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フィードバックを自分のものにする

フィードバックを自分のものにする
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先日、私のエグゼクティブコーチのクライアントであるAさんと、彼の上司との三者面談の機会がありました。Aさんの上司は、コーチである私に対して、「Aさんにはもっと厳しくフィードバックをしてほしい」と言います。

上司から見ると、Aさんはフィードバックをかわしたり、受け止めたふりをしているように見えるようです。

Aさんの上司の言葉を私自身の「フィードバック能力に対するフィードバック」として受け止めつつ、Aさんがフィードバックをかわしているように見えるのはなぜなのか、それはどういうことなのかを考え始めました。

「フィードバック能力」には「する」と「受け取る」の2つがある

どんな人であっても、自分には見えない「ブラインドスポット(盲点)」があります。自分の背中を鏡なしで見ることができないように、ブラインドスポットを認識するには、第三者の目が必要です。

それは我々コーチの大事な仕事でもあります。クライアントのリーダーシップの洗練に向けて、問いかけたり、クライアントのブラインドスポットをフィードバックしたりします。つまり、コーチとしてフィードバック能力を高めることはとても重要です。

コーチだけではなく、組織で働く人にとってフィードバック能力が求められる機会は多々あります。評価面談での上司から部下へのフィードバックはもちろん、部下から上司へのフィードバック、360度評価など、さまざまなかたちでフィードバックが活用されます。これは、フィードバックループを回すことで、組織内のブラインドスポットを減らし、よりよい状態にしていくことが目的です。

組織内でのフィードバックに関しては、以下のような調査結果を紹介している本があります。(※)

「人事部の上級幹部に、人事管理で最大の課題は何かと尋ねたところ、そのうち63%がマネージャーたちがフィードバックに際して面倒な話し合いをする能力がないこと、あるいはしたがらないことを挙げている」

リーダーのフィードバック能力の向上が、組織にとっても重要なテーマであることがわかります。しかし一方で、同じ本の中に、次のような記述もあります。

「フィードバック提供者のスキルが向上しても、受け手が言われたことを自分のものにできなければ、大した効果は望めない。そのフィードバックを受け入れるか否か、内容をどう解釈するか、それに従って考えや行動を変えるかどうかは、ひとえに受け手が決めることなのだ」

「フィードバック能力」というと、私たちはついフィードバックをする能力だと解釈します。しかしフィードバックの価値を最大限活用するためには、「する能力」だけではなく、「受け取る能力」の向上にも目を向ける必要があるのかもしれません。

では「フィードバックを受け取る能力」とは、いったいどのようなものなのでしょうか? 私たちは、その能力をどうやって向上させることができるでしょうか。

フィードバックの提供者と内容を切り離す

実はコーチングで360度フィードバックを扱うときに、「誰からのフィードバックか」を気にされるクライアントが数多くいます。上司・同僚・部下からまったく同じ内容のフィードバックをもらっても、誰からのフィードバックかによって受け取り方に違いが表れることもよくあります。

私はここに、フィードバックを受け取る能力の一つのヒントがあるのではないかと思います。

* * *

クライアントのBさんは、数々の成功を収めてきた優秀なリーダーです。私とのコーチングを始めるにあたり、現状を知るための360度評価を実施しました。

結果として、同僚や上司からは、定量的にも定性的にも肯定的な評価を多く受け取りました。一方で、直属の部下のフィードバックは否定的なものが数多くありました。Bさんはそれを見て、「問題は部下たちにある」と即座に切り捨てました。

「私の求める水準が高いので、ついてこられない者がいる。プレッシャーを与えて結果を出させるやり方に慣れていないのだ」

Bさんの言うことは正しいのかもしれません。しかし、フィードバックの結果も現実です。「Bさんが正しくて、部下が間違っている」といえる根拠はどこにあるでしょうか。

「部下からはどう見えているか」という情報を受け取ろうとしないBさんの姿は、私の目に、Bさんが自分のマネジメントの課題を部下の能力の問題にすり替えているように見えました。

そこで、コーチングセッションの中で、Bさんがどんな行動を取っているのかやBさんの考えを十分に聞いたうえで、周囲の反応についても問いかけました。

同僚・上司の反応と部下の反応の違いは、どこからくると思いますか?
部下は、どんな思いや気持ちでアセスメントに回答したのでしょうか?
組織全体のパフォーマンスを上げるために、このアセスメントをどのように活用したいですか?

それらの問いに答えながら、「誰から」のフィードバックかという視点ではなく、自分が「与えている影響」という観点でその内容について考え始めました。

その後Bさんは、部下との間で、自分がどのように振舞えば共に目標に向かって前進できるかという対話を始めるようになりました。

フィードバックの内容と、その提供者を切り離して考える。これは、フィードバックを受け取る能力の一つかもしれません。

* * *

自分の成長に、周囲からのフィードバックは必要不可欠です。しかし、誰にとっても、ブラインドスポットを指摘されるのは心地よい体験とはいえません。フィードバックを受け取る際に、葛藤のない人などほとんどいないのが現実です。

しかし、自分の成長は自分次第です。そう考えれば、どんなフィードバックからでも学ぶことはできるはずです。

そしてその結果、自分が望む結果に適切な行動を把握・選択できるようになるのです。

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【参考資料】
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部(著/訳)『EIシリーズ:セルフ・アウェアネス』ダイヤモンド社、2019年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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