Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


あなたには、何が見えていますか?

あなたには、何が見えていますか?
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

卓球教室に通う小学2年生の息子が、少し深刻な顔をして帰ってきました。聞けば、コーチから「来週までに二重跳びを10回連続できるようになること」という宿題を出されたとのこと。できないと下のランクのクラスに落ちてしまうらしく、その時点で1回もまともに二重跳びを跳んだことのない息子にとっては、一大事です。

翌日から特訓がスタートしました。息子が跳んでいる様子を黙って5分ほど見ているうちに「もっと上に跳ぶ」「縄を速く回す」「姿勢よく」「脇をしめる」といったアドバイスが頭に浮かんできます。しかしこの時、弊社で講演していただいたこともある、千葉ロッテマリーンズの吉井理人監督のお話を思い出しました。

吉井さんがニューヨーク・メッツに入団して一年目、ボブ・アポダカ投手コーチから『お前のピッチングのことはお前が一番良く知っているんだから、オレにいろいろ教えてくれ。それでやっていこう』と言われ、経験に基づくアドバイスをすることが主流の日本のコーチとの違いに驚いた、という体験談です。

「まだ一週間ある。時間勝負ではあるけれど、ティーチングではなくコーチングでやってみよう」と、ボブ・アポダカ流でやってみることにしました。

「どういう感じ?」「何が見える?」

「跳んでいるとき、どういう感じ?」「跳んでいるとき、何が見える?」

息子にそう尋ねると、

「どういう感じって言われても...」と何と言ったらいいかわからない表情を浮かべつつ、

「肩が結構疲れる。見えているのは、縄と靴かな」

と答える息子。

観察すると、縄を速く回そうとする意識からか、たしかに力みすぎているように見えます。また、力みながら早く回そうとするので、脇が開き、肩が上がり、体の重心が上がっているように見えました。そして、縄を確実に飛び越えようとするからか、目線は下を向いています。

そこでいろいろフィードバックしたい気持ちを抑え、「その二つだけ変えてみよう」と決め、「目線を、先にある木から外さないこと」と「脇をしめること」、これだけを意識して、もう一度跳んでもらいました。

すると、いきなり3回連続で跳ぶことができたのです。自分でも驚いている息子に、もう一度、この二つだけに意識を集中するように伝えると、今度は5回連続で、その次は、なんと11回連続で跳ぶことができました。

聞かれて初めて、見ているものに気づくこともある

息子に問いかけた「何が見える?」という質問について、私には忘れられないエピソードがあります。

コーチ・エィ創業以来のサービスであるコーチ・エィ アカデミアや組織開発プログラムのDCD(Driving Corporate Dynamism)では、画像をオフにした、音声だけのオンラインクラスがあります。そこでは他社のリーダーと共に、その場で交わされるコミュニケーションの体験を通じて、コーチングや対話、コミュニケーションに関して学習していきます。私自身も、入社後にコーチ・エィ アカデミアを通じてコーチングを学びました。

オンラインクラスでは、進行役のコーチが、冒頭でこんな質問をする場合があります。

「あなたには、今、何が見えていますか?」

この質問が、ただ単に、その人がいる場所を確認するための質問ではないと知ったのは、受講開始後ずいぶん経ってからでした。仕事を終えて、夜9時からのクラスに参加した時のこと。

その日のクラスコーチが、出席を兼ねて受講者に聞きました。

「こんばんは、みなさんはどこから参加していますか? そして、今、何が見えていますか?」

いつもであれば、「窓の外の星」とか「明かりがついたビル」など、物理的に目に映るものをそのままに伝えるのですが、なぜかその日は、

「今、私には、夕方うまくいかなかった打合せの残像が見えています」

という言葉が口から出てきました。

「あ、思わず口に出てしまった」と気づいたときには、時すでに遅し。クラスにちょっと重い空気が広がっていました。

クラスコーチは「そうなんですね」と軽やかに受け止めてくれた後、

「クラスが終わったときに、何が見えているといいですか?」

と私に尋ねました。

「次の打ち合わせがうまくいって、出席者が笑っているイメージが見えるといいです」

何が見えているかを聞かれることがなければ、そもそも打合せにそれほど影響を受けている自分を認識すらできなかったでしょう。そのときのコーチとのやりとりによって、クラスに参加する目的が明確になったと同時に、「見えているものを聞く」ことの意味がアップデートされた体験です。

この日のクラスの内容そのものは詳しく覚えていませんが、たくさん発言をして、とても楽しかった「感じ」は、今でも体に残っています。

シンプルな問いがもたらす3つの価値

息子の縄跳びでの体験は、このときのクラスでの体験を思い出させてくれました。そして、この2つの体験は、

「あなたには、何が見えていますか?」

という問いには、次の3つの効果があることを教えてくれました。

  1. 物理的に見えているものはっきりさせることで、視点、視野の広さ狭さ、身体的な状態を知ることができる
  2. 脳や心にあるものを映し出すことで、感じ、感覚、感情など精神的な状態を知ることができる
  3. パフォーマンスに直接的に影響を与える可能性がある

多くの企業で、1on1ミーティングをすることや、部下をコーチングすることが、それほど特別なことではなくなってきました。その時間の中で、考えや思いを聞いたり、組織や上司のことがどう見えているのかを聞くことがあるでしょう。しかし、そもそも相手が「何を見ているのか?」を聞くことは、少ないかもしれません。その人の見ているものは、会社や組織そのものであり、ゆるぎない現実であるにもかかわらず。

部下はもちろん、プロジェクトメンバーや、同じ組織のメンバーなど、長く一緒にいたり、昔から存在を知っていたりして、わかったつもりになっている相手にこそ、ぜひ聞いてみてください。

あなたが相手に普段伝えているフィードバックやアドバイスとは違う視点を、あなたと相手にもたらしてくれるに違いありません。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

問い/質問 自己認識 視点を変える

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事