Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


トップの交代はピンチ?それともチャンス?

トップの交代はピンチ?それともチャンス?
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

桜前線も刻々と北に向かい、別れと出会いの季節となりました。春は、新卒社員が入社する、大きな人事異動があるなど、企業にとっても変化の季節です。読者のみなさんの中には、役割やミッション、あるいは自身を取り巻く環境に、大きな変化が訪れる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私の駐在するタイでも、この時期にトップが代わる組織がいくつもあります。そうしたお客様とお話しする中で、トップが変わったり、主力メンバーが抜けたりする中で、長期にわたってパフォーマンスを上げ続けている組織にはどんな特徴があるのだろうか。そんな問いが頭に浮かびました。

主力メンバーの入れ替わりに不可欠なものとは

まず私の頭に浮かんだのは大学のスポーツチームです。私自身、大学時代は選手として、卒業後はメンタルコーチとして、大学スポーツに携わっていた経験があります。

大学スポーツは、毎年、必ず4分の1が入れ替わる宿命にあります。多くの場合、主力は上級生ですから、上級生の卒業はチームに大きなインパクトを与えます。スター選手の卒業で成績が落ちるチームもあれば、選手が入れ替わろうとも長期にわたり優勝に絡むチームもあります。

そこで、このコラムを書くにあたり、知り合いの強豪大学スポーツのコーチやプロスポーツのコーチ、日本代表チームの監督、そして、弊社の中でも経験値の高い同僚コーチたちに、人が入れ替わっても高いパフォーマンスを出し続けるチームや組織に共通する特徴について意見を求めました。それらの声をまとめると、次のようなことが浮かび上がってきました。

  • 選手や社員同士が、「何のために」このスポーツ/この仕事/この会社を選んでいるのかについて常に話し合っている
  • 自分たちを支える、あるいは自分たちが貢献したい最も大切な対象は「誰なのか」を、メンバーが常に考えている
  • 自分たちが存在することで、「世界にどんな違いを創り出したいか」について、選手や社員同士が常に話し合っている

「何のために」「誰のために」「どうしたいのか」という組織の存在意義(パーパス)が常に組織内で交わされているということと言えるようです。トップや主力が代わっても、残るメンバーがこれらの「本質的な問い」を「たすき」として引継いでいる組織は、新たなステージでの成長が継続するのではないか。そんな絵が見えてきました。

組織のパーパスを現場から共有する

では、何があれば、「本質的な問い」を共有し、脈々とそれを引き継いでいくことができるのでしょうか。

それを考える中、大きな組織変革プロジェクトでご一緒した、プロジェクトリーダーのTさんのことを思い出しました。

Tさんの会社は、数年前に社長が交代し、経営方針も大きく変わる転換期を迎えましたが、新しい社長の経営方針と、これまでその組織で培われた文化を早期に融合させ、その後も大きなパフォーマンスを上げ続けています。

新社長を迎えたとき、Tさんはこんなことをおっしゃっていました。

「まずは、私やメンバーたちが『どんな想いと志で、それぞれの仕事に接しているか』について、新社長に伝えていきたいと思います。そのために毎日、5分でも社長と話すことを決めました」

私はTさんのこの言葉に、強い組織を創るヒントがあるように思います。強い組織をつくるのは、トップだけの力でもなく、現場だけの力でもない。そこに、双方向の対話が存在するかどうかが重要なのではないでしょうか。

「双方向の対話」が未来へ向けた新たな物語を再構築する

トップは組織に対して圧倒的な影響力をもちます。CEOの影響力に関するある調査では、たった一人のCEOが会社の利益の29.2% に影響を及ぼしているといいます(※)。しかし、トップや上司が代わったとき、「本質的な問い」を共有するために、現場がトップに働きかけることもできるのです。それが強い組織の秘密なのかもしれません。

新しいトップは「違い」を持ち込むでしょう。だからこそ、組織の新陳代謝、変化促進も進みます。しかし、「違い」を理由に恐れを抱き、批判や対立、あるいは逃避をしていては、組織の発展はありません。

トップは、自らの考えやビジョンを伝える。同時に、現場も、どんな想いと志で、日頃の仕事に接しているのかについてトップに伝える。双方の背景や考えを持ち込めば、主観と主観がぶつかり合うこともあるでしょう。それでも、相手の想いを受け取る、そしてこちらの想いも伝える。ここに「双方向の関わり」が生まれ、変化する未来への新たな物語を再構築し、意味の共有や価値の再創造につながるのではないでしょうか。

このように考えると、トップの交代は、部下から新しい上司にアクセスする機会となり、上司との関係性の基盤を築き、両者の間で新しいコンテクスト、新しい物語を生み出していく絶好のチャンスということもできます。

相手の想いを聴く。
自分の想いを話す。
互いの違いをきっかけにしてより深く互いを理解する。

誰かが始めるのを待つのではなく、いつでも、誰からでも「双方向の対話」を創り出すことができれば、未来はまた一段と広がっていくように思います。

この変化の季節に、あなたから新しい物語づくりに飛び込んでみませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
※ Alison Mackay, “The Effect of CEOs on Firm Performance”, Strategic Management Journal, 29(12):1357 - 1367, 2008

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

パーパス 対話 経営者/エグゼクティブ/取締役

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事