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思ったことを正直に話す価値

思ったことを正直に話す価値
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みなさんには「何でも話せる相手」がいるでしょうか? 「何でも話せる相手」とは、自分が思ったり、考えたり、感じたりしたことを、そのまま言える相手という意味です。

そういう存在の人を思い浮かべることができる人は幸せです。とりわけ、一緒に仕事をする仲間が「何でも話せる」存在である場合は、とても大きな影響力とパフォーマンスが期待できるのではないでしょうか。

今日一日を振り返ってみてください。

会議で、1on1の場で、ちょっとした雑談で、自分自身が思ったことや感じたことに蓋をして、言葉にしなかったことはありませんか? 程度の差はあれ、もしかしたら「話せていない」ことがあることに思い当たる人も多いのではないでしょうか。

この「話せていない」状態は、あまり良いことを生み出しません。

自分を欺くことは、自己正当化につながる

思ったり、感じたことに蓋をして言葉にせず、その場の流れや圧力に影響されて自分が思ったこと、感じたことではないことを口にした場合、そのことに気づいているのは、他でもない自分自身です。

多少大げさに聞こえるかもしれませんが、自分の心や頭にあることと、口にすることが異なっているというのは、自分を欺いていることと同じです。

『問いかけ続ける』の著者であるジェイムズ・カーは、フランスの哲学者ジャン=ポール・サルトルのいう「自己欺瞞」を次のように説明しています。(※)

「自己欺瞞とは、所属する社会に順応することであり、まわりに適合するために自由と自己表現を放棄する心理学的な"譲渡"である」

自分が思っていることを言っていないことに気づきながらも口にしないということは、それはサルトルのいう「自己欺瞞」と言えるのではないでしょうか。

自己欺瞞が誘発する行為の中に、自己正当化があります。自分で自分の中に創り出してしまったギャップを解消するために、自分の正しさを証明したいという心理が働くのです。そして「自分が正しい」という自己正当化は、「他人が間違っている」という他者攻撃につながります。つまり、自己正当化が横行する状態は、互いに責任を押し付けあっている状態にほかならず、チームとして組織として機能しづらくなることは想像に難くありません。

自分を欺けば、自信も失う

他にも自己欺瞞が元になって生まれる現象に、自信の喪失があります。

人は、自分が思ったことや考えたことを臆さずに表現することによって有能感を感じます。リーダーシップにおいて「真正」であることが重視されますが、その真正さは「自分自身に正直である」という意味での規律正しさから生まれます。言うに及ばず、自己欺瞞の状態から真正さがもたらされることはありません。真正でないことは、リーダーシップを棄損するだけでなく、自信も失うことにつながります。

重要なのは、「言いたいことを言わない」という一見ささいなことが、自分だけにとどまらず周囲・組織にも影響してしまうということです。

逆を言えば、何でも話せる状態を創り出すことは、組織を機能させるために非常に重要なことにほかなりません。

身近だからこその難しさ

この半年間、私はコーチ・エィの社内でコーチングを受けてきました。私の担当コーチは、新卒で入社して数年の若手Aさんでした。

Aさんは以前、私のチームメンバーであったこともあり、始まった当初は、コーチングを受ける側として、話すことを意識的にも無意識にも選別していました。私が話したいテーマは明確にあったものの、「社内だし、後輩だし」という思いが先立ち、どう受け取られるのかが気になって話すことができませんでした。

「話したいことはあるが、それを話さない」という状態にフラストレーションを感じた私は、担当コーチであるAさんのコーチングに原因を求める、という絵に描いたような自己正当化を始めました。Aさんのコーチとしての経験の浅さがコーチングがうまくいかない理由だと考えるようになり、そのことでAさんと私の関係はぎこちないものになりました。

ちょうどコーチング期間の真ん中に差し掛かったタイミングで、私はセッションの中で自分が考えていることや感じていることを正直に話し始めました。前進するために、変化するために、正直に話さないと始まらないと思ったのです。

いま振り返れば、そこまで話さないと決めていたのは自分です。コーチングの関係がパートナーシップ関係である限り、私にも責任があるのは確実でした。Aさんなら話しても受け止めてくれるという信頼があって、一歩踏み出すことができたのだと思います。

先輩として、元上司として、自分の話がどう伝わるのか、話し始める時には、心配と恥ずかしさが混ざったような気持ちになったことをよく覚えています。

実際に話をしてみると、言いたいことを口に出すことの価値は圧倒的でした。話をすることで、自分の問題意識や行動したいことがはっきりするのはもちろん、言えていないことで自分の中に何かが沈殿していくような感覚がなくなり、気持ちが軽やかに感じられるようになりました。

Aさんが私の話したことを、どう受け止めたのかはわかりません。ただ、評価や判断をすることなく話を聞いてくれたことは、確かに私の実感としてあります。そして、このことは同じ組織に属するメンバーとして、Aさんへの信頼につながりました。

正直に話すことの先にあるもの

Aさんが社外のコーチであれば、正直になりやすかったかもしれません。社内だったからこそ、そして、相手が自分より若かったからこそ、相手にどう思われるかが気になって、なかなか自分の本音を正直に口にすることができませんでした。関係が近いからこその難しさです。

しかし、自分が思っていることや考えていることを正直に話し、それを受け止めてもらったことで、Aさんと私の間には確かにより強い信頼関係が築かれました。それはおそらく、今後一緒に仕事をしていく上で、とても大事な基盤となるでしょう。

「こんなことを言っては、バカにされてしまうかもしれないから話せない」あるいは「聞いてくれないので、話しても仕方ない」。こうした自己保身や自己正当化は、決して信頼関係につながることはありません。

チームとして組織として、お互いが話したいことを話せる状態を実現することができれば、その影響はとても大きなものになるのではないでしょうか。

あなたは自分の話したいことを話していますか?
あなたは誰にとってそのような存在だと言えますか?

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【参考資料】
※ ジェイムズ・カー(著)、 恒川 正志(翻訳)、『問いかけ続けるー世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範』、東洋館出版社、2017年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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