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頑張る部下を独りにしない

頑張る部下を独りにしない
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Language: English

コーチングにおいて「アカウンタビリティ」とは、「主体的に自ら進んで仕事や事業の責任を引き受けていく意識や態度」「⼀⼈ひとりが、⾃分の責任において考え、⾏動を起こす意識や態度」を意味します。「当事者意識」という言葉に近いかもしれません。

組織において、我々リーダーはアカウンタビリティをどのように扱うことができるでしょうか。

「私が頑張らなければ」

私は前職で、新規事業の事業部長をしていました。当時は、とにかく事業を軌道に乗せ、早く成長させたくて、現状を把握して問題を抽出し、改善策を現場で落とし込む、というサイクルをフル回転でこなしていました。優先度高く取り組んでいた課題は、売上と利益の拡大の他に、人材教育や幹部育成です。

あるとき、売上が急に落ち込み、スタッフの退職も増えてきた店舗のマネージャーと面談することになりました。

彼女は売上に対する意識が強く、予算は必ず達成させるという使命感をもっているマネージャーでした。私には、やる気のある優秀なマネージャーと見えていたのですが、360°評価では彼女に対するスタッフからの苦言が相次いでいました。スタッフに直接聞くと、仕事の遅いスタッフにイライラし、時に冷たい態度をとるなど、何人かのスタッフの退職の一因となっているようです。

そのことを面談でフィードバックすると、彼女は言いました。

「仕事が遅いスタッフを親身になって指導しているのに、なぜそんなことを言われるのかわかりません。毎日頑張って仕事をしているのに、スタッフみんなに受け入れられないのなら、部長に言われた通りにします。どうすればいいか教えてください」

私は彼女への期待を伝えると同時に「スタッフへの態度をもう一度考えなおしてほしい」と伝えました。彼女は笑顔で頷き、今までに増して業務に励んでくれました。

しかし、彼女の頑張りに周囲はついていくことができませんでした。

「業績が落ちているのはすべて私の責任だ。スタッフが辞める原因も、私にあると思われてしまった。とにかく早く状況を改善しなくてはいけない。私がすべて指示するから、全員それに従ってさえくれればいい」

彼女はさらに孤立してしまったのです。そして、店舗の業績は悪化していきました。

独りで頑張る

「すべて私の責任だ」

そう言ってがむしゃらになっている姿を見て、「ああ、彼女は今独りなんだ」と強く感じました。そして、まるで自分を見ているかのような気持ちになり、胸が苦しくなりました。

私は人に頼るのが得意ではありません。むしろ頼ることは格好悪いとどこかで思っていました。「困難は自分で乗り越えるものだ、それが当事者意識というものだ」という考えをもっていましたし、実際にそうやって困難を乗り越えてきた自負もありました。したがって部下たちにも「自分の責任で頑張りなさい」と、背中を見せていたのだと思います。

後日、彼女と改めて面談する時間をもちました。そのとき、次のように伝えたと記憶しています。

「あなたは人一倍責任感があって、とても頼りになるけれど、全て一人で抱え込んでいるのではないか。自分と同じ能力の人はいなくても、自分にない良いところを持ったスタッフがたくさんいるのだから、もっと周りと協力してもいいんじゃない?これからもあなたに期待してることに変わりはないから、いいお店をつくろうよ」

彼女に語りかけながらも、まるで自分自身に言い聞かせているようで、私の声は震えていました。私にはそれを伝える以外、彼女のために何をしてあげることができるのか、全くわかりませんでした。

アカウンタビリティを紡いでいく

私たちはときに「すべて私の責任だ」と自責の念で苦しんでしまうことがあります。

「当事者意識」というと「すべての責任を負う」というイメージなのかもしれません。しかし、冒頭で紹介した「アカウンタビリティ」は、「自責」とは異なります。「私の責任」とすべてを抱え込むのではなく、自分が引き受けたことを実現するために、「⾃分に何ができるか」「他に何ができるか」と、あらゆる可能性に⽬を向けていく在り方です。

コーチ・エィで学ぶコーチングのマニュアルには、アカウンタビリティについて次のような記述があります。

「アカウンタブルでいる人は、周囲の人にも『君に何ができるか』『他に何ができるか』と問うことで、同じように彼らのアカウンタビリティにもアクセスしています」

この考え方に触れたとき、私の中にあった「当事者意識」のイメージは広がりを持ちました。困難を一人で乗り越えるのが当事者意識なのではなく、自分の責任を果たすために周囲を巻き込み、周囲と協働することなのだと思ったのです。それまで自分の内側へ内側へと向いていた意識が、外に広がった感覚がありました。

今なら、私はリーダーとして彼女にこう言うでしょう。

「私にできることはないかな?」
「あなたが持ってる力を発揮できるように、私に何かさせてほしい」

もし私が彼女にそう言えていたら、彼女も周囲に助けを求め、周囲と力を合わせて目標に向かうという選択肢が持てたかもしれません。彼女を孤立させてしまっていたのは、私自身の関わり方そのものだったのかもしれません。

この体験から私は、リーダーのアカウンタビリティそのものが、「メンバーが主体的に仕事や事業の責任を引き受け、⾃分で考え、⾏動を起こしているチーム」の実現に大きく影響するということを学びました。

頑張る部下を自責で苦しませない。独りにしない。一人ひとりのアカウンタビリティを紡いで、組織の未来を創っていくのもまたリーダーのチャレンジです。

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【参考資料】
コーチ・エィ アカデミア『F08 アカウンタビリティ』マニュアル p.11、コーチ・エィ、2015年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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