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一つ上の視座を手に入れるために必要な、たった一つのこと

一つ上の視座を手に入れるために必要な、たった一つのこと
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Language: English

「高い視座で物事を見れるようになって欲しい」

多くの方が、この言葉を上司や周囲の人からかけられた経験があるのではないでしょうか。また、部下や周囲の人を鼓舞することがあるのではないでしょうか。

「視座」とは、「物事を見る立場、視点(広辞苑)」です。立場が変われば、見えるものも変わります。

エグゼクティブ・コーチングのテーマとしても、「事業責任者から経営者へ」といったように、一つ「上」の立場でモノを見ることを扱うことが、多々あります。

私自身も、「もし自分が社長だったら」とか「自社ではなく業界としてみた時に」といったように、視座を上げるために立場を変えて考えることを意識することはよくあります。

しかし、その瞬間は視座が高まった気になるけれども、その高い視座が長続きしない、要は結果を出すことに繋がらない感覚があります。

みなさんは「高い視座」でモノを見るために、どんな工夫をしているでしょうか。

ケース:問題が次から次へと湧いてくる

新任執行役員のXさんは、トップからの期待も受け、やる気に満ちていました。彼は役員になる前から、気になることを都度「課題リスト」として書き留めていて、いよいよ役員として力を発揮することを、心待ちにしていました。

役員になってしばらくは、その課題リストを次々と実行に移すことで会社が好転していく感覚があり、手ごたえを感じていましたが、3か月程経った頃、ふと大きな徒労感に襲われたのです。

「やってもやっても終わらない」
「次から次へと問題が湧いてくる」

Xさんには、「課題リスト」をつぶしていく以外にも、やらなければいけないことがたくさんありました。役員としての目標遂行はもちろんのこと、今まで以上に入ってくる情報を元にうまれる新たな問題意識もあります。Xさんにとっては、まるで問題が次々と湧いてくるように感じられました。やってもやっても終わらない状態に、途方に暮れてしまったのです。

増えていくばかりのこの膨大な問題・課題を、どう解決していけるのだろうか?

Xさんは上司に打ち明けました。

「頑張っても頑張っても終わらない。むしろ問題が大きくなっていくように感じる。どうやったらいいのだろうか? あなたならどうするだろうか?」

上司はXさんに問いかけます。

「それはみんなXさんがやらなければならない事なの? 役員として優先してやるべきことは何なんだろう?」

そう問われて考えていくと、Xさんの気持ちはいくらか軽くなりました。自分のビジョンが明確になり、優先順位づけがされ、やるべきことが整理されていく感覚です。

しかし時間が経つと、根本的な悩みが解消されていないことに気がつきます。問題の数は減ることがなく、あくまで、手をつける順番がはっきりしただけでした。

Xさんが引き続き思案していると、ある時、上司がふとこう言ったそうです。

「Xさんは、良くも悪くも現場主義な人だよね。それはそれで良いと思うんだけど、あなたがもっと対話すべき相手って誰なんだろうね?」

その問いを耳にして、Xさんのどこか曇っていた視界が、一気に晴れていく感覚を味わったといいます。

視座が変わるマジックワード

Xさんは役員になったことで、もっと自分自身が考え、影響力を発揮し実行していくことで会社は良くなっていく、と考えていました。しかし皮肉なことに、どうすればいいかを考えれば考えるほど「問題・課題」がまとわりついてきました。そして、時間のなさに追われ、自身のケイパビリティ以上の解決策を導き出せないジレンマを痛感します。加えて、未完了が増えていくことへの自己嫌悪に襲われ、ストレスにさらされていました。

そんな時に上司から「誰と対話すべきか」を問われ、問題のストレスが半減し、明るい未来が描ける感覚を感じたといいます。

ハーバード大学の心理学者、ロバート・キーガン教授は、人間の知性の発達段階を次の3段階に分類しています。

第一段階 環境順応型知性(ひたすら仲間から受け入れられようとする段階)

第二段階 自己主導型知性(自律的な自意識は発達しているが、自分のモノの見方を頑なに信じ変えようとしない段階)

第三段階 自己変容型知性(変容するための協力的な人間関係を持つ段階)

Xさんにとって、上司からの問いは、キーガンの言う三番目の段階に上がるきっかけをつくるものでした。この問いによってXさんの頭には、自分より優秀な人や、違う経験や視点を持つ人たちがたちどころに浮かび、「どうやるか」の解決策も含めて手にできる感覚が生まれたのです。

VUCAの時代の中で創造的なイノベーションを起こすには、私たちはこれまで以上に視座を上げていく必要があります。キーガン教授によれば、自己変容型知性を発揮している人は全体の10%に満たないそうですが、その段階に到達するカギは、何よりもシンプルに「誰と」を考えることなのかもしれません。

どうやるか、ではなく誰とやるか

視座を上げるということは、すなわち今の自分では達成できない可能性が高いことに直面するということでもあると思います。

「自分が社長ならどうするだろうか?」

この問い自体が悪いとは思いませんが、これはあくまで自分の立場を疑似的に変えているだけです。つまり、思考は自分自身の枠の中にある。

しかし、思い切ってその習慣を変え、「誰とやるか」「誰に相談するか」「誰が助けてくれるか」と、問いを変えてみてはどうでしょうか。

頭に思い浮かぶその「誰」は、立場に関係なく、自分より優れた面をもっている人なのだと思います。いまの自分では達成できないことにチャレンジするために、もっともっとその「誰」の思考そのものを借りていくのです。

難題になるほど、結果を出す能力は「どうやるか」ではなく、「誰とやるか」に左右されるように思います。

あなたのその問題の「誰か」は誰ですか?

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【参考資料】
ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー(著)、池村千秋(翻訳)、『なぜ人と組織は変われないのか―ハーバード流 自己変革の理論と実践』、英治出版、2013年
加藤洋平(著)、『成人発達理論による能力の成長』、日本能率協会マネジメントセンター、2017年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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