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1on1をうまくいかせる上司のマインドセットとは?

1on1をうまくいかせる上司のマインドセットとは?
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「数年前に、1on1ミーティングを鳴り物入りで導入したのだが、うまくいっているとはいえない。形骸化している」

最近、このような話をよく耳にします。

1on1ミーティングは、上司と部下の関係を見直し、組織全体のパフォーマンスを向上させることを目的に導入が進みました。その背景には、「対話型組織開発」という考え方があります。そもそもその考え方は、エンゲージメントサーベイを含むアンケート調査等を中心にした「診断型組織開発」には限界があるとして生まれたアプローチです。

「対話型組織開発」が生まれた背景には、変化のスピードが速い現代社会において、未来はより複雑で予測不可能なものになりつつある、という前提があります。

「診断型組織開発」とは、組織を外側から客観的に評価し、それを「正解」に近づけるというアプローチですが、そもそも「正解」が何かわからなくなっている中で、そのアプローチには限界があります。であれば、「今この瞬間」を捉え、自分たちの前提や考え方について対話を通して常に見直し、探索、探求し、協働していこうというのが「対話型組織開発」です。

こうした「対話型組織開発」の一つの施策として、上司と部下における1on1ミーティングが広く行われるようになったのだと思います。

1on1ミーティングは誰のための時間か

図1は、「1on1ミーティング」と「個人および職場の状態」の関係を表したグラフです。緑の線は部下が1on1の時間を「自分のための時間」と感じている場合、紫はその逆です。

波形は同じであるものの、個人の状態、職場の状態のすべての項目で、部下が1on1を「自分のための時間」と感じている場合のほうが、高いスコアが出ているのがわかります。

【図1】「部下のために話す時間をとっている」上司と「それ以外の上司」の組織活性度の比較

部下が「自分のための時間」と感じるかどうか

この感じ方の違いは、何によって影響を受けるのでしょうか。

参考としてもう一つデータをご紹介します。表1は、部下が「自分のために時間をとってくれている」と感じる上司の行動を示したものです。

【表1】部下が「自分のために時間をとってくれている」と感じる上司の行動

これらの項目はどれも大切な要素です。しかし、これらをハウツーとして実践すれば、部下は「上司は自分のために時間を取ってくれている」と感じるでしょうか。実際には、そうはいかないのが難しいところです。

これらの上司の行動は、実は結果にすぎません。大切なのは「なぜその上司はこのような行動をとったのか」。つまり、上司側のマネジメントに対するマインドセットがこうした行動に影響を与えているということです。それを理解しない限り、たとえ行動を変えたとしても、部下が「上司は自分のために時間をとってくれている」と感じる可能性は低いかもしれません。

何のために部下と話すのか

上司と部下との関係性においては、何をするかも大事ですが、上司のマネジメントに対するマインドセットがカギを握ります。

1on1ミーティングを導入した当初はよかったものの、時間が経つにつれて、扱われる内容は数値目標の進捗確認、次の施策を話し合い、結果が良ければ褒めて、未達であれば叱責する。

それでは、せっかく時間を取って話したところで、これまでと何も変わらないでしょう。

上司の行動の根底には、上司自身のマネジメントに対する考え方があるのです。それが変化しない限り、結局のところ上司と部下の関係は何も変わらないのです。

1on1ミーティングがうまく機能していないとしたら、導入する際にこの部分、つまり上司のマネジメントに対するマインドセットへのアプローチが欠落していることが多いからではないでしょうか。

あなたのマネジメントの前提は何か

現在の日本企業の管理職は、バブル期の指示命令型マネジメントで鍛えられた上司によって育てられ、自分自身も管理職として指示命令型で成果を出してきたという方が多いのではないでしょうか。

指示命令型マネジメントも、決して否定すべきものではありません。解くべき問題とその解き方がわかっていて、上司が解決策を知っている場合はもちろん機能しますし有用です。

しかし、現在の業務の多くは、技術の発展、業務内容の複雑化に伴い、上司よりも部下の方が業務内容に精通している場合が多かったり、若い世代のほうが上司の世代にとっては見たことも聞いたこともない新しい手法を知っていたりすることが当たり前になりつつあります。さらには、コロナ禍によるリモートワークの浸透、SNSの急速な拡大によるサブカルチャーへの対応、予測を上回る人口減少など、今までに体験したことのない大きな変化の最中にあります。

にもかかわらず、旧来型の指示命令型のマネジメントに囚われ、業務内容や部下の取り組みやアイディアを知ろうとせず、数値目標の達成を指示し、達成できなかった場合は叱咤激励を繰り返す。このような関わり方を続けている限り、せっかく1on1ミーティングで話す時間を増やしても、部下との協働関係は構築されず、上司に対する不信感が高まるのは当然のことだと思われます。

対話型組織開発の目的は、「今この瞬間をとらえ、自分たちの前提や考え方について対話を通して見直し、探索、探求し、他者と協働することで新しいアイディアや価値を創造すること」にあります。

そのためには、まずは上司が自分のマネジメントに関してマインドシフトをすること。そして、上司と部下の両者で「対話」の目的を共有する。そうして初めてそこに「対話」が始まるのだと思います。

上司が部下とともに、自分たちにとって当たり前になっているルーティン、習慣、物の見方や前提となっている考え方などについて「対話」によって探索、探求する。上司が対話をコントロールするのではなく、「一緒に考える」という、協働関係を構築する。

それが、1on1ミーティングの目的なのだと思います。

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