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マルチモーダルな私たち

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あなたは普段、人と向かい合うときに、相手のどんなところに注目しているでしょうか。

コーチング研究所は、2020年10月~11月に、エグゼクティブの印象形成に影響している要素について調査しました。

結果、8割以上の人が、印象形成には「言葉遣い」「所作・立ち居振る舞い」「顔の表情」が影響していると回答しており、これらがエグゼクティブが他者に与える印象において重要な要素であることがわかります。翻ってみると、「言葉遣い」など耳からの情報や、「立ち居振る舞い」「顔の表情」などの視覚的な情報に注目している人が多いことを表しているともいえます。

アンケートレポート「エグゼクティブの表情と印象について」より

このように、私たちは、自分が知覚する様々な情報によって、相手に対する印象を構築しています。振り返ってみると、この調査のような視覚情報や聴覚情報だけでなく、時には匂いや距離感といった身体的な感覚も、相手に対する印象形成に影響することがあるのを実感できるのではないでしょうか。

「マルチモーダル」という考え方

「マルチモーダル(multi modal)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。

「モーダル」とは、聞きなれない言葉ですが、「モード」や「様式」、あるいは「感覚」のことを指します。「マルチモーダル」とは、さまざまな感覚が複合し、そしてそれによって成り立つ認知の仕組みのことです。人間にはさまざまな知覚機能が備わっているので、マルチモーダルな存在といえます。

たとえば、電話やメールは、それぞれ音声もしくは文字のみを伝えるので、シングルモーダルな媒体といえます。これに対して、ZoomやGoogle Meetなどのビデオ会議システムは、視覚と聴覚の両方を伝達することができる、マルチモーダルなコミュニケーションツールです。マルチモーダルな存在である人間にとっては、さまざまな種類の情報が含まれるツールのほうが多くの感覚を刺激するため、より「リアル」なコミュニケーションとして感じられます。

感覚の「優位性」

さらには、異なる感覚同士が相互に影響しあうことがあります。この相互干渉は「クロスモーダル(cross modal)」と呼ばれます。

たとえば、異なる感情表現を表情と音声から同時に受け取った場合、日本人はオランダ人に比べ、表情よりも音声に影響を受けやすい傾向にあることが実験によって示唆されました(Takagi et al 2013)。冒頭で紹介したコーチング研究所のアンケートには、「オンラインコミュニケーションの場面で、自分のプレゼンス(視覚的な情報)について意識していること」を尋ねる設問がありました。そこに書かれた具体的な記述回答のうち、およそ1割が「声の大きさ」や「声のトーン」「話すスピード」といった、聴覚に関するものでした。視覚情報に関する設問だったにも関わらず、「声」という聴覚情報に関する回答が含まれていたところから見ると、日本人にとって、声は表情よりも「優位な」モーダルになりやすいのかもしれません。

とはいえ、これらの実験も調査結果も、あくまでも傾向としてまとめられたもので、実際の回答は様々です。個別の人を見れば、日本人であっても聴覚情報より視覚情報に影響を受けやすい人もいるでしょうし、オランダ人でも聴覚情報に敏感な人がいるかもしれません。つまり一番小さな単位である個別の「人」でみれば、「優位」なモーダルはそれぞれ異なるということです。

相手の表情や服装、姿勢など視覚的な情報にもっとも影響を受けやすい「視覚優位」の人、「声のトーン」や「話すテンポ」や「息遣い」など、聴覚を刺激する情報に影響を受ける「聴覚優位」の人、同じ「話し言葉」であっても「言葉」にアンテナの立つ「言語優位の人」など、人によって「優位な」モーダルはさまざまです。

その違いは、これまでにどのような感覚を通して情報を受け取り、伝えてきたかによって、決定づけられるものでしょう。

マルチモーダルを前提に他者と関わる

ここまで「知覚」として、受け手の視点で「マルチモーダル」について考えてきました。しかし私たちは、受け手であるだけでなく、情報の発信者でもあるわけです。

あなた自身が他者と向き合ったとき、あなたは自分が発信している情報に、普段どのくらい意識を向けているでしょうか。たとえあなたが一言も発しないとしても、あなたがそこに存在するだけで、あなたを通して相手には何らかのメッセージが伝わっています。そう考えたとき、あなたがその場で相手に伝えたいと思っていることと、あなたの表情や姿勢、声のトーンなどが発信するメッセージは合っているでしょうか。

情報の発信者として、常に身体のすべてに意識を向けているのは難しいことですが、マルチモーダルな私たちが深くわかりあうために、ときおり「今、自分が相手からどう見え、聞こえているのか」、自分のあり方をふりかえってみることはできます。

そして忘れてはいけないのは、受け手としてのあなたにとって優位なモーダルが、あなたの目の前のその人にとっても優位なモーダルとは限らないということです。職業的な習慣などによって、似たようなモーダルを持った人が集まっている組織もあるかもしれません。こうしたモーダルの違いや共通点を理解し合うということも、お互いのことを理解し、コミュニケーションを円滑にするためには役立つものです。

あなたは、相手から何を受け取っていますか。

そして、あなたは相手に何を伝えたいですか。

(記事執筆:コーチング研究所 リサーチャー 高橋剣士郎)

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【参考資料】
髙木幸子、田部井賢一、Elisabeth Huis Inʼt Veldc、Beatrice de Gelderc、田中章浩、「表情と音声の示す感情が一致していない刺激からの感情知覚―異文化間バーチャル・リアリティ・コミュニケーションへの応用―」、The Japanese Psychonomic Society、2013年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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