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大人こそ他者から学ぶべき理由

大人こそ他者から学ぶべき理由
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最近、自分の能力が向上したと実感したのはいつでしょうか?

先日、長年にわたってコーチの育成に携わりながら、コーチの能力向上を研究している David Clutterbuck氏 と、コーチとしての成熟について意見交換する機会がありました。

その中でDavid氏から、コーチがより熟練していくためには「let it go(手放す)」、即ちコーチとして「自分の思い込みを手放せるかどうかが鍵となる」という指摘がありました(※1)。

「古いものの計画的な廃棄こそ、新しいものを強力に進める唯一の方法である」(※2)。

この言葉を残したピーター・ドラッカー氏は、先のDavid氏のメンターだったそうです。

学んだことを手放すアンラーニング

激変する環境に対応するため、古くなったルーティンを捨て、新たなルーティンを取り入れる。あるいは、自らの知識やスキルを意図的に捨て、新しい知識・スキルを取り入れる。こうしたプロセスをアンラーニング(unlearning)と言います(※3)。学び(learning)の否定形(un-)で、アンラーニングです。

アンラーニングは、個人のレベルにも組織のレベルにも当てはまる概念です。

私はDavid氏が「let it go」と言ったとき、この「アンラーニング」という言葉を思い出しました。私自身、つい最近アンラーニングのプロセスを体験し、その体験に「let it go」という表現が重なったからです。

新しい学習の機会に飛び込んだものの

私は現在、1年半にわたる海外プログラムに参加しています。コーチの育成に関するプログラムで、一定以上の経験をもつコーチが対象です。言葉の壁に躊躇がありましたが、「だからこそ一層の学びがある」と背中を押され、参加を決めました。ところが、初日から出鼻をくじかれることになりました。

初回に、コーチ同士で二人組になり、お互いに深い内省を促す対話を起こすという実践的な時間がありました。二人組で対話するのですが、相手の内省を促し、話の核心に近づくと、次第に相手が感情を抑えられなくなったり、急に早口になったりします。言葉のハンディを抱える中で、その現象が起こり、私には相手の話の内容がわからなくなってしまいました。

思い切って参加したものの、話が理解できないようではコーチもできない。それではこのトレーニングに参加しても意味がないのではないかと不安になり、私はメンターに相談しました。

状況は変えられない。であれば、対応能力を変えるしかない。

トレーニングの中で、私にできなかったのは、相手が話している内容を理解することです。しかし、メンターと話す中で「話の意味がわからないと、対話を起こすことは不可能なのか」という問いが浮かび上がってきました。

相手が話していることを完全に理解することはできなかったものの、わずかながらであれ、相手の感情は理解することができました。そのことを手掛かりに、私はメンターとともに新たな対話の方法を見出しました。

感覚を研ぎ澄まし、相手の感情を感じる。そして感じたことを伝え、相手の内省を促す、そうやって積み上げる新たな対話のアプローチです。完全には意味を理解できない中で対話が成り立つのか。それはまさに実験でした。

紆余曲折ありつつも、そのアプローチの効果は次第に出始めました。何より大きかったのは、私自身が恐怖感・無力感から徐々に解放され、「意味を理解する」というやり方を手放し(let it go)、感情を通じて相手と向き合い、つながれるようになったことです。

もしメンターがいなければ、私はプログラムを途中でやめていたかもしれません。しかし、メンターの存在によって、つらい体験はアンラーニングのプロセスとなり、成長の機会に変わりました。

大人こそ他者から学ぶことに価値がある

研究によると、大人の学びでは、このアンラーニングのプロセスが重要だそうです。なぜなら、それまでに積み重ねた経験が、新しい情報や新しいやり方を拒む要因となりやすいからです。さらにアンラーニングは、一人で通過することが難しいとも言われます。

成人発達理論の分野では、人の能力の発達を下記の2つのレベルで捉えます(※4)。

  • 最適レベル:他者や環境からの支援によって発揮できる最も高度な能力レベル
  • 機能レベル:他者や環境からの支援なしに発揮できる最も高度な能力レベル

最適レベルは、機能レベルに先行します。つまり他者からの支援によってできるようになった後に、一人でできるようになるという流れです。そして最適レベルを高め続けると、機能レベルも高め続けることができます。泳ぎ方を例にとると、最初はインストラクターについて泳ぎ方のスキルを身につけて上達させ、その後、自主練習で定着させることを繰り返すイメージでしょうか。

また、機能レベルと最適レベルの差は「発達範囲」と呼ばれ、その差は、年齢と共に拡大します。つまり、年齢が上がれば上がるほど、自分一人でできることよりも、ずっと高度なことにチャレンジできるようになるわけです。つまり、大人だからこそ、他者から学ぶことで可能性を広げることができるのです。

経験があるから独力でできる、という考え方は、時に過信であり、機会損失とも言えそうです。

アンラーニングを支援する関わりのポイント

大人にとってアンラーニングは、重要であると同時に、相応の困難を伴います。なぜなら、それまで学習したものを手放すプロセスだからです。そこに必要な他者支援は、どうあることが効果的なのでしょうか? 本日はそのポイントだけ、最後に紹介して終わろうと思います。

  • 支援者は、振り返り(リフレクション)を通じて、その人の視点を超える(superVISION)機会を与えること
  • 支援者は、学習者が自らの経験を振り返り、その経験を一段高い次元で概念化し、言葉にする手助けをすること

経験を題材にリフレクションを起こし、アンラーニングの過程を通じて、新たな次元の能力を構築する。その具体的アプローチは、別の機会で探求してみたいと思います(※5)。

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【参考資料】
※1 Peter Hawkins and Nick Smith, "Coaching, Mentoring and Organizational Consultancy: Supervision, Skills and Development", P156, Open University Press, 2013
※2 P. F. ドラッカー(著)、上田惇生(訳)、『経営者の条件』、 ダイヤモンド社、2006年
※3 松尾 睦、『仕事のアンラーニング』、同文舘出版、2021年
※4 加藤洋平、『成人発達理論による能力の成長 』、 P81, P196, 日本能率協会マネジメントセンター、2017年
※5 2022年2月12日 に、プログラム会員向けの「スーパービジョン」というコースを開催します。

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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