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一流はリソースをどこに見出すか
コピーしました コピーに失敗しましたコーチ・エィでは、コーチングを「対話(コーチング・ダイアローグ)を通して、クライアント(コーチングを受ける人)の目標達成に向けた能力、リソース、可能性を最大化するプロセス」と定義しています。
「能力、リソース、可能性を最大化する」というのは、具体的にどういうことなのでしょうか。
みなさんにはピンとくるでしょうか。私自身はといえば、先日、新入社員から質問され、自分がわかったつもりになっていることに気づきました。質問に答えてはみたものの、口から出るのは常套句ばかり。実際にはよくわかっていないかもしれない。そんな思いに囚われました。
このことをきっかけに、改めて「リソースの最大化」とはどういうことなのかについて考え始めました。リソースとは、つまり「資源」です。コーチングで「リソースの最大化」というとき、クライアントがもっている資源を自身の前進のために最大限に活用することを意味します。
では、クライアントがもっているリソースとは何か、そして、それはいったいどこにあるのか、そんなことを考え始めました。
そもそもリソースはどこにあるのか
NHKで放映中の『SWITCHインタビュー 達人達』という番組があります。様々な分野の第一人者が「今一番会って話してみたい人」を指名してインタビュー。翌週は、話し手と聞き手の立場を交替(SWITCH)してインタビューするという構成の番組です。登場する二人が自らの哲学や成功への道筋について対話する番組で、毎回録画しているお気に入りの番組の一つです。
先日、卓球金メダリストの水谷準さんとホスト界の帝王ROLAND(ローランド)さんの回がありました。※
水谷さんからローランドさんへの興味は「どうやって弱い自分に打ち勝ってきたのか」。ネガティブ思考を自認する水谷さんは、言わずと知れた"ビッグマウス"のローランドさんが、どんな考え方をもっているのか、ナンバーワンにどうやって登りつめたのかについて尋ねます。
ローランドさんは「ナンバーワンだったらどうやって目覚めるか、ナンバーワンだったらどうやって朝ご飯を食べるのか、ナンバーワンだったら...というイメージを描き、誰も見ていなかったとしても、常にナンバーワンのあり方を選んできた」と語ります。
一方、ローランドさんから水谷さんへの興味は「ナンバーワンをキープし続けるにはどうしたらいいのか」ということです。
10年間日本のトップに君臨し続けた水谷さんにこそ、聞いてみたい質問です。水谷さんは答えます。
「過去の栄光にすがる人がとても多い。『優勝した時のあのパフォーマンスはどうだったかな』『優勝した時、どういう練習をしていたかな』と考えている人は必ずどんどん落ちていく。勝っても負けても、常に自分の限界を求めて、挑戦を続ける人が強いんじゃないかなと思います」
このやりとりを聞き、二人に共通しているのは、自分がすでに手にしているものではなく、未来や自分の外側にあるものなど、まだ手にしていないものもリソースとして活用している点ではないか、という発見がありました。同時に自分は知らないうちに「リソース」を、クライアントがすでに手にしているもの、つまり、過去の経験や持っている知識や能力、ネットワークなど、「過去」に限定していたかもしれないことにも気づきました。
リソースを最大化するには
私は今、社内でエグゼクティブコーチの育成に取り組んでいます。私が担当している3人の中のAさんは、真面目で責任感も強く、少しずつ着実に前進していきたいタイプです。
取り組みがスタートして以来、Aさんは毎日の終わりに、その日の自分をセルフリフレクション(内省)した内容を共有してくれます。本来、リフレクションは反省ではなく、客観的に自分自身の現状を見つめることですが、Aさんの振り返りは、いつもやや反省モードでつづられ、振り返る対象はいつも自分。思うように前進しない(と感じてしまう)自分にもがきながら「どう変ればいいのか、どうしたら変われるのか」、光の見えない箱の中で、ぐるぐる回っているようにも見えました。
ある時、先ほどのテレビ番組の内容を、Aさんにシェアしました。真面目なAさんにはホストの話は興味がないかなと思った矢先、
「ローランドさんの問い、いいですね!」
「ナンバーワンだったら」という問いは、自分の状況を深刻に捉え、悶々としていたAさんの目を外に向けるヒントになったようでした。
「自分なりに工夫を加えて、リフレクションの視点に取り入れてみます」
と言ったその日から、Aさんが一日を振り返るための問いは変わりました。
「一流のエグゼクティブコーチは何をしているか? どんな振る舞いか?」
この問いを手にして以来、Aさんがその日に目撃し、立ち会った社内外のコーチたちが登場するリフレクションが届くようになりました。
「○○さんは、小さな約束でも必ず守る。私は...」
「▲▲さんは、アサーティブな振舞いをする。私も...」
「◇◇さんは、強い信念を持っている。私との違いは...」
他者との違いに向き合い、新しい発見をするには、いかに自分を素直に見つめることができるかがカギを握ります。自分の正しさにこだわっていては、この視点は手に入りません。相手と自分の違いと共通点を顕在化させ、認識する。このマインドセットが、外のリソースを自分のリソースにしていく際に必要なものであることはたしかです。
この取り組みを始めて1ヵ月が経ちますが、Aさんとは、以前に比べて未来について対話することが増えました。「こうありたい」というAさんのビジョンが見えてきたからかもしれません。
"私たち"のリソースを一緒に創っていく
外のリソースに触れることで、自分のリソースが刺激されたAさんとの日々の対話は、もちろん私にも影響を与え、私自身のコーチングを見直す機会にもなっています。
同じ問いを間において、毎日対話を継続することで、Aさんの外側にあったリソースが、Aさんのリソースとなり私のリソースになる。
こんな、リソースの連鎖がおきたら、チームや組織の可能性は高まるに違いありません。
不確実性の時代、今自分が持っているリソースはこの先使い物になるかわかりません。自分の周りにはどんなリソースがあるのだろう、と見まわしてみる。そこに自分や組織の新しい可能性を探しにいってみませんか。
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【参考資料】
※ NHK『SWITCHインタビュー 達人達 水谷隼×ROLAND EP1&EP2』2022年5月16日、22日放映分
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