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「問い」の可能性

「問い」の可能性
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クライアントのAさんは、事業基盤を確立するミッションで社長としてB国に赴任しました。B国には各部門から集められた精鋭たちがすでに送り込まれており、Aさんは、多様なバックグラウンドを活かした議論が展開されていることを期待していました。

しかし実際に赴任して目撃したのは、声の大きなメンバーが主張を通し、他のメンバーは口をつぐむという光景です。その状況に違和感を覚えたAさんが各メンバーの話を聞いてみると、「コンフリクト(対立)が起きるとそのあとが大変なので、黙ってやり過ごすようになった」という声があちこちで聞かれました。

解釈が変わっても、現実は変わらない

コンフリクトを避ける傾向があるのは、Aさん自身も同じでした。しかし、組織をドライブするために必要なことを一緒に考えていく中で、コンフリクトは新たなアイディアを生み出すためには避けて通れないものかもしれない、という新たな解釈が見えてきました。

事業の成功のためにも、全員で、コンフリクトを恐れず、乗り越えていきたい。

そう考えたAさんは、メンバーたちを前に「新しいアイディアを生み出し、組織を変えていくためには、コンフリクトは避けられない。自分もコンフリクトを恐れずに乗り越えていきたいと思う。みんなも一緒に変わろう」と話しました。

しかし、その後役員たちから聞こえてきたのは、

「Aさんの言うことはもっともだと思うけれど、なんだかピンときません」

「頭では理解できるけれど、行動を変えようとは思わない。言いたいことを言えないよりも、人間関係が壊れるほうが組織にとってダメージが大きい」

といった声でした。

Aさん自身の物事の捉え方が変わり、Aさんが行動を変えたものの、周囲にはなかなか伝わらない。現実も変わらない。

Aさんのコーチである私はどのような問いを持つと良いのか?
そんなことが、私の頭を巡りました。

本当に実現したいことは何か?

物事の解釈が変わり、それに基づいて新たな行動を起こしたとしても、必ずしもそれがうまくいくとは限りません。

Aさんが自ら行動を変え「こうしていこう」と伝え続ければ、もしかしたら変化は起こるかもしれません。しかし時間はかかるでしょうし、それでは変わらない人もいるでしょう。

であれば、今後Aさんが何をしていけば、組織の変革を実現できるのか。それが私たちのコーチングのテーマになりました。

その中で浮かび上がったのが、「本当に実現したいことを明らかにする」というテーマです。

人が行動を変化させるときや新たな行動を起こすときは、どんなときでしょうか。振り返ると、行動が変わる前に、考え方や物事の捉え方の変化など、内側に変化があることが多いものです。

しかし、いくら内側に変化が起こっても、そもそも本当にやりたいことが明確でなければ、前進につながる行動は起きません。

私たちの日々の営みには、本当にやりたいこともあれば、そうでもないものも含まれます。どんなことにも責任感をもって真剣に取り組んでいるうちに、往々にして、やりたいことと、そうでないものの境目は曖昧になっていきます。そして、厄介なことに、すべてが上手くいっているときほど、本当にやりたいことは何かについて考える時間をもたなくなります。上手くいっていれば、何も変える必要がないと思いこみやすくなるからです。しかし、そうして時が経つうちに、本当にやりたいことがわからなくなってくる。そうすると、いつのまにか、やることが目的になり、なんのためにそれをするのかがわからなくなっていきます。

だからこそ、「本当に実現したいことは何か?」を考え続けることに価値があります。

この問いは、Aさんが自分に問い続けるものであると同時に、メンバーに対しても問い続ける問いです。一人ひとり、実現したいことが違っていたとしても、同じ会社で仕事をしている限り、会社の未来に向けて共通する点はあるはずです。

他者とのコンフリクトを避けて「よい人」になろうとしているだけでは、到底、変化を起こすことはできません。自分たちでどんな未来を創っていきたいと思うのか。それを問い続け、未来を共有できれば、きっとコンフリクトも乗り越えられるはずです。

「問い」を共有する

企業価値を持続的に向上させるためのアプローチはさまざまです。しかし、どのようなアプローチをとるにしても、組織の基盤は「対話」だといえるのではないでしょうか。

勝てる戦略を描き、それを支える仕組みをつくる。
それだけでは組織は変わりません。
論理的な正しさを唱えただけでは人は動きません。
外から変われと言っても変わりません。

対話はたしかに、考え方や視点を増やすだけでなく、人と人との関係性を変える力を持ちます。

しかし、ただ「対話しよう」といえば、対話が起こるかといえばそうではありません。対話に必要なのは「問い」です。どんな「問い」を間に置いて対話をするかによって、対話から生まれてくるものは変わるでしょう。

これからAさんと私が探索していくことは、「何をするのか」ではなく「何を問うのか」です。Aさんがどんな問いをもつかによって、Aさんとメンバーとの関係性、組織としてのパフォーマンス、本社や事業パートナーへの影響力は変わるでしょう。

あなたの組織をドライブする問いは何ですか?
ともに変化をつくりだす対話のパートナーは誰ですか?

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