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変容を促すための3つのポイントと2つの条件

変容を促すための3つのポイントと2つの条件
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"The problems of today will never be solved at the same level of thinking that created them."
(今日我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ意識レベルでは解決することはできない)

これは、アインシュタインの言葉だそうです。

逆を言えば「意識のレベルが変化すれば、問題は解決できる」。つまり、この言葉は、私たちが次元を変えて、視点を変えて、物事に向き合い、考えられるようになると「同じものが違って見えてくる」ことを教えてくれます。こうした「意識の変化」「考え方の変化」をどう促すことができるのか、今回はこのテーマを探求したいと思います。

ものの見方や考え方はどのようにしてつくられるのか

経営幹部に昇格し、新規事業部門を任されたA氏。しかし、A氏にとって土地勘のない領域で、失敗・停滞が続き、組織には疲弊感が漂っていました。

ビジョンが見えない。
技術の前提がない。
視点がほしい。

自分のリーダーシップに関する不足点が列挙された調査を見て、A氏はがっくりと肩を落としました。

A氏はもともと同社の中の花形事業で10年以上事業部のエースとして活躍し、豊富な経験と知識、大きなビジョンで事業部を牽引してきた人物です。その事業部はA氏のリーダーシップのもと安定成長を続けてきました。

しかし、その経験によって培われた「リーダー=最も分かっている人、強く牽引できる人」というA氏の強い前提・信念が、新しい役割を担うA氏を苦しめているように見えました。

彼の上司である副社長は「A氏には自らと向き合ってほしい。困難な体験になるだろうが、その体験を未来に向けた経験として昇華させてほしい」という思いで、A氏にコーチをつけることを決めました。

「にっちもさっちもいかない状態だと思うけれど、これはもう一皮むけてもらうための機会です。彼には潰れずに乗り越えてもらいたい」

副社長の言葉からは、厳しさと愛情が伝わってきました。

「混乱を引き起こすようなジレンマ」によってもたらされる学習

過去の経験によって培われた信念、価値観、考え方が、今の経験に対する解釈を方向づけます。つまり、これらの変化こそが、新たなものの見方や考え方を可能にします。

枠組みや前提の変化を伴う学習は「変容的学習」と呼ばれ、ジャック・メジローによって理論化されました。知識を積み重ねていく子どもの学習とは異なる、いわゆる大人の学習です。

メジローによれば、この枠組みや前提を変化させるきっかけの一つに「混乱を引き起こすようなジレンマ」があります。

A氏は、まさにこのジレンマの中にありました。

私たちは、先のリーダーシップ調査を皮切りに、A氏が備えている能力、変える必要のない特質を確認し、次の2つに焦点を絞って対話を重ねていきました。

  1. 新たな視点を獲得し、実際に試す
  2. 新しいリーダーシップ・イメージを創る

やがて、A氏はルネサンスについて調べ始めました。「この事業にどうルネサンスを起こせるのか」。そのイメージが深まり始めたとき、A氏は何か光を見出したようでした。

そして3ヶ月が経過したあるセッション、私の目の前には、何かを選択し、基軸を発見したA氏がいました。

「この会社に成功モデルはありません。しかし、タネを持つ人たちはたくさんいます。それらをつなげ、創発を起こす触媒、それが私の役割ですね」

「自分はこれまで『正しい回答は何か?』を求めていました。しかし、それを問うても答えは見つかりません。自分の感性を信じて、やりたいようにやろうと決めました」

明らかに立ち位置を変えようと決めた人物がそこにいました。

変容のためのポイントとそれが機能する条件

A氏の変容を促したものは、何だったのか? 振り返ってみると、次の3つのポイントがあったように思います。

  • ジレンマによる揺さぶり(アサインメント)
  • 過去/現在/未来を考察するリフレクション(対話)
  • 新たな未来イメージの再構築(意味づけ)

そしてさらには、このポイントが変容に向けて最大限に機能する条件が2つあります。

  • 3つのポイントが同時進行で進むこと
  • その過程が一定期間続くこと

コーチングの価値は、変容に向けた3つのポイントをうまく機能させることにあるのかもしれません。

前提が変わると、見えるものが変わる

最近、A氏が話してくれました。

「自分がどん底にいた時のリーダーシップ調査結果を久しぶりに読み返すと、ヒントがたくさん目に入りました。

以前は『批判されている』と思ったんです。今回は『ああ、みんなが助けようとしてくれている』、そう感じました」

この間、周囲の環境は、相変わらず厳しいままでした。しかし、A氏の考え方や前提は変容していきました。結果として、A氏には「同じものが違って見えた」のかもしれません。

冒頭のアインシュタインの言葉が表す通り、意識レベルが変化したA氏が、現状を乗り越え、新しい未来を切り拓き始める日もそう遠くないでしょう。

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【参考資料】
永井健夫「変容的学習と「成人性」の関係をめぐる試論」、『大学改革と生涯学習』、 山梨学院生涯学習センター紀要、2007年
小野由美子「海外日本語教育実習における現職員の変容的学習に関する事例研究、『教育実践学論集』、兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科、pp155-166、2011年

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