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自分への問いが変化をつくり出す

自分への問いが変化をつくり出す
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人は、問われると考えます。「問い」は新たな思考や気づきをもたらす可能性があるので、コーチングの重要な機能の一つとして「問いかけ」があります。

しかし実は、私たちは人から問われるまでもなく、常に自問自答をしています。「今日は何をしようか」「この会議の席では何を言おうか」「提案書には何を盛り込もうか」。日々の選択の前には必ず問いがあり、自分の思考や行動をデザインしているのです。

私はコーチングのクライアントに、そうした自分への日常的な問いかけを振り返り、どんな問いがあるかを書き出してもらうことがあります。

自分に何を問いかけているか

普段自分にしている問いを書き出してもらったら、クライアントとともにそれらの問いに表れている傾向や特徴を探索します。いろいろなクライアントとこのエクササイズをすると、人それぞれで問いの傾向が異なることがわかります。そして、それらの問いの背景には、その人が普段何を意識しているか、どんな価値観をもっているかが現れます。

先日、このエクササイズをしたA氏の場合、自らへの問いの多くが、

「相手からどのように見られているか」
「何をすれば評価されるのか」

といった受け身の問いであることがわかりました。A氏は「周囲への関わりを自ら変える」ことをテーマとしていましたが、「相手からどう見られているか」を気にしていたら、自ら変化を起こしていくことは難しいでしょう。A氏は、それまで無意識にしていた問いを振り返ることで、あえて「自分はどうしたいのか」という自分が起点となる問いを考えることができるようになりました。

問いには目的がある

私たちが人に問いかけるとき、意識するしないかかわらず、その背景には何らかの意図や目的があります。「不足している情報を補うため」であったり、「相手に言ってもらいたいことを言ってもらうため」であったり、コーチであれば「視点を変えるため」であったり、「他の選択肢を見つけ出すため」など、その目的はさまざまです。こうした「問いの目的」は、自分への問いでも同じです。

では、先ほどのA氏の問いの目的はなんでしょうか。A氏は「相手からどう見られているか」という視点の問いを数多く自分に投げかけていました。その背景には「正しくありたい」「間違いを犯したくない」という思いが透けて見えるようです。

マサチューセッツ工科大学 リーダーシップセンター所長のハル・グレガーセン氏は

「どこから見ても『正しい』あるいは『正しい』と見られる人間であろうとすることほど、問いにとって有害なことはない。わたしたちは、自分が正しいと信じ切っていたり、早く決定を下さなくてはいけないと思い込んでいたりすると、手近にある答えに飛びつき、それ以上詳しく問おうとしない。発見のプロセスを開くことを拒み、ほかの人にもそれを閉ざしておくように圧力をかける」

と説きます。これは、他者への問いでも自分への問いでも同じでしょう。「正しい」ことを最優先すればするほど、他者への問いも自らへの問いもその幅が狭くなります。

「正しい」から距離を置く

「自分は正しい」と思っている限り、あるいは、そう思える環境に身を置く限り、残念ながら、外側へも内側へも新しい問いは生まれません。

前述の著書の続きにはこう記されています。

「逆に、自分が間違っていることがわかっているときには、問い続けられる。そうせざるを得ないからだ。自分がしていることがうまくいっていないことが火を見るより明らかなら『自分は正しい』という幻想は抱けず、その結果、問いがおのずと浮かんでくる」

いつもと違う場所に身を置いてみる、不慣れな活動に参加する。そういった体験は、自分の無知を知る機会となります。つまり、自分の正しさを疑う環境を自ら創ることが、新たな問いの創造につながり、それは新たな思考や行動につながります。

今日のリーダーは、いつでも正しく、なんでも知っている人でありません。不透明な未来に向けて、周囲の人たちとともに考え、新たな行動を起こしていけるよう、自らにも周囲にも、効果的な問いを投げかけ続けている人です。

「question」の語源は、ラテン語の「quest(探し求める)」と「ion(こと、もの)」です。

「問い」とは、他者から問われるだけのものではありません。自ら積極的に答えを探し求めるためのものです。自分への「問い」は、自分の考える力を最大化するもっとも効果的な方法です。

あなたは、自分にとって大切な問いが何かを知っていますか?
もしその問いを新しいものに更新するとしたら、何をしますか?

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【参考資料】
ハル・グレガーセン(著)、黒輪篤嗣(翻訳)『問いこそが答えだ! ~正しく問う力が仕事と人生の視界を開く』、光文社、2020年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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