Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
対話の価値とは?
コピーしました コピーに失敗しました我々の仕事は、コーチングという手法を通じて「対話」を世の中に広めていくことです。
コーチ・エィでは対話を次のように定義しています。
「それぞれが培ってきた経験や解釈、価値観をもとに『違い』を持ち込み、互いの『違い』を顕在化させながら、新しい『意味』『理解』『知識』を一緒につくり出す、双方向なコミュニケーション」
つまり対話とは、これまで当たり前と思っていた前提を問い直し「新しい解釈・意味づけ」をつくるプロセスといえます。
お客様とのプロジェクトを通じて「対話っていいものだな」「いいことをやっているな」と感じるのですが、実際、企業・組織にとって対話の価値とは何なのか、わかっているようで実はわかっていないような気もします。
そこで今回、改めて「対話の価値」について考え、自分なりに整理を試みました。キーワードは、「価値の創造」「変化への対応」「人間らしさ」の3つです。
価値の創造
対話の価値の一つ目。それは新しい「価値の創造」です。このテーマは、我々がご支援させていただいているプロジェクトでは非常に多いテーマで、どの企業でも新しいビジネスを創ることが求められていると感じます。
新しい価値の創造に向けて、一人で考えるには限界があります。多様性を活かし、共に考えるコラボレーションが有効です。
しかし「多様性を活かす」と言っても、実は簡単なことではありません。
クライアントである社長のAさんとのセッションで、
「何が組織の壁を作っていると思いますか?」
と尋ねると、Aさんからは、
「多様性です」
という答えが返ってきました。Aさんの会社はいくつかの企業が統合してできた会社で、出身の会社がどこかといった「違い」「多様性」が組織の壁を作っているというのです。
多様性は、組織の壁をつくる要因にもなり得る。それは私にとっての発見でした。
世の中では「ダイバーシティ」という言葉が氾濫しますが、多様性を生かすには、前提として「違いを生かす」対話力が必要だと実感しました。
また、価値創造に向けては、そもそも自分たちは何者なのか、企業の存在意義(パーパス)についての対話も重要です。共に目指すものがあるからこそ、互いの「違いを生かす」ことができるのだと思います。
「価値の創造」に向けて、以下の問いを相手との間において対話をしてみてはいかがでしょうか。
- 我々は何者になりたいのか?
- どんな価値を創りたいのか?
- 本当の顧客は誰か?
- 成功に向けたコラボレーションとは何か?
変化への対応
対話の価値の二つ目。それは「変化への対応」です。今は変化の激しい時代で、未来の予測は困難です。
『BCGが読む経営の論点2022』には「『先を読む』経営から、『先が見えないことを前提とした』経営へ」とあります(※)。また、弊社のアドバイザリーボードのお一人は「経営とは、環境適応行為である」とおっしゃっていました。この時代、変化への対応は「経営そのもの」と言えるかもしれません。
では、「対話」はそこにどう貢献するのか。
私は、変化への対応に対話が貢献する側面は2つあると考えています。
一つは自律型人材の開発です。実際、自律型人材の開発も、プロジェクトでは非常に多いテーマです。
変化の中では、一人の優秀な経営者の意思決定ではなく、組織のメンバー一人ひとりが、常に現状を見直し、新たなやり方・考え方を共創していくこと、自発的にアクションをとっていくことが必要です。
自律的であるとは、自分で考え、自分で行動し、自分で修正しながら前進できることです。そのためには、言われたことをただやるのではなく、なぜそれをやるのか、自分にとっての意味づけができている、つまり「自分事」になっている必要があります。対話を通して、組織が目指すものについて、自分なりの意味を見出すことのできる人が増えれば、組織は自ずから変化していくでしょう。
もう一つは、意思決定・アクションスピードの向上です。変化への対応にはスピードも重要です。
あるクライアント企業の社長は、社内で対話が起こるようになり「会社の血液がサラサラになった」と表現されていました。
以前は、上司・部下間/組織間の意見の食い違いによる対立や躊躇で、社内のコミュニケーションが分断、停滞していることが多かったといいます。それが、組織の至るところで違いを生かした「対話」が起きるようになり、コミュニケーションが円滑化され、会社全体としての意志決定・アクションのスピードが高まったそうです。
自らも変化しないと生き残れない時代。生存確率を高めるために、組織としても個人としても対話リテラシーの重要性は高まってきていると感じます。
- 我々が前提としていることは何か?
- 変化に対応するのではなく、変化を創るとしたら?
- 変化することにどんな抵抗があるか?
こうした問いを間において対話をすることは、変化への対応力を高めるのではないでしょうか
人間らしさ
最後の一つとして挙げたいのが「人間らしさ」です。「人間らしさ」自体がプロジェクトの目的になることはあまりありませんが、成果として感じることが多いテーマです。
企業は株主のために経済的な価値を追求するだけではなく、社員や地域社会のウェルビーイング(心身の健康、幸福)といった非財務指標も重視されるようになってきました。「人は、成長のための機械・資源(human resource)ではなく、人間(human being)なのだ」という価値観も大事になってきていると感じます。
対話では、対等な関係でお互いを尊重し、お互いの主観を共有し、お互いの感情も大事な要素として扱います。
「長い間、顔と仕事ぶりは知っていた同僚と、はじめて人としてのコミュニケーションをとれるようになった。嬉しいです」
あるプロジェクトのアンケートでのクライアントのコメントです。
我々はついつい人を機能(ファンクション)として見てしまってはいないでしょうか?
人を人として扱う、人間らしく働く、これは組織にとって、忘れられがちな、しかし実は非常に大事なことかもしれません。
たとえば、こんな問いで周囲の方と対話をしたら、いつもと違った一面が見えるかもしれません。
- あなたはどんな人なのか?何を感じているのか?(Who are you)
- あなたはどこに向かおうとしているのか?(Where are you going)
- あなたは何がやりたいのか?(What do you want to do)
対話の価値とは?
今回挙げた3つ以外にも、対話の価値を発見することはできるでしょう。また、もちろん対話だけで全てが解決されるわけではありません。
それでも私たちは、変化に対応し、新たな価値を生み出し、人間らしく働ける社会を目指して、これからも「対話」をひろめていきたいと考えています。
みなさんは、対話にはどのような価値があると思われるでしょうか。
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【参考資料】
ボストンコンサルティンググループ(編)『BCGが読む経営の論点2022』日経BP、2021年
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