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対話なくして変革なし

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Language: English

「対話の時代」がやってきている。

そう言いたくなるほど、「対話」という言葉を様々なところで目にするようになってきました。

私たちの住む世界は、日々多様性を増し、答えがはっきりせず、複雑になり、未来もどうなるか、より不透明になってきています。

「だからこそ対話が必要」「もっと対話する機会を持とう」「上司は会話じゃなくて対話を意識しよう」。そんな風に単純に考えてしまいがちですが、対話をする上で最も大切なことは何でしょうか。

どういう意図をもって対話に臨むのか

先日、日本コーチ協会の年次大会が開催され、「今、なぜ対話なのか」をテーマに4人のゲストスピーカーによる講演がありました。どの話も示唆に富み、私は手に汗握りながら拝聴しました。

中でも心に一番残ったのは、心理学者で、世界的にも「対話」研究の第一人者として知られるハーレーン・アンダーソン博士の言葉です。

「対話に臨む意図が大切。対話には変化を生みだす可能性がある、その意図があるかが大切なのです」

この言葉に私は軽い衝撃を受けました。

対話は変化を生み出す。私たちはどれだけその意図をもって対話に臨めているでしょうか?

「当たり前」に対する再解釈

私はアメリカの大学で哲学と物理を学びました。哲学の最初の授業で教授がこんなことを言いました。

「君たちが4年間、大学で学ぶ目的は何だと思う? 君たちは高校までの12年間、何が正解かをひたすら与えられ続けてきた。大学の4年間では、これらを全て疑いなさい。そして与えられた答えではなく、あなた自身で何が価値あることなのか、何があなたにとっての答えなのか、それを考えなさい。それが大学で学ぶ意義です」

そんな宣言のもと始まった哲学の授業は、毎回、教授の問いかけに対し生徒同士でひたすら90分対話し続けるスタイルでした。

「あなたの大切な恋人が不治の病になった。急がなければ死んでしまう。世界にたった一人、この病を治せる薬を持っている医者がいる。でもその薬は1億円で、あなたにそれを払えるお金はない。医者は頑固で、1億円払わない限り薬は絶対に渡さないと言っている。交渉の余地はない。さあ、あなたならどうする?」

この命題に正解があるわけではありません。様々な視点や価値観から、自分ならどう考えるか、どうするか、多種多様な意見が飛び交います。

命より大切なものはない、だからこの場合は盗んでもいい。
理由によって、盗みは正当化されていいのか?

この医者は人間性が欠如している、非道徳であり罰を与えるべきだ。
本当にそうなのか、医者には医者の理にかなった理由があるのではないか?

一つの意見は、新たな問いを生み、新たな問いが新しい視点や解釈を生んでいきます。これまで盲目的に教え込まれてきた「命は大切」「法律は守るべき」「経済のルールは尊重すべき」そういった当たり前に対して、それって本当はどういうことなのかを改めて皆で考えます。

そうすることで、当たり前だと疑いもしなかったことに対する再解釈が生まれました。また、人はそれぞれ、正しいと思っていること、正しいと思っている理由、また結論として持ち帰ることも違う、ということを体験しました。

対話が、物事の解釈、世界の見方、人への理解を変えるという私の原体験です。

「自分にたいしたことはできない」

さて、ではなぜ今、対話なのでしょうか。

先日ある大手企業のお客様で第二期目の大型プロジェクトが完了し、たくさんの成果が報告されました。このプロジェクトは、中堅のキーリーダー達が6ヶ月間、変革に向けて、部下やキーパーソンたちとコーチングを使って対話し続けるというプロジェクトでした。

プロジェクト完了後、担当コーチ全員で集まり、

「お客様が続けた対話は、結局、変革に向けて何をもたらしたのだろうか?」

という問いを間に置き、全員で振り返りをしました。その中で、あるコーチがこんな視点を共有してくれました。

「プロジェクトが始まった当初、多くの参加者も、その部下たちも、経営層が唱える変革の必要性について、頭では理解しているものの、心のどこかでは『自分には会社を変えることなんてできない』、そんな空気感が薄く全体を覆っていたように感じました。自分は関係ないとは思ってはいないけれど、自分が何かしたところで、それが会社を変えることにつながるというイメージも、自信もなかったように感じました」

「でも上司と部下との間で対話を重ねるうちに、どんな小さなことでもいいから、自分がやれることは何だろうと話すようになっていった。上司たちは、部下たちのやってみたいことを繰り返し問いかけることで一緒に考え、ちょっとした行動を後押しし、そこでちょっとした成功が生まれ、学びが生まれ、部下にとっても上司にとっても自信に変わる、そんなことが繰り返された。自信が出てくると、当事者意識も出てくる。6ヶ月経って、当初の空気が払拭されたように感じます」

繰り返される対話と、それに続く小さな行動の数々が、「自分には大したことはできない」という思い込みを変えていったのです。

新しい解釈を生み出す対話

何かを変化させようとする時、それが小さなことであれ、必ず抵抗が生まれます。その抵抗は、なんらかの思い込みから生まれ、それは無意識にその人の「当たり前」になっています。

やっても意味がない、
結局失敗する、
自分たちが不利益を被る、
変わるべきは自分以外の他の人、
他にもっといい方法がある、
、、、、等々。

しかし、一方が「変化を生み出す」という意図をもって対話に臨めば、二人の間に、変化に対する新たな解釈と、それに伴う姿勢をともに創り出すことができるのかもしれません。

対話だけで変革が進むわけではありませんが、どんな立派な戦略があっても、現場の一人ひとりとの対話なくして、変革は進まないということもできるのではないでしょうか。

あなたの組織に、変化を生み出すための対話を続けられるリーダーは何人いますか。



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