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感じていることを自由に話す価値とは?

感じていることを自由に話す価値とは?
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クライアントのAさんが社長を務める会社では、Aさんと役員陣にコーチがつき、組織変革のプロジェクトをご一緒させていただいています。先日、Aさんから「役員のBさんがコーチングに価値を感じていないようだ」というフィードバックをいただきました。

BさんはAさんに、こうおっしゃったそうです。

「コーチからは毎回のように同じような問いが投げかけられる。同じことを繰り返し聞かれるのだったら、わざわざ外部のコーチを起用する意味はあるのだろうか」

AさんがBさんに「そう感じていることを、担当コーチには伝えたのか?」と尋ねると、Bさんは次のように答えました。

「いえ、お互い大人なので、場や関係を乱すようなことは伝えませんでした」

この話を聞いて頭に浮かんだのは「Bさんの担当コーチは、どう感じていたんだろう?」という問いです。Bさんの体験は私に、コーチとクライアントとの関係性について、深く考える機会をくれました。

「違和感」はどこから来るのか

私たちの考え、行動、そして私たちの使う言葉には、私たち個人の価値観、経験、取り巻く環境などが反映されます。つまり、環境や経験が違えば、考え方や行動、使う言葉は違うのが当然です。人は誰一人として、同じ環境で同じ経験をしているわけではありませんから、違いがあることが前提になります。

しかし厄介なのは、私たちは知らないうちに他者に対して「同じであること」を期待してしまうことです。自分の考えや行動とは違うものに触れたとき、なんとなく居心地の悪さを感じたり、しっくりこない感覚を覚えたりするのはそのためです。

こうした違和感を覚えるのは、あまり知らない相手とは限りません。私自身、普段からともに仕事をしている仲間に対して、違和感を覚えることがあります。

では、その違和感をどう扱っているか? 

振り返ってみて気づくのは、相手との関係悪化や、場の混乱を懸念し、その違和感を口に出すことは多くない、という事実です。自分が何を感じているかはビジネスに直接関係ない、一緒にいればそのうち通じ合えるだろう、という考えが発動し、声を上げることをやめてしまいます。

たしかにその場での関係悪化は避けられるかもしれません。しかし、BさんとBさんのコーチの関係を考えると、「感じたことを伝えない」という選択が、いつも正しいわけではないように感じられます。

「違和感」が教えてくれること

先に述べた通り、「違和感」は自分の期待と違うものに触れたときに生じます。ですから、違和感が生じた背景を考えていくと、自分が何を期待していたのかが見えてきます。

つまり違和感を振り返ることは、自分の前提や捉え方を知るプロセスであり、同時に相手はどういう前提や捉え方でその行動をとったり発言をしたりしたのかという興味の湧く瞬間です。

そう考えると、「違和感」は、お互いをより深く知るための大事なきっかけといえるのではないでしょうか。

アメリカの社会心理学者でありスワースモア大学の名誉教授であるケネス・J・ガーゲン博士はその著書の中で、次のように述べています。

「『思考』『感情』『欲求』『記憶』などは、関係の『中』で生まれたものであって、関係の『外』では意味を成さない」(※1)

つまり、相手との間に感じた違和感は、その相手と話すことで初めて意味をもつということです。またガーゲン氏は次のようにもいいます。

「コミュニケーションとは『お互いに意味を作るプロセス』である」 (※2)

感じた違和感を自由に話すことができれば、お互いの考え方を知るきっかけになるかもしれません。そしてその対話は、二人の間に新たな意味を創り出し、より深い関係を構築することに役立つでしょう。また、違和感を見つめることで自分自身の考え方や前提に対する理解が深まれば、その前提の外に新しい選択肢を見つけることもできるかもしれません。

関係悪化や混乱を避けて違和感を放置しても、大きな問題はないかもしれません。しかし、相手と自分をより深く理解し、建設的な関係を構築する機会を失うことにはなりそうです。

感じていることを自由に話せることの価値とは

コーチとクライアントの関係で、クライアントが違和感を口に出すことを躊躇したとき、コーチにできることは、コーチ自身が自分の感情を大切に扱うこと。そして、そのことをクライアントとの間で共有し、対話に持ち込むことです。そこで、私は、Bさんの担当コーチと次のような問いを間に置いて対話をしました。

Q:あなたはBさんとの間に、何を感じていたのだろうか?
Q:Bさんはあなたとの間に、何を感じていたのだろうか?
Q:感じていることを率直に話すことに、どのような抵抗をもっているのだろうか?

「感じていること」を大事にするのは、コーチとクライアントとの関係においてのみ有効なわけではありません。上司と部下、同僚やお客様との関係においても、より建設的で豊かな関係が築ければ、さらに大きな前進の可能性があります。

ビジネスパーソンの多くは、日々目まぐるしく変わる環境の中で目前に迫る課題の解決に追われています。ビジネスに感情は不要であるという考え方は今でも根強くありますし、自分の感情に向き合っている余裕などないかもしれません。

しかし、私たちが感じることは、自分自身や周囲の人をより深く理解し、新たな関係性を築くきっかけとなるはずです。

あなたは、自分の感情にどれくらい気づけていますか?
あなたは、感情を率直に伝え合える相手を、何人持っていますか?

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<参考資料>
※1 ケネス・J・ガーゲン、メアリー・ガーゲン(著)、伊藤守(監訳)、『現実はいつも対話から生まれる』、ディスカヴァー、2018年 
※2 ケネス・J・ガーゲン、ロネ・ヒエストゥッド(著)、伊藤守(監訳)、『ダイアローグ・マネジメント』、2015年

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