Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
今、リーダーは何をすべきか?
コピーしました コピーに失敗しました新型コロナウイルスが拡大するなか、リーダーとして社員やメンバーに何を伝えるべきか、語るべきか、誰もが頭を巡らせているテーマだと思います。
私も、その一人です。
今回は、そのヒントになりそうなデータや情報をご紹介します。
経営幹部は今、何に直面しているのか?
先日、赴任先のタイで日系企業の経営幹部の方々がオンラインで集まり、今まさに直面していることについて意見交換をしました。
- リーダーとして、役員や社員たちとこの危機感をどう共有していくと良いか?
- 在宅勤務の長期化で、組織や社員間の関係性にはどんな変化が起きているのか?
- この状況下で社員を成長させるために、我々リーダー自身は、どのように変化していく必要があるのか?
- 危機の収束後、組織の在り方はどのように変化するだろうか?
- コロナ前後で、リーダーシップをどう変えていく必要があるだろうか?
場はとても活発で、示唆に富んださまざまな意見も出ました。
そして、司会を務めながら私が強く思ったのは、「コロナや世界経済といった状況云々に関わらず、『社員の主体化』はリーダーにとって常に最重要事項のひとつだ」ということでした。
そんな中で、複数の方が口にされた、ある発言が心に残りました。
「日本の本社からは『未曽有の危機を全員で認識し、ピンチをチャンスと捉え、変革を起こそう!』というメッセージが届きます。でも緊張のただ中にいる社員たちが、そんな単純な言葉で動けるわけもない。どうしたらいいのか分からない...」
危機感の共有・喚起によって変革を推し進めることは、経営においてよく行われることです。
しかし今、それはまったく通用しない。この世界的な危機を前に社員が動くには、どうしたらいいのか?
そんな心の声を感じました。
そして、コーチング研究所のあるリサーチ結果を思い出しました。
主体的なアクションは何から生まれるのか?
このリサーチ結果は、コミュニケーションレベルが同程度のリーダーにおいて、「組織の存在意義や目的、ビジョンといったパーパスを示すリーダー」と「パーパスをあまり示さないリーダー」について、部下の状態を比較したものです。
データから分かることは、「パーパス」を示し部下と対話するリーダーの方が回り道のように見えても、部下が主体化し組織変化がより力強く起こる、ということでした。
「変わろうよ」「挑戦しよう」と言うだけでなく、「そもそも我われは何のために集っているのか?」といった組織の存在意義やビジョンといった「パーパス」について「共に考える場」をもつ企業や組織の方が変化を生む、ということです。
同様のことが、IMDのトーマス W. マルナイト教授らの研究でも示されています。
彼らの研究では、過去5年にわたり、年30%超の成長を続ける高成長企業の際立つ特徴として「経営戦略の中心に『パーパス』を置いている」ということが分かりました。
この研究では「パーパスを単なるお題目でなく、徹底して追求すること」、すなわち次のような項目が常に「YES」であることが必要だと唱えています。
- パーパスは、戦略的決定や投資の選択に大きな影響を及ぼしているだろうか?
- パーパスは、会社の組織能力の構築や管理の仕方に影響を与えているだろうか?
- パーパスは、絶えず、経営陣の重要な課題になっているだろうか?
たしかに「ビジョン浸透」や「WHYを問う」といったことは、これまでも何度も繰り返し唱えられてきたことです。
しかし私自身、いま、部下一人ひとりの顔を思い浮かべた時に、崇高なパーパスを伝えることが誰にでも有効なのか? という疑問が残りました。
変革に向かうときに有効な「リーダーの関わり方」とは?
コーチング研究所のレポートに、「変革に向けた組織づくり」に必要なリーダーシップに関するものがあります。
これは、社員の「主体性が高い時」と「低い時」では、有効なリーダーの関わり方が大きく異なることを示しています。
社員の主体性を高めたいとき、彼らの「変革に向かおう」とする気持ちは、単に「パーパスを理解し合う」ことのみから生まれるわけではなく、まずは互いの間に「コミュニケーションを積み重ねる場をつくる」ことから始まることを示唆していると言えます。
さて、先ほどの会議終盤。
リーダーの皆さんからは、たくさんのアイディアが出てきました。
- 「いま、うちの社員たちは、ビジネスそのものが先行き不透明で、不安な中にいます。でも、だれも正解が分からない。だから少なくともリーダーたちには、より正しいと思える解を探して、果敢に行動しよう、と言い続けています。提案は遠慮なく上げてくれ、違うと思ったらすぐ変えよう、私の方針も、朝令暮改もあるかもしれない、と」
- 「うちはまず、とにかく雑談やなんでも相談できるように、テレビ会議上でバーチャルコーヒーブレイクをはじめました」
- 「今回のことで、今のビジネスモデルが確実に終わり始めました。逆戻りできないと皆、分かっています。全社員に、自分たちの大切な価値は何か、変えるものと変えないものは何かを発信しました。間のリーダーたちには、部下と『ここから、自分たちのやり方を変えていこう!』と話し合いを始めてもらっています。『未来を変えるためにやれることは、いっぱいありそうだぜ』と」
今、あなたがリーダーとして社員に最も伝えたいことは何ですか?
部下と、何年先の未来に向けて対話しますか?
その対話を、どのようにはじめますか?
調査概要
組織のパーパスを真ん中においた組織開発
調査対象:リーダー161人の部下2,220人
調査内容: Leadership Assessment(LA)
調査期間:2012年9月~2018年2月
変革に向けた組織をつくるリーダーシップ
調査対象:リーダー854人の部下9,117人
調査内容:Leadership Assessment(LA)
調査期間:2012年9月~2018年2月
コーチング研究所 2020年
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【参考資料】
「パーパスを戦略に実装する方法 ~自社の存在意義を見直し、提供価値を再考する」
トーマス W. マルナイト アイビー・ブッシュ チャールズ・ダナラジ
ハーバード・ビジネス・レビュー 2020年3月号
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