Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
部門間連携を促すシンプルな問い
コピーしました コピーに失敗しました「部門間連携を促進したい」
このようなテーマをコーチングに持ち込まれるリーダーが、非常に多くなっているように感じます。テーマは同じでも、その目的はさまざまです。
- 間に落ちるボールを減らし、生産性と効率性を上げたい
- 異なる視点のぶつかり合いによって、イノベーションを起こしたい
- 市場において競争優位な価値を生み出したい
異なる目的であるにせよ、その内容をお聞きする限り、「部門間連携」が企業の持続的な成長にとって大事なテーマであることは間違いないようです。
みなさんの組織ではいかがでしょうか?
「部門間連携」がテーマになる背景
「社会的な現象や意味は人々の集合的な活動によって構成される」という考え方である社会構成主義の権威ケネス・ガーゲン博士(※)が、コーチ・エィでの講演で次のように話してくれたことがあります。
「『違い』は、様々なグループが異なる条件を持ち込むときにより強く出ることがあります。
たとえば、大企業のマーケティング担当者は、財務担当者や研究開発の担当者、人事担当者とは異なる目標を担っているでしょう。それぞれが各々築いてきた現実世界に従事し、各々異なる尺度で成功を測ります。
それぞれが他とは異なる現実に生きているのです。
それゆえ、マーケッターが研究開発のスピードの遅さを理解できないと感じたり、 財務から見るとマーケッターの経費の使い方を無責任だと感じたり、人事は財務の人間がなぜそんなにモチベーションが低いのかと不思議に思ったりします。
これは、私たちがそれぞれ異なる世界を築き、その世界に生きていることからくる、当然の結果なのです」
立ち上がったばかりのスタートアップ企業の場合、「部門間連携」が組織課題としてテーマに上がることはほとんどないかもしれません。組織が小さいということだけでなく、創業時はとくに、誰もが全体に責任をもつという意識、目的に向かって一緒に取り組むという在り方が備わっているだろうからです。
ところが、会社が大きくなってくると、生産性や効率性に代表されるさまざまな観点から、部門を分け、責任をはっきりさせ、役割分担を進めます。組織を機械論的に構築し始めるのです。その結果、各組織の責任者は、当然自身の責任を果たそうとします。
このようなプロセスを経て、組織の「サイロ化」が進むことが考えられます。
そして、部門間連携というテーマが生まれてくるのです。
「部門間連携」とは誰と誰が連携することか
部門というのは、組織図上やオフィスの席の配置上のものであり、概念にすぎません。その捉えどころのない概念の連携という、さらに捉えどころのない問題が「部門間連携」です。
概念としては理解できますが、具体的に何をどうすれば連携が実現するのかは捉えどころがありません。この「捉えどころのなさ」が、事を難しくし、さらにはなかなか解決できない難しい問題にさせているように思います。
サイロ化の進んだ組織では、部門間連携を促進するためにさまざまな取り組みを試みます。
- 全社の見える化のために、システムを導入する
- フリーアドレスを導入する
- 会議で、各部門が何をやっているかを発表する
- 部門を超えて、懇親をする機会を創る
- クロスファンクショナルチームを創る
- 人事のローテーションを工夫する
どの取り組みも、部門間連携を強化する一助になるかもしれません。
しかし、ことはもっとシンプルなのではないかと私は思っています。そのヒントが、コーチング研究所によって明らかになった次の事実の中にあります。
それは「部門間のシナジーと部門トップ同士のコミュニケーションには相関がある」ということです。
この事実から、
「部門間連携とは、いったい誰と誰のことなのか?」
「誰と誰が連携することなのか?」
という問いが浮かんできます。
みなさんは、どうでしょうか? この問いについて考えていくと、部門間連携というあいまいなものが、突然具体性を帯び、視界がクリアに開けるような感覚がないでしょうか?
私は、部門間連携を考える上では、この「誰と誰」を特定することに意味があるのではないかと考えています。
「部門間連携」を阻むものの正体
「それは誰と誰のことなのでしょうか?」
「あなたと誰の連携なのでしょうか?」
コーチング・セッションの中でこう問いかけたときに、即答できるリーダーはそう多くありません。実際に、「誰と誰」なのかがわからないという場合も、あるかもしれません。
しかし多くの場合、私が感じるのは、「誰と誰を特定する」ことへのちょっとした躊躇、そして特定した後に起きるであろうコンフリクトや、面倒くささへの怖れといったものです。たとえば「領空侵犯だ」と相手が気を悪くするのではないか、関係が悪くなるのではないかという不安や心配。
たしかに、それは起こるかもしれません。でも、もしかしたらあなたのそのちょっとした躊躇が、部門間連携を妨げているのかもしれません。
あなたの組織には、部門間連携というテーマは存在するでしょうか?
それは、「誰と誰」の連携なのでしょうか?
あなたが与えている影響はないでしょうか?
躊躇や恐れを乗り越えて、この問いと向き合う。その瞬間、部門間の連携は少しずつ動き出すのではないでしょうか。
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【参考情報】
※ ケネス・ガーゲン博士(1935年~)1957年イェール大学心理学部を卒業、1962年デューク大学心理学部で博士号を取得。ハーバード大学助教授を経て、1967年よりペンシルバニア州スワースモア大学心理学部の助教授、1971年より同教授。現在、同大学シニア・リサーチ・プロフェッサー。社会的な現象や意味は人々の集合的な活動によって構成されるとすると考える社会構成主義の第一人者として数多くの著作を発表している。
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