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楽観的な計画を現実的なものにするには?

楽観的な計画を現実的なものにするには?
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新しい年を迎え、今年の目標を立てられた方も多いのではないでしょうか? 

新年のご挨拶も兼ね、上海で日系企業現地法人のトップをされているA氏とお話しさせて頂く機会がありました。今年の目標を伺ったところ「現地化の推進」とのこと。コロナ禍が始まって2年が過ぎるも、日中の自由な往来が元に戻る時期は未だに見えない。駐在員の入れ替えも以前のように簡単ではない。一方、中国の業績は全社の業績にも大きく影響するため、中国市場でのシェアを伸ばしていくには、中国人が中心となり、主体的に事業拡大を進めていける組織にしなければならない、とのお話でした。

「現地化」は、私が上海に駐在した当初から、数多くの日系企業で聞き続けてきたキーワードの一つです。そこで、

「いつから現地化を進めたいと考え始められたのですか?」

と伺ったところ、A氏はしばらく考えた後におっしゃいました。

「中国に赴任した2007年から、現地化についてはずっと考えていた。計画も立て、実際に中国人を主要ポジションに昇格させたこともあったがうまくいかず、日本人に戻した。試行錯誤を繰り返してきたが、結局まだ実現していない。今度こそ実現したい」

そこで、今回はいつまでに実現したいかをお聞きすると、

「自分が定年で帰国する前、今から2年以内には実現したい」

という答えが返ってきました。

A氏の目は大きく開き、限られた時間の中でやり遂げたいという意思が私に強く伝わってきました。

しかし、15年前から計画を立てながら実現することができていない「現地化」を、今回実現するには何が必要なのでしょうか。

人は計画を楽観的に見積もる

2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、計画を立てる際に楽観的な予測をする傾向を「計画錯誤」と名づけました。彼は「人が計画を立てるとき、たいていはベストケースのシナリオに基づいている。これが計画錯誤である」とし、「たとえ考え直す必要に迫られている場面でさえ、当初の予定通りに結果が出るはずだと思い込んでしまう」と説明しています。(※1)

彼はこの「計画錯誤」を、物事を自分に都合よく楽観的に考える「楽観バイアス」の一つとしており、別の著書で多忙な人こそ、この「楽観バイアス」に陥りやすいことを指摘しています。

カーネマンのよく知られている著書に『ファスト&スロー』があります。彼はこの本の中で、「速い思考(システム1)」と「遅い思考(システム2)」という2つの思考モードがあるという考え方を紹介しました。この2つのシステムはどちらも人間の意思決定に関与しており、まずシステム1が起動して、最終決定はシステム2がするという働き方をしています。(※2)

システム1は自動的に反応して答えを出しますが、システム2は人間が意識的に起動させる必要があります。システム1は、受け取った情報(見たり聞いたりしたこと)だけで、すぐに判断を下します。そのあと、それが正しいかどうかをチェックするシステム2が起動するわけですが、毎回意識的に思考するのは、時間もエネルギーも使いますから、繰り返し起こることへの対応を効率化するため、たいていの場合は、システム1の判断をシステム2が追認するという働き方をしています。

しかし、効率的で速い判断ばかりを優先し、それが常態化してしまうと、システム2によるチェック機能が働かないため、一定の情報に頼った判断になりやすくなります。つまり、バイアスがかかりやすくなるのです。

忙しいあまりに意図的に深く考える時間を取らないでいると、自動的に「最小努力の法則」が働いてしまうわけです。ここに、経営トップなど有能なビジネスパーソンが陥りやすい罠があります。

時間を取ることの価値

実際に、2015年にハーバード・ビジネススクールが実施した研究によれば、CEOの典型的な予定表で、CEOが「一人で仕事できる」時間は15%だけといわれます。その15%の時間も、おそらくは緊急なことに費やされ、深く思考するための時間は限られると推測されます。(※3)

つまり、CEOは、重要な決定をしなければならない立場にあるにもかかわらず、多くの複雑なことについて判断、選択しなければならないため、システム1(速い思考)に偏りやすい環境にあるということです。そう考えたとき、CEOにとってシステム2を起動させるための時間を確保することが、どれだけ重要かが見えてきます。

「現地化の実現」という未来を信じるA氏は、それを実現するために様々なことを考え、議論し、実行してきたことに間違いはないでしょう。しかし、それでも実現に至らなかったのは、考える時間の不足も影響していたかもしれません。

「緊急ではないけれど重要なこと」を考える必要があるとは、よく言われることです。しかし、「そうはいっても時間がない」と思われる方が多いのが実際でしょう。

私はこのことを考えたときに、なぜ近年、コーチをつけるエグゼクティブが増えているか、その理由がわかるような気がします。時間を取るという自分との約束は、他者との約束よりも優先度が下がりがちです。そこで、コーチという他者と約束し、まずは時間をとる。そして、自分のテーマについてコーチと一緒に考える。

そして、自分の視点だけに頼らず、他者の視点を使うことは、システム2を起動させるために役立ちます。A氏の場合であれば、次のような問いをコーチとの間において考えることで、描く未来の姿がよりクリアになり、実現可能性が高まるのではないかと思います。

そもそも、どのような状態が「現地化」なのか?
組織内の周囲の人はどう考えているのか?
現地化を進める上で誰をもっと巻き込む必要があるのか?
自分自身の何を変えるのか?
あらためて「現地化」の先には何があるのか?

少し無理をしてでも、他者と約束して、対話の時間をとることで、緊急な仕事に追われて見えなくなっている視界が、未来まで広がるかもしれません。

一年という時間は長いようで、あっという間に過ぎていくと感じます。
実現したいことのために、あなたは誰と約束して時間を取りますか。

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【参考資料】
※1 Daniel Kahneman, Amos Tversky, "Intuitive Prediction: Biases and Corrective Procedures", Defense Advanced Research Projects Agency, June 1977
※2 ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)、『ファスト&スロー(上)(下)』、早川書房、2014年
※3 Martin Reeves, Roselinde Torres, and Fabien Hassan, "How to Regain the Lost Art of Reflection", Harvard Business Review, September 25, 2017

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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