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「聞く」という行為を再考する

「聞く」という行為を再考する
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お正月には、学生スポーツの大会が数多くあります。スポーツの試合は、リーダーシップ、人の育成、組織・チームの考え方など、多くのことを学ぶ機会になりますが、とくに学生スポーツの場合は胸を打たれるドラマも多く、お正月のスポーツ観戦は、私にとって大きな楽しみの一つです。

今年、第100回大会を迎えた全国高校サッカー選手権大会を圧倒的な強さで制したのは青森山田高校です。決勝戦を前に決勝を闘う二つの高校を特集したテレビ番組が放映され、その中に印象的な場面がありました。

ある試合で相手校に先制された青森山田高校は、厳しい状況のままハーフタイムを迎えます。青森山田高校のキャプテンは松木玖生選手。彼は飛び級で日本代表に選ばれるなど、絶対的なエースです。選手たちはハーフタイムでロッカールームに戻ってくると、前半、パフォーマンスの上がらなかった松木選手に対して「もっと運動量を上げてほしい」と次々にリクエストします。

番組の中で、松木選手はそのシーンについてこう説明していました。

「今年は『全員がキャプテン』というコンセプトでチームをつくってきた。誰もがチームのために意見し、誰もが聞く耳をもつ。私もそうです」

絶対的なエースだから、キャプテンだから、といった立場や役割に関係なく、チーム全体のパフォーマンスを上げるために、お互いに率直に意見を言う。そして、それを聞いて受け取る。そこに青森山田高校の強さが垣間見えるような気がしました。

強さの裏には「聞く」力がある

また、数年前、Jリーグチェアマンの村井満さんの講演を聞く機会がありました。その中で、村井さんはこんなことをおっしゃっていました。

「今、現役で大活躍している本田圭佑選手や岡崎慎司選手は、Jリーグに入った当時、同期選手の中で特段飛び抜けた技術があったわけではなかった。むしろ技術はそれほど高くなかったといってもいいが、彼らに共通して飛び抜けて高い能力がある。それは聞く能力。自分よりうまい人がいればどうやっているかを聞きにいき、自分についてもどう見えるか他人に意見を求める。彼らはそうやってどんどんうまくなっていった」

ビジネスの世界にいる私たちリーダーも、青森山田高校の選手たちや一流スポーツ選手のこの姿勢から学ぶことができます。

自ら相手に意見を求め、耳を傾け、その情報を受け取る。そうした姿勢の重要性は、多くの場面で語られます。こうした姿勢は「自らの成長のために他者からの情報を受け取る行為」と言い換えることができるでしょう。

しかし、この年末に中島岳志さんの『思いがけず利他』という本を読み、この行為のもう一つの意味を知りました。

「利他」は与えたときに発生するわけではない

一般に、「利他」というと他者を利する行為、つまり他人に対していいことをするイメージをもつ人が多いのではないでしょうか。そのとき、私たちの視点は行為をする側、つまり「与え手」にあります。

しかし、中島さんは『思いがけず利他』の中でこう言います。

「いくら相手のことを思ってやったことでも、それが『利他的』であるかはわかりません。与え手が『利他』だと思った行為であっても、受け手にとってネガティブな行為であれば、それは『利他』とは言えません。

(中略)

つまり『利他』は与えたときに発生するのではなく、それが受け取られたときにこそ発生するのです。

(中略)

あくまでも、その行為が『利他的なもの』として受け取られたときにこそ、『利他』が生まれるのです。」

「利他」が連鎖して起こったとしたら

中島さんのこのメッセージが、私にとって印象的だったのには理由があります。

昨年末、1年間の締めくくりとして当社の経営チーム全員が、同僚やメンバーからフィードバックをもらう機会をもちました。アンケート形式のフィードバックではなく、個別に機会を設け、以下のような問いを間にメンバーと対話をしました。

  • 長田は、会社にどのような影響を与えているように見えるか?
  • 長田に変化してもらいたいと思っていることは何か?

耳の痛い話も含め、多くのことを教えてもらう貴重な体験となり、率直に伝えてくれた同僚やメンバーにとても感謝をしています。

その経験を経て、「その行為が『利他的なもの』として受け取られたときにこそ、『利他』が生まれる」という中島さんの言葉に触れ、今回の私たちの行動には、「フィードバックによって成長テーマを知る」という以外の価値を社内に生み出したのかもしれないと思いました。

なぜなら、自ら情報を取りに行く行為には「相手の伝えてくれたことを受け取る」というメッセージが最初から含まれているからです。私が相手からの情報を価値のあるものとして受け取ることで、フィードバックをしてくれた相手は私に「役立つ情報を提供した人」になります。つまりその人は、私に対して「利他的行為」をしたことになる。

自ら他者に教えを乞うことや、フィードバックをもらうことは、相手の「利他的行為」につながる。組織の中に、みんなのため、相手のためという利他的な行為を増やしたいと思うのであれば、自分が情報をもらいにいくことがそれにつながるかもしれないということです。

そうしたコミュニケーションが頻繁に交わされているだろう青森山田高校は、圧倒的な強さで全国高校サッカー選手権大会を制しました。

相手に「聞き」、相手の言ったことを「受け取る」。その連鎖によって「利他」が生み出されていく。そのコミュニケーションが強さにつながっているかもしれないと思うと、「聞く」という行為の奥深さや価値に改めて目が開かれる思いがします。

改めて、私なりに「聞く」を定義すると、

「自身のパフォーマンスをさらに上げるために、他者からどう見えているかを教えてもらう行為であると同時に、受け取ったことを伝えることで、相手に利他を生み出す行為」

と言えるでしょう。

誰に「聞く」を実践しますか?

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【参考資料】
中島武志、『思いがけず利他』、ミシマ社、2021年

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