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ネクストノーマルの世界で変革を持続させる組織をつくる

ネクストノーマルの世界で変革を持続させる組織をつくる
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本記事は、コーチング研究所による最新のリサーチのインサイトをまとめたものです。

いま、組織に強い遠心力がはたらいている

新たな商品を生み出したり、プロジェクトを成功させるチームや組織は、「求心力」と「遠心力」のバランスが良い、と言われることがあります。(※)

組織における「求心力」は、強いリーダーシップや、組織としてのビジョン・ゴールに向かって働き、皆がアイデンティティや価値観を共有している状態をもたらします。「求心力」は、組織に強い結束力をもたらす一方で、強すぎると組織の柔軟性を乏しくさせるリスクを孕んでいます。

対して「遠心力」は、より個を強調し、組織を外部に開放する方向に働く力です。一人ひとりが外部とのつながりを積極的に持ち、知見を自由に持ち込めば、組織に新たな視点や拡大をもたらす一方で、強すぎると組織の目的や組織が向かう方向を見失い、一体感が失われる可能性があります。

昨今、組織と働く人の関係は、大きく変化しています。
雇用のあり方は、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ。
ダイバーシティ経営の実現は待ったなし。
副業や兼業が増加し、そして、新型コロナウイルスの流行によって、働き方や、仕事や会社への向き合い方も不可逆的に変化しました。

このような現状は、一人ひとりが、組織に所属し同じ方向を向いて働くことにアイデンティティを見出すことより、「個」としてのあり方や、「自分なりの働き方」に重きがおかれるものとしてとらえることができるのではないでしょうか。
それは、組織に強い「遠心力」を働かせている、と捉えることもできます。

遠心力は、先にも書いた通りネガティブでもポジティブでもありません。
ただ、求心力とのバランスを失った状態で強く外向きの力が働くと、組織は向かう先を見失ってしまうでしょう。

この先も著しい環境変化が見込まれる時代に、しなやかに変革し続けられる組織になるには、「求心力」と「遠心力」の両方が、いま一層求められているのかもしれません。

「主体化」という視点

では、「求心力」と「遠心力」を同時に働かせるには、どうしたら良いのでしょうか。
その問いに対するひとつの答えとして、「主体化」という視点から考えてみたいと思います。

たとえば、日々働く中でこんな風に思うことはありませんか。
「これが今までやってきた方法だし、前例にならっておくのが一番効率的で確実だ」
「最終的には上司が決めるのだから、ここは意見をしても仕方がない。黙っておこう」
このようなときは、それまで構築されてきた習慣や仕組みに「従属」している状態です。

他方、自分自身も組織の未来を創造していく一員だと自覚しているとき、「こっちのやり方の方が、実現したいことには有効かもしれない。やったことはないけれど試してみよう」「上司はああ言っているけれど、こういう見方もできるんじゃないか。結論が変わらなかったとしても、伝えてみよう」と、行動をしない選択ではなく、行動を起こす選択をとる可能性が高まります。

その組織の未来に向けたプロセスに新たなものを持ち込みながら、主体として関わっている状態です。

この状態が「主体化」です。
少し抽象化すると、「主体化」とは、組織に属する一人ひとりが、自らの社会的存在意義、すなわち「自らのパーパス」と、「組織のパーパス」との間にあるつながりを、よりはっきりと認識していきながら、それらのパーパスの実現のために組織に新たな見方や知見、価値を持ち込んでいる状態を指します。

この「主体化」がどのように実現されるのかについては、5月下旬に掲載予定の後編で扱いますが、「人との対話」や関係性が欠かせない要素です。人と話し、自分のパーパスを段々と言葉にし、相手のパーパスを知り、そして組織のパーパスについて共に考えることによって初めて、これらをよりはっきりと認識することができると考えられます。

個としてのパーパスを模索しながら、同時に組織のパーパスに対して、自分なりのつながり・意味を見出していくプロセス。これは、組織が外部に開かれながら、組織の一員としてのアイデンティをもたらす、つまり、遠心力と求心力を同時に働かせるものと見ることができるのではないでしょうか。

主体化は連鎖し、組織の状態を変えていく

「主体化」自体は個人の内面で生じるもののように見えますが、この主体化が起こると、周囲からも変化が観察されるようになります。先に挙げたように、上司・周囲に対するコミュニケーションが変わったり、仕事のやり方・取り組み方に変化が出てくるからです。

その変化は、その人個人に完結するものではなく、周囲にも影響をもたらします。

コーチング研究所が、「上司」と「部下」の関係に着目し、組織のリーダー(上司)2,163名のデータを元に分析調査した結果では、上司が「主体化」しているときと、そうでないときでは、部下が「主体化」している度合いに約6倍の違いがあったことが明らかになっています。

少なからず、主体化は周囲に影響(連鎖)していくものであるということができそうです。

さらに、主体化が広がっていくとき、組織にはどのような変化が観察されるのでしょうか。
この点について、「組織活性度」の観点から捉えたデータがあります。

先ほどと同様、主体化したリーダー(上司)に着目し、そのリーダーが率いる組織と、そうでないリーダーが率いる組織は、組織の状態にどのような違いがあるのかを比較した結果、「組織の一体感」で最も差が大きく、次いで、「他組織との連携」や、「知識や情報の共有」といった、組織内連携に関わる項目で、主体化したリーダーの組織の方がポジティブな結果が得られています。

また、「次世代リーダーの開発」や、「率直な意見の交換」の項目でも差が見られ、日々の活発なやりとりを通じた組織の盤石な土台作りや、次の組織を作っていく人材開発の観点でも、主体化が組織にポジティブな影響をもたらしていることが示唆されています。

このような組織では、パーパスに主体化した一人ひとりが連携しながら、その実現に向けて必要な行動を選択していくため、硬直化しづらく、環境変化に対しても強い組織になると考えられます。

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日々忙しく働く中では、組織の慣習に従い、やりとりすることで効率的に進められることも多いでしょう。しかし、今までの当たり前が覆されるネクストノーマル・ノーノーマルの時代にある今、自分と、そして周囲との対話を通じて、組織の一人ひとりが「主体化」することで、変化を自ら生み出し続けるダイナミックな組織へと変わっていけるのではないでしょうか。

(記事執筆:コーチング研究所 リサーチャー 福林直)

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【参考資料】
(※)

  1. Sheremata, W. A. (2000). Centrifugal and centripetal forces in radical new product development under time pressure. Academy of management review, 25(2), 389-408.
  2. Chien, S. W., Hu, C., Reimers, K., & Lin, J. S. (2007). The influence of centrifugal and centripetal forces on ERP project success in small and medium-sized enterprises in China and Taiwan. International Journal of Production Economics, 107(2), 380-396.

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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