Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
良いチームに存在する隠れた「媒介者」とは?
コピーしました コピーに失敗しました「良いチームに必要な条件」を問われたら、あなたはどんなことを浮かべますか?
- 目標が明確である
- メンバーの当事者意識が高い
- 役割分担が明確
- 相互にサポートし合えている
- 言いたいことを躊躇なく言える関係性である
- 心理的安全性が高い 等々
ビジネスで活躍されている読者のみなさんであれば、自分なりの表現でいくつもの項目が挙がるだろうと思います。
今回は、その中の一つである「隠れた媒介者」の存在に焦点を当てたいと思います。
「優秀な人」だけ集めてもチームは機能しない
組織のリーダーにとって、リーダーのやりたいことを着実に推進してくれるメンバーの存在は重要です。リーダーの手足となって動いてくれる「使いやすい」メンバーは、リーダーにとって本当に頼もしく、心強い存在と言えます。また、反対意見をしっかりと進言してくれるメンバーが重要だと考えるリーダーもいるでしょう。そうしたメンバーは、実力があり、高いリーダーシップでチームをけん引してくれることが多いものです。
こうした「わかりやすく、優秀な人」たちがチームにいることは、チームとして高いパフォーマンスを出すうえでとても重要な要素です。しかし、メンバーはみんな優秀なはずなのに、なぜかチームがうまく機能しないことがあります。スポーツチームでも同じような例がありますが、個々の活躍は目覚ましいものの、チームのアウトプットが一人ひとりの足し算になるだけで、掛け算にならない。なんとなくチームに一体感がない。そういう状態に陥るチームがあることについては、多くの人にとって想像に難くないのではと思います。
実はそうしたチームをよく観察してみると、情報がチームの隅々まで流れていないとか、メンバー同士でのコミュニケーションが少ないといった傾向があります。
良いチームに存在する「媒介者」
私は、こうした「悪くないけれども、どこか足りないチーム」に欠けている要素こそが「媒介者」の存在ではないかと考えています。
学生時代に遡りますが、私は、東京モーターショーでブースのナレーター兼キャストとして仕事をした経験があります。オーディションを経て採用されたのですが、私以外は、人前で話す、自分を表現するといった仕事を志しているアナウンサーや俳優の卵たちばかり。私にはそういったバックグラウンドはなく、言ってみれば「素人」でしたが、トントン拍子でオーディションに合格しました。
合格はうれしかったものの自分だけが異質な気がして、オーディションを実施したメーカーや広告代理店の方に、なぜ自分が選ばれたのかを直接聞いてみました。すると、こんな答えが返ってきました。
「個性が強い人たちばかりが集まるため、去年はそれが原因で雰囲気が悪くなることがあった。今年は、ぶつかり合いを弱めて、チームメンバーをつなげてくれるような人を入れたいと思っていた。」
聞いたときにはピンと来ませんでしたが、すぐにその意味を体感することになりました。たとえば、シフトが私を中心に組まれたり、私がAさんとBさんのそれぞれと対話した後、自然とAさんとBさんが対話しやすい雰囲気になったりなど、私の存在が、メンバーの個性を吸収して和らげているように感じました。私自身、キャストとしての存在感もナレーション技術もトップクラスではありませんでしたが、「媒介者」として、チームへの貢献を実感した体験でした。
「媒介者」がチームにもたらす可能性
実際に組織やチームにおける「媒介者」の価値は、「ONA(Organization Network Analysis/組織ネットワーク分析)」によって、科学的にも証明されつつあります。簡単に説明すると、ONAとは、組織内の人と人とのつながりをデータに基づいて分析する手法です。
「媒介者」は、チーム内で目立つ存在ではないことがほとんどです。故に「ハイパフォーマー」や「次世代リーダー」とみなされていることは少ないでしょう。しかし、彼らは、チーム内外の様々な人とのつながりをつくり、場の雰囲気を和らげたりすることで、チームの中に信頼感や安心感といったものをつくり出しています。彼らの存在は、チーム全体に情報が流れる鍵となります。彼らによって情報が効果的に流れることで、チームの目的が共有され、意思の統一が進み、全体が有機的に動くことを可能にします。つまり「媒介者」は「隠れたエース」ともいえるのです。
大学時代、オーディションで私を選んでくれた人は、おそらく体験的に「媒介者」の存在価値を認識していたのでしょう。それが現在、ONAによって「媒介者」の存在価値は科学的に証明され、彼らが具体的にどういったサブグループ同士をつなぎ、そのつながりによって何が生み出されているのかが見えるようになってきています。
コーチ・エィでも、コーチングによるリーダー開発・組織開発にONAの考え方を応用しています。この取り組みに、大学時代の自分の体験と現在の仕事とのつながりを発見し、自分でも不思議な気持ちになります。
チームをデザインするリーダーがすべきこと
チームをどのようにより機能させ、活性化することができるかを考えるのはリーダーの仕事です。チームのポテンシャルを今よりも数段高めるようにメンバーを組み合わせるためには、チームを構成するメンバー一人ひとりの特徴や役割をしっかり観察し、把握し、組み合わせていくデザイン力が求められます。
我々は、チーム員がそれぞれ果たしている役割を、客観的に把握できているのでしょうか。目立つ存在にばかり目を向けていたり、重用していたりしていないでしょうか。実は、大事な役割を果たしている人を見落としていることはないでしょうか。もしかしたら、もっと着目すべき人がいるかもしれません。
あなたの経営チームではどうですか?
あなたの組織のチームではどうですか?
有益な「媒介者」はいますか?
その人に、もっとどう働きかけ、何をしてもらうとよいでしょうか?
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。