Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
何のために自分自身をアップデートするのか
コピーしました コピーに失敗しました最近、コーチングをスタートされる方の中に、360度評価など、周囲からのフィードバックの結果を持ち込まれるリーダーが増えています。
昨年4月に新しい組織のトップになったばかりのAさんも、初回のコーチングセッションに過去の360度フィードバックの結果をもって臨まれました。そこに記されていたのは、A氏に対する周囲からのフィードバックコメントです。
- 気づかずに、人のやる気をそぐことを言っている
- 他者の気持ちになって考えることができない
- フィードバックを伝えたり、挑戦するような質問を投げかけられると自然と防御的になる
- 自分に合意してくれる人としか付き合わない
- 相手によってコミュニケーションの仕方を変えられない
平均点以上はできていると思っていたAさんにとって、この結果はショックだったものの、自らを振り返る機会になったことは確かです。ただAさんは、この結果を見ても具体的にどうすればよいかがわかりませんでした。
21世紀のリーダーに必要な能力
組織心理学者で『インサイト』の著者ターシャ・ユーリック氏は、「自己認識は21世紀のメタスキルだ」と主張し、
「現在の世界における成功にとって極めて重要な各種の力──心の知能指数、共感力、影響力、説得力、コミュニケーション力、協調力など──は、すべて自己認識がもとになっている。言い換えれば、自己認識を欠いていると、仕事やその他の場でより頼もしいチームプレーヤーやより優れたリーダーや、より良い関係の構築者になるための力を身につけるのがほとんど不可能だということだ」
と長年の研究を結論づけています。
では、21世紀のリーダーにとって不可欠な能力と言われる「自己認識力」は、どのようにして向上させることができるのでしょうか。
どんな組織に変えていきたいのか? 誰と一緒に組織を変えていきたいのか?
先述のAさんは、半年前に新しい組織のトップとなり、組織の変革を期待されている立場にあります。組織変革の期待と役割を担ったAさんは、組織を変えるのであればまずは「自ら変わらなければならない」という意識を強くもっていました。
前述のとおり、Aさんは最初のセッションで持ち込んだ360度フィードバックの結果を、自分が変化するためにどのように活かしたらいいのか分からないでいました。
Aさんの目的は組織変革を起こすことであり、自らが変化することにとどまりません。だとすると、Aさん自身の変化が組織の変化につながらなければ意味がないわけです。つまり、目的に向けた価値あるフィードバックを得るために、まずは、組織にどのような変化を起こしたいのかを定義する必要があります。そこで、コーチングでは「どんな組織にしていきたいか」「組織の何を変えたいか」といった問いを間に置き、「未来の組織」についてAさんと対話を重ねました。そして、その未来像に基づいて、改めて周囲から360度フィードバックを取ったのです。
* * *
今回のアセスメントの結果にも前回同様厳しい言葉が並びました。しかし、結果を見ながら、
- 誰と一緒に進めていきたいのか
- その人達とはどんな関係性を創れるとよいのか
- コミュニケーションの取り方をどのように工夫したらよいのか
について対話を重ねるうちに、Aさんは「自分がキーマンと考えている人たちが、どんな成長をしたいと思っているかを聞いてみたい」と、新しい行動を探し始めたのです。
フィードバックの活用
360度フィードバックは、自分が周囲にどのような影響を与えているかを知るために有効なツールですが、結果をただ見るだけでは「良い」「悪い」の「評価」になってしまいます。「評価」として捉えてしまえば、そこで完了です。
重要なのは、フィードバックをとる本来の目的は「行動変容」であるということです。実現したいことに向けて、最適な行動を選択できるようになること。フィードバックをうまく活用できれば、リーダーシップが機能するのです。
そのためには、事前に何に着目して結果を見るのかを明確にしてからフィードバックを取ることが大事です。さらに結果についてのコーチとの対話は、自身の解釈を越えた解釈を可能にします。
「自己認識が高い状態」というのは、単に自分の能力がどうかというだけではなく、本当に自分のやりたいことは何なのかを考えて、新しい行動を選択することです。
あなたは何のために自己認識を上げていきたいですか?
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考資料】
ターシャ・ユーリック (著)、中竹竜二 (監修)、 樋口武志 (翻訳)『insight(インサイト)』(英治出版)2019年
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。