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「正しさ」の向こう側にあるもの

「正しさ」の向こう側にあるもの
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私の家にはチワワが2匹います。外から家に帰ると、まるで10年帰りを待っていたかのように大騒ぎしながら出迎えてくれます。喜び丸出しのお迎えですが、そのように迎えられるとこちらも感情丸出しで、普段出さないような高い声を出しながらそれに応えます。

この日々の儀式は、また会えたというだけで、こんなにも素直に喜び合うことが出来る感情が自分の中にあることを教えてくれます。

毎日会社に出社して、こんな風にまた会えたことを互いに喜び合えたら、どんな毎日になるのでしょうか。想像すると、ちょっと気持ち悪いような気もしますが、そんな毎日だったら、今とは違うところからエネルギーが溢れ出てくるようにも思えます。

内側にしまわれた感覚

こんなふうに、私たちが日常生活の中で、自分の中に隠してしまって、容易に取り出したり、表現したりすることが出来なくなっていることには、どんなことがあるでしょうか。人によって差はあるかもしれませんが、子どもの頃は今よりもっと、やりたいものは「やりたい」、嫌なものは「嫌」と表現していたのではないでしょうか。感情以外にも、たとえば自分の主観、自分の欲求、自分に対する誇りや自信、そして根拠はなくても「こうした方がいい」と突然頭にひらめく直観。

みなさんにも心当たりはありますか。

スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学でした有名なスピーチの中に、こんなくだりがあります。

「あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直観に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。」(※1)

論理的判断に頼るのではなく、対象の本質を見抜くこと。これが「直観」です。つまり思考をはさまない、ひらめきに近い心の声です。

彼の言葉は私たちの心を震わせるとともに、いかに自分の心と直観に従うことが難しいかを教えてくれます。子どもの頃にはできていたこと、どうしてそれが難しくなったのでしょうか。

やってみないと本当はわからない

私のクライアントが、こんなことを話してくれました。

「子どもの頃、『ガラスにボールをぶつけたらいけません』と言われると、逆にそれをやってしまうことがありました、自分はそんな子どもでした」

「えええーっ」と目を丸くして驚く私を尻目に、

「ガラスが割れると大人がどんな反応をするのか、そして自分はどうなってしまうのか、本当はわからないし、何がダメなのかもわからない。当時の私はそう考えていたんです」

と続けます。

「いやいや、そんなこと、考えればどうなるかわかるし、ちゃんと考えないとダメじゃないですか」

そう言ってみて、自分の中に「ちゃんと考えて行動すべき」という前提が当たり前の様に埋め込まれていることに気づきます。

「よく考えて行動しなさい」

子どもの頃から繰り返し多くの人から言われてきたセリフです。先のことを想定できるようになることが成長であり、子どもと大人の違いである、私たちの頭の中にはそんなふうに無意識に刷り込まれています。

よく考えて、問題が起こりそうならそれを回避する。きっとこの思考が、私たちの生存確率を高めてきたのでしょう。

体験をすれば、問題は起こるかもしれない。でも、体験をせずに、考えることでわかった気になってしまうと、その体験から学ぶ機会を失ってしまう、そんな側面もあるのかもしれません。

ブレーキを外す

「考えても答えがわからない」という時代に突入しています。「考えて正しい答えを出す」という行動パターンが通用しないケースが増えてきたという体験をされている方も少なくないでしょう。

こんな時代だからこそ、「直観」の力を改めて見直す必要があるかもしれません。

マルコム・グラッドウェルによる『第一感』の中に、ジークムント・フロイトの言葉が紹介されています。(※2)

「たいして重要じゃないことを決めるときには、いろいろな選択肢を熟慮するのがよい。ただ真に重要な問題、例えば伴侶や職業を選ぶといった場合には無意識、つまり私たちの内なる声に従って決めるのがいい。人生における重大な決断に際しては、私たちの本性の奥深くに潜むニーズに判断を委ねるべきだと私は思う」

思い返せば、私が前職IBMからコーチ・エィへの転職を決めたときには、まさに自分の判断を直観に委ねました。「なぜ転職したのですか」聞かれれば、それらしいことを説明しますが、実は正直、自分でも本当のところはよくわかっていません。

コーチという職業について、コーチ・エィという会社について知った時、2秒くらいでビビビッと来たのです。やってみたい、行ってみたいという根拠のない想いが湧いてきました。その後、熟考すればするほど何が正解かわからなくなったのですが、最終的に自分の直観に従いました。

その判断が正しかったかどうかはわかりません。でも、間違いなく自分が想像もしなかったような数々の体験と学び、そして喜びを私にもたらしています。

世の中には、やってみないと、本当のところはわからないことがたくさんあります。

「正しいことは何か、よく考えるべき」

そういった大人の条件のような前提、ブレーキを外し、自分の直観に耳を傾けることがもっとあってもいいかもしれません。

スタンフォード大学でのスピーチをスティーブ・ジョブズはこう締めくくっています。

Stay Hungry. Stay Foolish.

思考にあふれた頭の奥底に、あなたはどんな想いやひらめきを閉じ込めていますか?
あなたの周りはどうでしょうか?

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【参考資料】
※1 スティーブ・ジョブズによる2005年6月の米スタンフォード大学での卒業式でのメッセージ。2011年10月9日付で日本経済新聞電子版に掲載されたものから引用。
※2 マルコム・グラッドウェル著、沢田博(翻訳)、阿部尚美(翻訳)、『第1巻~「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい~』、光文社、2022年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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