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不確かな未来を確かなイメージに変えるアプローチ

不確かな未来を確かなイメージに変えるアプローチ
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Language: English

21世紀に入り、リーダーシップのあり方は大きく変化しています。

ステレンボッシュ大学ビジネススクールのニッキー・ターブランシュ博士(Nicky H.D. Terblanche)は、論文の中で、その変化に関する様々な論者の視点を紹介しています。(※)

今日のリーダーたちは、複雑で不確実で不安定な環境という課題に直面している。ビジネスの通常のやり方が変わった。人々のつながりが、正式な組織構造よりも重要になってきたからだ。

(Horney, Pasmore, & O'Shea, 2010)

リーダーシップ理論は、次のことを認めている。リーダーは、社会的真空空間の中で人を率いているのではなく、社会的ネットワークのシステムに組み込まれている。

(Mehra, Dixon, Brass, & Robertson, 2006)

リーダーシップの性質に関する新たな視点は、それが本質的に関係的で、社会的で、連携的なプロセスであることだ。それが示すのはチームベースのリーダーシップの重要性だ。

(Day, 2001; George, 2010; Hoppe & Reinelt, 2010)

組織へのコーチングを通じて感じることは、多くのリーダー達が、20世紀の階層構造的な組織の中で、その限界を超えることを求められている点です。

ネットワーク図が表現しているものは何か

多くのリーダーが、次のようなキーワードを口にします。

  • 部門の壁を越えて...
  • 相互連携でシナジーを生み出すために...
  • 全体視点で動ける人材を増やして...

全体性を意識し、相互連携する人材と彼らの活動を組織に生み出す。そこに向けて、リーダーはどんな地図を頭に描いているのか。私たちはそれを、リーダーを中心としたネットワーク図として書き出してもらいます。

  • ビジネス上でどんな成功を創りたいのか?
  • 成功の鍵を握る人たちは誰なのか?
  • その人たちとどのような新たな関わりを創り出したいのか?

みなさんも少しだけ時間を取って、試してみてください。そこに描き出されたネットワーク図が表現していることは何でしょうか?

ネットワーク図は組織図ではない

大手メーカーの経営幹部A氏と、ネットワーク図を描く時間を取りました。

彼のリーダーシップに関する調査結果は、彼が頭脳明晰で決断力があり、事業をよく知るリーダーであることを語っていました。はっきりした言葉遣いと、落ち着いた佇まいからは自信が伝わります。

A氏のテーマは、イノベーションを創発する組織づくりです。

A氏は、自分の組織は、現在の業績が順調な一方で、未来を考えた時に大きな不安があると考えていました。組織から新たなサービス・事業を生みだすこと。それがA氏の最優先事項でした。

具体的に、誰と誰のどんな関係性を通じてイノベーションの創発を形にするのか、ネットワーク図を通じて表現してもらいました。

画面の向こうに、素早く動く右手が映ります。しかし、2分ほど経過した段階で、急に筆が止まりました。

うつむいた体を起こして自ら描いたネットワーク図をじっと見つめ、A氏は低くゆっくりした声で言いました。

「だめだ、描けない...」

ノートには、4つの円が描かれています。A氏を中心として放射線状に描かれたそれぞれの円には、A氏とつながる数名の直部下の名前があります。

「これは、今の組織図を円形にしただけだ。いや、栗本さん、これ以外、本当に思いつかないんだよ...。それが問題なのかもしれないな...」

現在の組織は、高い業績をたたき出しています。しかし、未来のイノベーションを生み出せる気配がない、そのことに漠然とした不安がある。一方で、未来に向けたネットワーク図を描くことができない。

「いや、自分の限界が見えて、腑に落ちましたね」

A氏は真剣な表情でそう語りました。

A氏はその後、信頼する人たち数名とネットワーク図の議論を開始し、以下のような気づきを得ました。

  • イノベーションにプラスに働く関係性がどこにありそうか見えてきた
  • イノベーションには関係ないと思っていた部門や地域があった
  • 目標や評価の仕組み自体を変える必要性に気づいた

未来の現実につながるネットワーク図

大手グローバル企業でR&Dヘッドを務めるB氏は、自身のリーダーシップスタイルを「カタリスト(触媒)」と表現します。

「この人に、あの人を紹介してあげれば、きっと助けになるだろう」

そうした想いから、B氏は組織の内外で、人と人とをつなげることに非常に熱心です。

彼は普段から、自分の知っている人やその人たちの知っている人、彼ら同士の関係を思い浮かべ、その関係性をつないで、頭の中で大きなネットワーク図を描くことに喜んで時間を割きます。そのうえで、実際にその人たちをつないでいくのです。

イノベーションを生み出せるチームへと変わること。それしか自分たちが生き残る道がない。既存の組織の枠組みを抱えつつ、それを超える新たな関係を創り出す。それがB氏の動機です。

B氏は、普段から頭の中で描いているネットワーク図を、改めて紙に描いてくれました。B氏を中心に8人、その周囲に30人、そして、その先には直接話したことのない人たちを含めて200人もの名前があり、複数の公式・非公式のコミュニティのアイディアも記述されています。

「このネットワーク図から、新たな動きが生まれそうです」

ネットワーク図は、B氏のオフィスの壁に貼られ、対話を重ねる度に日々内容が更新され、人が加わり続けています。

「僕が今のポジションを離れた後も、このネットワークは生き続けるでしょう」

B氏の目的は、サステナブルなイノベーションのインフラを残すことです。

* * *

今回は、頭の中のネットワーク図が、未来の現実を創る可能性について考えてきました。

あなたが描き出すネットワーク図は、組織への考え方を映し出す鏡でもあり、到達する未来の可能性を指し示す羅針盤かもしれません。

未来の地図を創る、そのための時間を創ってみてはいかがでしょうか?

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【参考資料】
※ Terblanche, N.H.D., & Erasmus, E.D. , “The use of organisational network analysis as a diagnostic tool during team coaching”, SA Journal of Industrial Psychology/SA Tydskrif vir Bedryfsielkunde, 44(0), a1548 (2018) 文中の日本語訳は(株)コーチ・エィによる。
オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム (著)、 糸井 恵 (翻訳)『ヒトデはクモよりなぜ強い』p.131、日経BP、2007年
ニコラス・A・クリスタキス (著)、ジェイムズ・H・ファウラー (著)、 鬼澤忍 (翻訳)『つながりー社会的ネットワークの驚くべき力』p.373、講談社、2010年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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