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チームの多様性を発揮するために必要なもの

チームの多様性を発揮するために必要なもの
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経営チームに多様性が求められている

あなたの会社の「経営チーム」は、あなたからはどう見えているでしょうか。チームメンバーの多様性、スキルや能力、関係性など、さまざまな角度で見たとき、どんな特徴が思い浮かびますか?

2021年6月、東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードの改訂を施行しました。改訂の主なポイントに「経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表」という内容が含まれます(※)。企業は、各取締役のスキルが、その企業の経営戦略に照らし合わせたときに、機能的に十分であるかを示すことを求められることになりました。つまり、変化の激しい事業環境において、各取締役のスキルに偏りがなく、多様性のあることが、取締役会の実効性向上に役立つと考えられていることを意味するといえるでしょう。

一般に「経営チーム」という場合、取締役会ではなく執行を担うメンバーで構成されたチームを指すことも多いかもしれません。それでも、同じ理由でチームメンバーの構成には多様性が重視されます。

デモグラフィー変数だけで語られることの多い多様性

経営チームの多様性に関する研究は、古くは1960年代に始まりました。その中で、多く採用されてきたアプローチの一つが、経営チームの特質をそのメンバーの人工統計学的なデモグラフィー変数(代表的な変数:年齢、社内経験年数、外部経験、学歴等)から導き出し、その特質が組織のパフォーマンスにどう影響するかを分析するものです。

研究から導き出された見解は実に様々です。多様性がプラスの影響を及ぼすという研究者もいれば、負の影響を及ぼすという研究者もおり、その結論に一貫性は見られません。そのことは、デモグラフィーからみた多様性のみではパフォーマンスへの影響を測るのが難しい証左といえるのではないでしょうか。

冒頭で、取締役のスキルの多様性を示すことが、コーポレートガバナンス・コードで規定されたことに触れました。しかし、それも機能的に必要なものを満たしていると示しているだけで、それが組織のパフォーマンスにどう影響するかは実際のところわかりません。

「多様性」だけでは不足している

コーチ・エィでは、コラボレイティブな経営チームを創るためのワークショップを提供しています。以下は、その中で実施している、経営チームの現状について可視化するアセスメントの分析結果です。

左のネットワーク図では、各メンバー間に数多くの線が結びついています。線はコミュニケーションを表しており、矢印がコミュニケーションの方向です。つまり左の図は、それぞれが双方向の対話で結びついていることがわかります。一方で、右のネットワーク図は各メンバーとの間でほとんど線が繋がっていない、もしくは、繋がっていたとしても双方向でなく一方通行になっていることがわかります。つまり左が双方向の対話の多い経営チーム、右が対話の少ない経営チームの状態です。右のような対話の少ない状態の経営チームは決して少なくありません。あなたの会社の経営チームはどちらでしょうか。

図上の数表は、対話の多い経営チームと少ない経営チームの状態をより詳細に比較し、有意差および有意傾向のあった3項目です。この結果から、日頃から対話の多い経営チームでは、互いに敬意を表し、自分と異なる専門領域の相手であっても、意見を伝え、自分も相手からの意見を聞いていることが伺えます。

いくら多様性を重視してチームを構成しても、それぞれが自分の専門領域について考えるだけでは、単なる足し算にしかなりません。対立が起これば、多様性はマイナス要因にもなりえます。日頃から企業理念やその実践に向けて対話をするような経営チームになって初めて、多様性の真の価値が発揮されるといえるのではないでしょうか。

「機能」ではなく「人」

デモグラフィー変数を扱った過去の研究に対しては、メンバー同士の関係性等が十分に扱われてこなかったことが問題点の一つとして指摘されています。そうした研究では、各メンバーは一つの「機能」として扱われます。つまり、メンバーが入れ替わっても、同じような属性の人が入ってくれば、同じようにパフォーマンスを発揮するはずだと考えられているのです。

先にも述べたコーチ・エィのワークショップには、「お互いをより深く知る」ための時間があります。たとえば、その人は、なぜこの会社に入ったのか? これまでの仕事の成果で、どのようなことを誇りに思っているのか? 逆に後悔していることは何か? 更には、その人がどのようなところで生まれ、どのように育ってきたか。

こうした問いは、業務を離れ、その人自身を深く知るための問いです。こうした問いをテーマに話すことで、経営チームのそれぞれのメンバーが、経営上の「機能」としてではなく一人の「人」として浮かび上がってきます。

ある企業でのワークショップでは経営メンバーの方が、こんなことをおっしゃっていました。

「相手の専門領域にまで突っ込んで話していくには、まずは相手のことをよく知ることが必要です。そういう意味では、このようなお互いを知るための時間が重要になっています。」

多様な個の集まりがチームになるための対話のプラットフォーム

先ほど紹介したデータの中で、コラボレイティブな経営チームでは、メンバー一人ひとりが「相手に敬意を示している」ことを挙げました。そもそも相手を知ることなく、相手に対する敬意は生まれません。多様性の高いメンバーが集まっているのであれば、なおさら、まずは相手を知ることがより必要になるでしょう。そして、お互いの違いを認め合った上で生まれた信頼関係がベースにあれば、「相手の専門領域であっても自らの意見を伝えあう」という対話も起こりやすくなるのではないでしょうか。

お互いのことをより深く知ることのできる場、お互いの違いをぶつけ合える場を、定期的に持つことは、お互いの違いから新しい意味・解釈を一緒に創り出していくことにつながります。多様性が真の価値を発揮するには、こうした「対話のプラットフォーム」とも呼べるものの存在が不可欠なのではないかと思います。

「お互いを知っているようで知らない」、「話せているようで話せていない」という状況は、経営チームに限った話ではありません。リモート環境でメンバーが離れた場所で仕事をすることが一般的になりつつある中、お互いをより深く知ることは、これまで以上に難しくなっていくかもしれません。

あなたの会社の経営チームには「対話のプラットフォーム」があるでしょうか。
そして、あなたのチームはどうですか。

(記事執筆:コーチング研究所 リサーチャー 入野 正嗣)

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【出典】
※ コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版), 2021年

【参考資料】
佐藤大輔. (2008), 「トップ・マネジメント研究の分析視角」, 『開発論集』, 82: 121-152.
谷口真美. (2016), 「多様性とリーダーシップ―曖昧で複雑な現象の捉え方―」, 『組織科学』, 50(1): 4-24.

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