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体験は後戻りしない

体験は後戻りしない
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先日、あるテレビ番組で、一輪車に乗ってバレエのような演技をする人たちの様子が放映されていました。もうすぐ30歳になる長女がそれを観て言いました。

「私、今でも一輪車に乗れるよ」

小学校の低学年以来20年は乗っていないのに、今でも乗れると言います。子どもの頃、何回も転びながら練習し、乗れるようになる。なぜできるかはわからなくても、体験を通して身につけたことは、20年経っても体が覚えているのです。

私も、自転車に乗れるようになった瞬間のことをよく覚えています。

ペダルを漕ぐと、自転車がふわっと立ち上がるような感覚。
どんどん勢いよく前に進んでいく、顔に風を感じる感覚。
「乗れた!」という一瞬のできごと。

その体験は私のなかで消えることはありません。体験が後戻りすることはないのです。

体験によって人は変化する

体験を通じて、人は変化します。どんなことであっても一度体験すると、体験する前と後では「違う」人です。今までとは違うことができるようになることもあれば、ものの感じ方や見方が変わったり、考え方が変わることもあります。「体験」は私たちにはかり知れない価値をもたらします。

先日、『3分間コーチ・ワークショップ』に参加したAさんが、プログラムの最後にこんな話をしてくれました。

「『3分間コーチ』には、同僚のBさんと一緒に参加しました。Bさんとは20年以上一緒に仕事をしています。二人とも釣りが趣味なので、毎週末一緒に釣りに行く仲で、家族ぐるみの付き合いをしています。

今回『3分間コーチ』の対話の中で、彼の価値観や考え方を、初めて聞きました。いままで知らなかった彼の考えを聞いて『そんなことを考えてたの?!』と正直驚きました。終了後に、お互いをますます身近に感じたことや、仕事についてもっと一緒に協力できることがあると話し合いました」

Aさんは『3分間コーチ』の中で、Bさんとの関わりが変わる「体験」をしたのです。そして、この「体験」が今後の二人の関係性をさらに変えていくことが想像できます。

「コミュニケーションを変える」とは

組織の活動のほとんどはコミュニケーションによって成り立っています。

「組織開発」とは、組織を構成する「人」と「人」との関係性を変えること。

つまりは、人と人の間にあるコミュニケーションを変えることです。コミュニケーションが変わらなければ、組織は変わらないのです。

では、「コミュニケーションを変える」とはどういうことなのでしょう? 「コミュニケーションを変える」というと、

もっと相手の話を聞くようにする
傾聴のスキルや質問のスキルを習得する
結論から話すようにする

といったように、私たちは「コミュニケーションのとり方」を変えることに目を向けがちです。

しかし、いくら表面的にコミュニケーションのとり方を変えたり、スキルを覚えて使っても、実はコミュニケーションは変わりません。

「コミュニケーションが変わる」とは、「コミュニケーションに対する理解」や「コミュニケーションの目的」が変わることを意味します。なぜなら、私たちのコミュニケーションは、私たちが「今、コミュニケーションについて理解していること」の結果であり、前提が変わらなければ結果は変わらないからです。

AさんがBさんとの関わりにおいて体験したことは、二人の関係性を変えることにとどまらず、Aさんの周囲の人たちとの関わりにも新たな視点をもたらすことになるでしょう。Aさんの体験が、周囲との関係性にも波及し、変化がさざ波のように広がっていくだろうことは想像に難くありません。

「何のために」「コミュニケーションの何」を変えるのか

ある企業での『3分間コーチ・ワークショップ』の事後アンケートの中で、よく使われている言葉を抽出、グルーピングしました。

「組織をどのように変えたいか」という問いに対する答えに使われた言葉は、下記のようにグルーピングされました。

  • コミュニケーション、双方向、一方通行、取れる、対立
  • 意見、自由、言える、交換、闊達
  • 社員、一人ひとり、前向き、取り組む、管理
  • 方向、理解、全員、向かう、向く、業務
  • お互い、共有、声、目的、意識、作る

また、「自分のコミュニケーションをどのように変えようと思ったか」という問いについては、次のような結果になりました。

  • 相手、聞く、話、自分、最後
  • 意識、意見、対話、時間、取る、作る、多い、話す、短時間
  • 双方向、考え、行う、心がける、質問

この結果を見ると、プログラムでの体験を通じて「何のために」「自分のコミュニケーションの何」を変えたいかが明確になっていることが見て取れます。

ワークショップ後のコメントから、どのような体験があったかを見てみると、

「本社の人たちからは、今まで頭ごなしに指示される感じがして敬遠していたが、彼らの考えを聞いて、なぜなのかを理解できて距離が縮まった」

「社長の自分が参加すると、社員が自由に話せなくなるのではと思って参加を見合わせようと思っていたが、思い切って自分も参加した。参加して本当によかった。社員がどのように考えているのかを直接聞くことができた。自分の考えを話したときに、若手の社員が(忖度なしに)共感してくれたことは自信になった」

コミュニケーションに対する理解、目的が変われば、必然的にその結果として、人との関わり方やコミュニケーションの交わし方が変わります。

コミュニケーションが変わると、そこで起こる体験も変わります。

今まで以上にその人に対して興味や関心が湧く。
新しい発見や学ぶことがある。
共創がある。
感動がある。

関係性の変化は、この瞬間にリアルに起こります。

「関係性の変化」という「体験」は、不可逆的です。それを通じて私たち自身も変化します。それが、組織全体の変化につながるのです。

「組織開発」は制度を変え、仕組みを準備することなども大切な要素です。しかし、そのときに忘れてはいけないのは、真の変化をもたらすのは一人ひとりの「体験」にあるということだと思います。


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