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対話を起こす問い、起こさない問い

対話を起こす問い、起こさない問い
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「対話を起こす問い」とは何か?
それが今回のコラムのテーマです。

「対話」では違いを大事に扱います。

育ってきた環境も、持っている視点も違う二人が、それぞれの考えを交差させ、ともに新しいものの見方や新しい意味、つまり新しい物語、新しい解釈を創り出していく。それが対話の、言わば醍醐味です。

「違い」を大事にするわけですから、相手に合わせたやりとりをしていては、対話になりません。また、それぞれがただ違う意見を主張するだけでも対話ではありません。つまり、対話は「会話」とも「ディベート」とも違うのです。

では、どうしたら対話が起こるのか。一つは「対等」であること。そしてもう一つは、「間に問いを置く」ことです。

「対等」であることは、対話が起こるための大前提です。上から偉そうに話したり、逆に下からおもねったりしては、対話は成立しません。双方が、自分を思う存分表現するからこそ違いが顕在化し、対話はその質を高めます。最低限のマナーは必要ですが、過剰な上下関係を持ち込むことは、対話の質を下げる要因となります。

問いを間に置き、そして、その問いに「対等に」向かい合い、それぞれが自分が思うこと、考えることを自由に表現していく。これが対話の始まりです。

お互いに自分を表現したいと思えるような問いが間に置かれれば、対話は熱を帯びます。逆に、そうでない問いを置けば、対話の熱は冷却されてしまう可能性があります。

では、どのような問いであれば、私たちは自分を存分に表現したいと思うでしょうか。

自分の物語を発見する

少し古い話ですが、平成13年の夏場所のこと。当時、横綱だった貴乃花関は右膝半月板の損傷をおして武蔵丸との優勝決定戦に臨み、見事に勝利しました。この勝利は、貴乃花関にとって15年間の現役生活を締めくくる最後の優勝で、勝利した瞬間の貴乃花の表情は「平成の大横綱の鬼の形相」として有名になりました。

このときのことを振り返った、NHKの大越キャスターによる貴乃花関へのインタビューの記録があります。(※)そのインタビューで、大越さんは次のような問いを貴乃花に向けています。

「終始淡々と冷静さを失わなかった貴乃花関があの一番の後だけは、気力がみなぎる、あらゆる熱量が放出されるような表情、忘れられない表情を見せられましたよね。その目には何を見ていらっしゃったんですか?」

インタビューと対話は異なりますが、大越さんのこの問いはとても「対話的な問い」です。

「その目には何を見ていたのか?」

この問いは、内省(セルフリフレクション)を促します。

私たちは普段、自分が何に目を向けているかに無自覚です。しかし誰しも、自分の視界に入るすべてのものを見ているわけではなく、自然と何かに焦点を合わせています。何を選んで「見て」いるかは人それぞれです。そしてその背景には、その人なりの理由があります。

問われることで自らを振り返れば、なぜそれに目を向けたのか、そこに自分なり選択の理由、つまり自分の物語を発見することができます。

対話が起こらない問いとは

芸術家は、作品を創るプロセスの中で、自分と対話し、自分の物語を見出し、それを作品を通して世の中に表現します。小説家も同じでしょう。

しかし、自分の物語を表現するのは、何も芸術家や小説家だけの特権ではありません。誰しもが、自分の物語を他者に語って聞かせたいと思っているものです。

実際、先のインタビューで貴乃花関は、大越さんの問いに対して、思いの丈を熱く語ります。(※)

もし大越さんが貴乃花関に対して、

「あの時はどうだったんですか?」

と尋ねていたら、貴乃花関はそこまで熱く自分を語らなかったかもしれません。なぜならあまりに問いが漠然としていると、セルフリフレクションが起こらないからです。

対話は新しい物語を紡ぎ出す

対話が起こる問い。それは、対話に参加するそれぞれが、自らの物語を語りたくなるような問いです。

「会社の未来はあなたにはどのように見えていますか?」
「会議の最中にあなたが感じている違和感とはどのようなものですか?」
「あなたは、マネジメントが発信しているどんな言葉をよく覚えていますか? それはなぜですか?」

SNSでの発信もいいですが、目の前の人と、お互いの物語を共有する。お互いを表現し合い、お互いの表現を交差させる中で、新しい物語をともに創り出して行く。こんなに意味深い人間としての行いはないと思います。

まずは、自分で自分に問いを投げかけてみてもよいかもしれません。その問いは、自分の内省につながり、己の内なる発見を可能にする問いなのかを確認してみる。

何が対話を起こす問いかを知っている人は、多くの問いを自分に投げかけ、自分の内側で起こるリアクションを試したことのある人なのではないでしょうか。

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【参考資料】
※ NHK Sports 特集『告白・貴乃花の「相撲道」完全版 前編』2019年4月24日
https://www3.nhk.or.jp/sports/story/3180/

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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