対応について共通の理解・解釈を得るようにしました。

このような関わりによって、増田所長とメンバー各自は、今起こっていること、起こりつつあることを一緒に理解し、その事態に対応するようにしていったのです。

この結果、彼らが目標や希望を見失うことは最後までなかったそうです。

ガラディ教授たちは、こうした増田所長とメンバーの行動を、組織理論学者のカール・ワイクが唱える「センス・メイキング」が発揮された例だと説きます。

「センス・メイキング」は、日本語に訳すと「意味付け・納得」となります。

ある事態に対して「いま何が起きているのか」「自分たちは何者なのか」「どこに向かっているか」について「意味付け」をするプロセスです。

非常事態や危機が発生すると、これまで慣れ親しんだやり方や経験則が使えない状態に陥りがちです。

たぶん、増田所長とメンバーも、通常の危機回避訓練をはるかに超える事態に対して、従来の経験則や前提による説明ができず、コントロールできない状況に陥ったはずです。

そこで、彼らは、自分たちの経験則や解釈によって、反応すること、対応することを一旦「やめた」のではないでしょうか。

そして、その事態に対して自分たちがやるべきこと、その後に起きうることの推察を繰り返しながら、不確かな現実を一つずつ理解、納得し、新たに意味づけしながら行動していったのでしょう。

このような「センス・メイキング」の考え方は、非常事態ばかりでなく、「見通しの難しい、変化の激しい世界」で組織やリーダーに必要とされることのように思えます。

「存在価値」を新たに問う

エグゼクティブ・コーチングをさせていただいた、あるメーカー企業のお話です。

変化が求められる中、お客様へ提案する内容に新鮮味がなく、受注も伸び悩んでいることに社長は問題意識を持たれていました。

そこで、数人の営業のキーメンバーと直接対話する時間をとり、自社の存在価値を聞いてみることにしました。

すると、ある社員は「技術力」と答え、ある社員は「長い伝統」と答える。中には、「うーーーん...」と言ったまま無言になってしまう社員すらいることに、社長は唖然とします。

そして、自社の「存在意義」が明確でないことが、社員の意識や行動にも影響を与えているのではないか、と考えるようになりました。そこで、キーメンバーを中心に、改めて自社の存在価値を考え、対話する時間を創ることにしました。

  • これまでに、お客様に「最も喜ばれた」私たちの提案は何であったか?
  • 私たちが自社について「自慢したいこと」は何か?
  • 100年後の世にも提供し続けていきたい私たちの「価値」は何か?

こうした問いを通して対話を重ねるうちに、メンバーたちの間で歴史と最高の技術力をもって「クライアント企業の変革を促進する」という言葉が出てくるようになっていきました。

その後、ことあるごとに、この新たな存在価値を社員全員の「真ん中」において、自分たちの言動を見直す対話を繰り返すことを続けました。

そうすると、これまでの提案よりも、クライアント企業から「OK」の出るスピードが早くなり、評価も上がっていったのだそうです。

組織を存続、発展させていくために、今こそリーダーに「センス・メイキング」の力が問われているのではないか、ニュースを見ながら、そう思います。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
・「そのとき、福島第二原発では何があったか ~不測の事態で発揮されたセンスメーキング~
ランジェイ・ガラディ、チャールズ・カスト、シャーロット・クロンティリス
ハーバード・ビジネス・レビュー 2014年11月号 ダイヤモンド社刊

・入山章栄、『世界標準の経営理論』、ダイヤモンド社、2019年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

リーダー/リーダーシップ 危機対応/リスクマネジメント

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事