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「好奇心」は何によって開花するのか?
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「コーチングを受けるのは構いませんが、僕は変わりませんよ。」
金融機関 経営幹部のA氏は初回セッションの冒頭で、こう告げました。
「人の話を聞けと言われますが、正直、気が進みません。自分は社員よりも事業を分かっている。口にはしませんけど、本心ではそう思っています。」
その言葉は、私にも本音に聞こえました。
実は、A氏には数か月前に、現場の社員へのアンケートを通じて、 業績目標への危険信号が届けられていたのですが、本人がそこに「好奇心」を向けている様子はありませんでした。
タイタニックが沈む前にも、同じようにいくつかの危険信号が発せられていましたが、そこに「好奇心」を寄せ、追加情報を求めた形跡は何もなかったそうです。
しかし、A氏はこの後の数か月の間に大きく変化し、自ら他者に対して、質問を投げかけるようになっていきました。
誰かの「もっと聞いた方がよい」というアドバイスに従ったわけではなく、本人の中に「好奇心」が発現してきたからだと言うのです。
一体、何が起こったのでしょうか?
違いを共有し続ける
「自分は分かっている、自分の考えの方が正しい」
A氏は、本心からそう信じていました。
私のコーチとしての仕事は、それを否定することではなく、A氏と共に現実を違った角度から見る可能性を探求することです。そして、A氏も、そのことに対して拒絶はしませんでした。
昇給・昇格、地位・権威、成功・失敗、上司・部下・・・
A氏が使うこれらの言葉の意味と重みは、私が抱くイメージとは大きく異なることが多々ありました。
たとえば、A氏の話に時々登場する「偉い人」という言葉は、私には新鮮でした。「偉い」とは何を言っているのか、そこまで重みのあることなのか、その感覚がよく分からないと伝えると、A氏は不思議そうにしていました。
このように「違って感じる」ことを、私たちは、遠慮なく、率直に、共有し続けました。
好奇心はいつ開花するのか?
ある時、A氏は次のように言いました。
「コーチと話していて、『自分はそう考えない、違って感じる』と言われると、時々、えっそうなの?とびっくりします。自分にとって当然なことは、皆もそう思っているはずだと思っていましたが、段々、自分に思い込みがあるのかもしれないと思うようになりました。」
その後も私たちは、違いを共有しては対話を続けていきました。すると、次第に、A氏が「これはどう思う?」と質問するようになり、私は、それまでになかった「好奇心」をA氏から感じ始めました。
そもそも「好奇心」は、ある物事に対する理解が欠如しているとき、または、物事を理解し始めるときに開花するそうです(※)。
たとえば、私たちは、知らないことがあると分かったとき、落ち着かなくなり、そのことについて知りたくなります。A氏が質問をし始めた背景には、このようなメカニズムが働いていたのかもしれません。
また、段々と自身の特性を知るうちに、一層、自分を知りたくなったようです。
絶妙な不確実性
「以前の私は、部下の話なんて全く聞くつもりはありませんでした。でも、コーチと話し始めてから、相手からどう見えているのかを、自分は分かっていないと思えて、何だか、あなたの立場からはどう見えるのか?と聞いてみたくなってきたんです。」
セッションを重ねるごとに、A氏は自分が何を体験し、何を発見したか、楽しそうに語るようになりました。そして、その気持ちは純粋な「好奇心」から来るものだ、と教えてくれました。
「好奇心」とは本来、誰もが持ち合わせているものなはずですが、実は理解と理解の欠如が行き過ぎたとき、すなわち、自信過剰、自信不足といった両極端の状態に陥ると低下することが分かっています。
そして、その中間の「絶妙な不確実性」の状態でこそ、最高潮に達するそうです(※)。
「この『好奇心』とコーチの存在は、どこかで関係しているように思うんです。」
A氏のこの指摘を受け、文献を調べると、興味深い研究結果がありました。
子供たちが待つ部屋に、母親が入室した後の行動を観察してみると、親子関係に問題を抱えた子供は、母親のそばを離れない傾向があり、関係性が安定している子供は、しばらくすると室内のおもちゃを探し始める(※)。
人は、満たされた関係性で支えられているとき、自ずと周囲に対して好奇心を抱き、探索を始めるそうです。
私の中で、何か合点がいきました。満たされた関係性による安定と、違った視点をもたらす対話の不安定、これらが合流したとき、「絶妙な不確実性」が現れ、変化の基点となる「好奇心」が芽吹き、自ずと探索の旅が始まるのかもしれません。
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【参考資料】
※ イアン・レズリー (著)、 須川綾子(翻訳)『子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力』、p.80~p.92、光文社、2016年
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