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どうすれば相手と対等な関係になれるのか

どうすれば相手と対等な関係になれるのか
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対話の前提は、お互いが「対等な関係」であることです。

「対等」と口で言うのは簡単ですし、頭でもなんとなくイメージはできます。しかし、実際に「対等な関係」とはどのようなものなのか、わかるようでわからないのが現実ではないでしょうか。

タテの関係の中にいる私たち

上司と部下、お客様とサービス提供者、先輩と後輩、さらに親と子といった家族関係まで、私たちはほとんどの場合、上下関係の中にいるといってもよいかもしれません。さらに、上下は固定されているわけでもなく、ある時は上司、ある時は部下、ある時はお客様、ある時はサービス提供者、親であると同時に子でもあると、上になったり下になったりします。

こうしたタテ関係の力は、社会を秩序立て管理しやすいものにするために作られた仕組みで、それ自体は悪いものではありません。しかし、この構造の中にいると対等な関係をつくるのが難しいのも事実です。

『それでも話し始めよう』という本の著者は、このようなタテの力関係を「はしご」に例えています。

「はしごに登っているかぎり、私たちの動きは上昇か下降しかあり得ず、他者を対等な存在ではなく、自分より『上か下か』というタテの関係でみるようになるのです」

たしかに、人は初対面の時、瞬時に、相手が自分より上か下か、敵か味方かを見極めているとも言われます。

この本の著者は、このはしごから少しばかり距離をおいて、自分の位置の取り方を変えることで、他の人々と対等に対話することができるようになると説きますが、「自分の位置の取り方を変える」とは、具体的にどういうことなのでしょうか?

自らの思い込みへの挑戦

「タテの関係」の中にいることは、私たちにいろいろな影響を及ぼします。

一つは、知らず知らずのうちに自分の立ち位置を決めてしまうことです。

たとえば私は、昔から実際の年齢よりも若く見られがちです。さすがに「それはないだろう」と言いたくなりますが、いまだに新入社員と間違われることもあります。

前職のコンサルタント時代は、私にとって若く見られることはマイナス要素でした。役職者であるお客様に舐められないために、「こう見えても実はすごいのだぞ」と、それをいかに証明するかに一生懸命になっていたような気がします。

コーチ・エィに入社後に受けたエグゼクティブコーチのトレーニングの中に、自分を相手より上にもおかず、下にもおかず、いかに静かな湖面のようにフラットでいられるかというトレーニングがありました。

このトレーニングを受け、自分の中に「若く見られる=ポジションが下」という思い込みがあったことに気づきました。今では「若く見られる=警戒心なく話しやすい」とむしろ強みとして捉えることで、自分の立ち位置をフラットにできるようになってきた感覚があります。

対等な関係が人を動かす

また、タテの関係の中ではポジションパワーの存在が前提となります。秩序立てて運営するには必要な要素で、必ずしも悪いことではありません。しかしその中にずっといると、これも知らず知らずのうちに、そのパワーに依存してしまうことがあります。

あるとき、部下からこんなフィードバックをもらいました。

「有吉さんの言っていることは正しいと思うのですが、自分が無能だと言われている気がします」

それを聞いて、自分がこうするべきだ、ああするべきだと、はしごの上からものを言っていたことに気づきました。そこでフィードバックをもらってからは、自分一人で考えて答えを出すのではなく、

「こう思うんだけど、どう思う?」
「これってどういうことなんだろうね?」

と部下にこまめに相談することを意識するようにしました。

それ以来、彼は自分にとって「指示に従ってうまく動いてくれる人」から「共に学ぶ存在・頼れるパートナー」になりました。

組織においては「ポジションパワーで人を動かす」という考え方がありますが、対等な関係をつくることで、相手がより自発的に動くようになってくれるということもありそうです。対等な関係ができたことによって自分の枠を超えた価値が提供できるようになるのではないかと感じた体験です。

共同プロジェクトには欠かせない対等な関係

さらに私たちは、お客様との関係もタテの関係で考えてしまいがちです。お客様との関係を、サービスを買う側とサービスを提供する側をタテ関係の構図で考え、ついついお客様のいうことを聞こうと自分たちを下におきがちになります。

しかし実は、お客様やと対等な関係をつくることは、お客様にとっても私たちにとっても大切なことです。

『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』で、著者は「等価交換型の取引」と「共同プロジェクト型の取引」という2つの取引の形態を紹介しています。

「等価交換型の取引」とは、500円のお弁当と500円の現金を交換するといった取引、「共同プロジェクト型の取引」とは、サービスを提供する側と受ける側が、共通の目的に向けてパートナーシップを組んで進める取引です。

後者の典型は医療です。医者と患者は、共通の目標に向かって共に努力して価値を生み出し、それを分け合います。その場合の価値とは、医者にとっては収入ややりがいであり、患者にとっては健康です。後者では、対等な関係を築くことで双方が大きな成果を手にすることができます。

振り返ると、うまくいくプロジェクトは、商談の段階で我々のサービスを使うか使わないかをいったん脇においた議論をしていることが多いと感じます。クライアントが目指す状態は何か、どんな状態をつくりたいかに焦点をあてて議論し、「こうなるといいよね」「こんな考え方もあるのでは」とお互いの意見や経験をぶつけあいます。

「共に目指すことは何か?」に焦点を当てると、「タテの関係」から対等な関係になれるのかもしれません。対等な関係が構築できると、その時点でプロジェクトの成功の確率がぐっと高まり、お互いにとって価値のあることだと感じます。

* * *

こうして考えてみると、私たちがいかに「タテの関係」の影響を受けているかを改めて実感します。

対等な関係をつくるには、それぞれの場面で、自分を「はしご」のどこに位置づけているのか、ちょっと俯瞰して眺めることが役に立ちそうです。見方を変えることができれば、新しい可能性を開くことができるかもしれません。

あなたが周囲の人と対等になることで生み出されるものは何ですか?
あなたはどうやって対等な関係をつくりますか?

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【参考資料】
アン・ディクソン(著)アサーティブジャパン (訳)『それでも話し始めよう アサーティブネスに学ぶ対等なコミュニケーション』クレイン、2006年
ちきりん(著)『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』 ダイヤモンド社、2019年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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