Coach's VIEW

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真似ることは学ぶこと

真似ることは学ぶこと
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「どうしたらもっと早くコーチ力が上がるだろうか?」

20年以上にわたって世界のコーチングの発展に貢献してきたICF(International Coaching Federation 国際コーチング連盟)は、コーチングを次のように定義しています。

「思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと」(※1)

この定義を前提に、もしも上司が部下のコーチになったら、役員が自組織のコーチになったら、社長が役員チームのコーチになったら、組織の中の人と人の関係性は変化し、その組織の中で交わされるコミュニケーションが変わり、ひいては組織文化が変化するに違いないと、私は強く信じています。

そう考える私にとって、自分自身のコーチ力はもとより、社員のコーチ力を高めていくことは、お客様のためだけでなく自社の組織の前進にも直結する最も重要な仕事です。

特に今年は「半年間でエグゼクティブコーチを3人誕生させる」というミッションを担っていることもあり、

「どうしたらもっと早くコーチ力が上がるだろうか?」
「学習スピードを高めるには何が必要なのだろうか?」

ということを考え続けています。冒頭の問いは、そんな私が今年最も多く自分に問いかけ続けている問いの一つです。

子どもの「学ぶプロセス」から学ぶ

我が家には7歳と4歳の子どもがいます。彼らに限らず、子どもたちの学ぶスピードにはいつも驚かされます。「子どもたちがやっていて、大人がしていないことは何だろう?」と観察していて、一つ気づいたことがあります。

それは「物まね」です。

我が家に限らず、子どもは物まねがとても好き、そしてうまい。TVを観ていて、面白いと思ったものをすぐに真似て見せる、本を読んでいて、気に入った言い回しを何度も口にする。それほど時間を要さずにコピーして、本人になりきります。そして、物まねをしているときは、とても楽しそうでエネルギーが高いのです。

世阿弥は『風姿花伝』の中でこう述べます。

" 物まねの品々、筆につくしがたし。さりながらこの道の肝要なればその品々をいかにもいかにもたしなむべし。およそ何事をも残さずよく似せんが本意なり"

「真似ることこそがとても重要であり、その詳細をどこまでも研究するのがよい」といった意味です。世阿弥はさらに「初級者に限らず上級者でも同じである」とも述べています。

また、「真似る」ことは、決して、そっくりになることを目指すことでありません。「真似る」というプロセスの中で起こる変化が大切なのだと思います。

大人はなぜ子どものように真似られないのか

大人のもつ、たくさんの体験は、そのまま真似ることを邪魔します。

「うまく真似できなかったら、恥ずかしい」
「自分のやり方の方が、うまくいくはずだ」

学習や変化よりもエゴやプライドを優先してしまえば、子どものように簡単に誰かの真似をするのは難しいでしょう。また、そもそも真似をする対象がいない場合も少なくありません。

実際に、エグゼクティブ・コーチングの中で「あなたは誰をモデルにしていますか?」と問いかけたときに、すぐに答えられるエグゼクティブはそう多くありません。逆にすぐに答えられる方は、周囲から「変革リーダー」と認識されている方が多いように感じます。

効果的に真似るには? 学ぶには?

「半年間でエグゼクティブコーチを3人誕生させる」というミッションのもと、その対象である3人のコーチと私は、この半年間、週末を除いて毎日、コミュニケーションツールや電話、対面でやりとりをしています。その3人のコーチとしての経験はバラバラで、10年以上のコーチング経験のあるAさんと、入社5年のBさん、そして3年のCさんです。やりとりの内容は多岐にわたりますが、毎日、お互いに「今日何を学んだか、自分自身について何を知ったか」を共有しています。

その中で「真似る」というコンセプトを取り入れたいと思った私は、自分が毎回のコーチングに向けて準備している内容や、スキル向上のためにしていること、読んでいる(読んできた)文献や記事などのほか、私自身のコーチングセッションの録音をクライアントさんの許可のもと共有するようにしました。また私だけでなく、見本としたいコーチを見つけ、その人からもどんどん学ぶ機会を作ることを提案しました。

すると先日、Bさんから、

「(片桐さんがやっていることを)真似してやってみたものの、それをやる意味が見いだせなくなり、どうしたらいいか迷っています」

と相談されました。その時、私の頭によぎったのは、思想家で武道家でもある内田樹さんの「師を見るな、師が見ているものを見よ」という言葉です。(※2)真似るとは、ただ誰かのやる通りにすればよいというものではありません。とくにすでに多くを体験している大人にとっては、「なぜそれをやるのか」という納得感が不可欠であり、さらに本人が「自分がそれをする意味」を構築する必要があります。

私としては、真似してやってみる意味や意義を伝えたつもりでしたが、うまく伝わっていなかったようです。そこで私はBさんに、私自身がそうするに至った背景やプロセスについて話し、自分のコーチとしての価値観、視点についても伝えました。私の考えを聞いたうえでBさんも、自分の成功体験や失敗体験と紐づけながら、さらに違う視点を提示してくれました。そのやりとりは、Bさんが「真似る」への新しい意味づけをするプロセスとなりました。「真似る」について新しい解釈を手にしたBさんは、現在も有意味に「真似る」ことを継続しています。

私の能の師も、稽古当初「30年は型通りで十分。"自分らしく"なんてやり始めたらへんな癖がつく。真似して一生懸命やっていれば、勝手に自分らしさが出てしまうものだ」とよく言っていたものです。

子どもたちが楽しくやっているように、軽やかに楽しく誰かを真似る。
今、あなたが真似したいリーダーは誰ですか?

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【参考資料】
※1 国際コーチング連盟(ICF)「コーチの倫理規定」
※2 内田樹『寝ながら学べる構造主義』 、文春新書社、2002年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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