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こんなときこそコミュニケーション能力は進化する

こんなときこそコミュニケーション能力は進化する
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Language: English

年が明けても、新型コロナウイルスの感染拡大は止まりません。リモートワークが推奨され、人々は家に閉じこもり、人と人とがリアルに触れ合う機会はますます減っています。

社会に大きな変化をもたらした新型ウイルスの出現は、私にとってコミュニケーションの重要性を改めて考える機会になりました。

高性能センサーとしてのからだ

先日、人の感覚、特に皮膚の機能に関するさまざまな実験を紹介しているテレビ番組を観ました(※1)。その中に、同じアニメ映画に人間の耳に聞こえる音域のみの音声情報を入れたものと、それ以外の音域も入れたもので、人の感動の度合いに違いがあるかどうかを調べる実験がありました。後者のほうが大きな感動を与えているというのです。

人は「耳」だけではなく「皮膚」でも音を聴いていて、耳で聴き取れない豊かな音域を肌で感じているそうです。つまり、私たちは、からだ全体を高性能センサーにして外界とコミュニケーションをとっているわけです。

しかし、私たちは今、ウイルスの感染拡大を避けるために、他者との接触を可能な限り避けなければいけない状況にあります。社員やお客様とのコミュニケーションも「画面越し」になりました。コロナ禍によって、私たちが高性能センサーの能力をフルに発揮することが難しくなっていると言えます。まるで新型コロナウイルスが、私たちのコミュニケーション能力の低下を企んでいるかのようです。

そんな中、私は、ウイルスの企みに屈するのではなく、この状況を逆手に取って、センサーの感度をさらに上げることはできないものかと考えるのです。

リアルの世界であろうと、画面越しの二次元の世界であろうと、音声のみの世界であろうと、五感や六感をさらに研ぎ澄まし、高性能センサーの精度を高めて、相手に起こっているリアルを感じとる能力を身に着けることができたら、どんな世界が広がるでしょうか。

見ること、聞くこと、触れること

コーチングの重要なスキルに、「アクノレッジメント(acknowledgement)」という概念があります。「アクノレッジ acknowledge」という言葉の語源は「知っていることを認める」で、その名詞形である「アクノレッジメント」は、それを表現する言葉やその行為などを指します。たとえば、挨拶や感謝の言葉やその行為は「アクノレッジメント」です。挨拶や感謝を伝えることは、相手がいるからこその行為。つまり、「アクノレッジメント」には「相手の存在そのものを認める」という意味があります。

人は、「いつも見てもらっている」、「変化に気づいてもらっている」と実感したとき、より一層その人に信頼を置くようになり、その結果としてエネルギーが沸き、前に向かう行動も促進されることから、コーチングでは「アクノレッジメント」を大切にしています。

小児科医である友人が、最近、乳幼児のお母さんたちから、

「子どもがやたらと甘えん坊になった。一時も離れず絡みついてくる。このままだと親離れができなくなってしまうのではないだろうか」

という相談が多く寄せられると話してくれました。

その友人は「コロナ以前、子どもたちは、幼稚園や学校でたくさんの人たちと触れ合っていた。物理的にその機会がなくなり、それがお母さんに集中している。だからお母さんには十分に子どもの相手をしてあげてほしい」と言います。そして「実は、おとなも心理的には変わらないのだ」とも。

コーチ・エィ創業者の伊藤守の言葉に「愛とは、見ること、聞くこと、触れること」というものがあります(※2)。ここでの「愛」は、先に紹介した「アクノレッジメント」に置き換えることができます。他者と触れ合うことで子どもが手にしていたもの。それは「愛」であり、「ここにいていいんだよ」と存在を認められている安心感だったのでしょう。

大人も同じなのだとすれば、デジタル処理された画面情報、音声情報だけであっても、五感、六感をフル回転させて、相手を「見て、聞いて、触れる」。物理的に離れていたとしても、向こう側にいる相手に「見ている、聞いている、触れている」ことを伝えていく。

インターネットがなかった頃、海外にいる恋人にまめに手紙を書いていた方はいないでしょうか。万葉の世では、その人を想い、詩を紡ぎ、文にして贈る。私たちは、たとえ離れ離れであってもまるで近くにいるかのように「見ている、聞いている、触れている」ことを伝えてきました。つまり、相手のことを考え、想いを馳せた時間の量が相手に伝わるのではないかと思うのです。

画面越しであっても、触れ合うことはできなくても、相手について考える時間を投資することはできる。そのことは、質量感をもって相手に伝わるのではないでしょうか。

新しい関わりのつくり方

コロナ禍が過ぎ去っても、以前と同じ世界が戻ってくるわけではありません。リモートワークの定着など、リアル感の減少した世界が常態化していく可能性があります。

そのとき、画面越しでも「見ること、聞くこと、触れること」を互いに感じられるようになっているとしたら、その世界はこれまでよりもっとつながりを感じられる世界かもしれません。以前よりずっと、精神性において豊かな世界かもしれません。

明日から「見ること、聞くこと、触れること」を意識して、画面越しの相手と向き合ってみてください。これまでと違ったものが見えたり、聞こえたりするかもしれません。

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【参考資料】
※1 NHK『又吉直樹のヘウレーカ! 皮膚はすべて知っている?』2020年5月13日放映
※2 伊藤守著『愛するための本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、1996年

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