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その遠慮は未来を創り出しますか?

その遠慮は未来を創り出しますか?
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2015年に発表された "Dialogical Leadership: Dialogue as Condition Zero" という文献で、著者らは、今日私たちが生きる世界について、次のように書いています。

「極度に透明性が高く、絶え間なく不確実で、即座に時代遅れになり、不可解なくらいに複合的(複雑)」であり、私たちが直面している数々の問題は、「複合的(複雑)で、やっかいな問題がほとんどである」と。

新型コロナ感染症への対応に代表されるように、私たちが「複合的(複雑)で、やっかいな問題」に直面していることは、みなさんにも強い実感があることと思います。

さらに著者らは、「複合的」な問題にあたるには、その問題に関係する者全員が「参加」する必要があると言います。つまり、現代では「対話(ダイアローグ)」的リーダーシップが問われているというのです。

「ダイアローグ・リーダーシップ」を、私なりに解釈すると、現代のリーダーは「仲間と共に答えを出す」存在だということでしょう。つまり、リーダーには「チーム」の存在が欠かせないのです。

なぜ対話が起きないのか

弊社代表の鈴木は『未来を共創する経営チームをつくる』という著書の中で、チームを下記のように定義しました。

チームとは『"チームとしての目標を持ち"、"共創"していて、そして"気持ちがつながっている"』。

共創とは、目標に向かって共に何かを一緒に創り出し、部分の総和以上のアウトプットをしている状態のことを言います。共創のためには、対話が必要です。チームメンバーが、自らの意見をもち、時に対立しても、その対立の中から新しい価値を創出する。そのような対話が必要なのです。

しかし、現実はといえば「もっと侃々諤々の議論が起きないものか...」と、嘆くエグゼクティブが多いのが事実です。では、なぜ対話が起きないのでしょうか?

多くの場合、チームメンバー間の躊躇や遠慮、忖度、そして無関心が、対話の障害になっています。しかし、この問題に向き合い、解決しようとするチームはほとんどないというのが、私の感覚です。

チーム内に対話を創り出すには、実は、この問題に正面から向き合う必要があります。

コミュニケーションの課題に向き合う

A氏は、この問題に向き合い、変化を創り出したリーダーです。

エグゼクティブ・コーチングの中で、A氏の部下など周囲の人たちにインタビューをしていく中でわかったことは、お互いに言いたいことがあるのに言わない「遠慮」が、経営チームに存在することでした。A氏にそれをフィードバックすると、A氏は「実は、自分も遠慮している」と吐露されました。

A氏の会社は、2社の合弁によって生まれた会社で、それぞれの親会社から出向してくる社員で構成されています。経営チームは両社出身のメンバーで構成されており、A氏は、別の会社出身のメンバーに対して「違う会社から来ているから」という理由で遠慮を感じていました。

また、技術出身のA氏は、同じ技術出身のメンバーに対して「口出しされたくないだろう」と遠慮して、思っていることを言わずにいました。

さらには、数年間で親会社に戻ることが決まっているため、「波風立てずに穏便に」という気持ちも遠慮に拍車をかけていました。

A氏自身がこれだけの「遠慮」を抱えていたのです。

トラブルが頻発し、目標達成も危ぶまれる状況の中、A氏は、薄々気づきながらも手をつけずにいた経営チーム内でのコミュニケーションの問題が、会社の現状と直結していると感じられたのでしょう。

「我々が直面する問題を乗り越えるには、経営チームが本当のチームにならなければならない」と、正面からこの課題に向き合う覚悟を決められました。そして、コーチのファシリテーションのもと、経営チーム全員で自分たちのコミュニケーションそのものについて対話をするワークショップを行ったのです。

その場は、今回のインタビューで明らかになった「遠慮」に全員で向き合う時間になりました。

A氏が口火を切り、自分自身の遠慮について話し始めると、他のメンバーからも口々に、自身の抱える「遠慮」についての話が出てきました。「違う会社出身のメンバーに対して遠慮している」、さらには「職場が離れていて、普段話せないから話しづらい」という声もありました。

それぞれが遠慮している事実を受け入れ、そのことを全員の前で話すことで、それぞれの遠慮の理由が明らかになると、参加していた全員が何か吹っ切れたような表情になりました。

このプロセスを経て、チームの成功を最優先に、お互いに遠慮を乗り越え、対話しようという意識を創り出すことに成功します。

Aさんは語ります。

「まだぎこちないところはありますが、格段に言いたいことを言い合うようになりました。最近は『今遠慮しました』とか、『遠慮していないか?』といったことさえも言い合えるようになってきています」

実際に、経営チームの変化は、トラブルの事前回避によって、事故が大幅に減少するという変化につながっていきました。

あなたのチームは、チームとして、どのくらい機能しているでしょうか?
チームを機能させることこそが、あなたの未来を創り出すと言っても過言ではありません。

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【参考資料】
Rens van Loon and Gerda van Dijk, “Dialogical Leadership: Dialogue as Condition Zero”, Journal of Leadership, Accountability and Ethics Vol. 12(3) 2015

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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