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ベクトルを合わせる

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仕事をする中で「ベクトルを合わせる」という表現が登場することがあります。その意味は「方向性を一致させる」「目的を共有する」というものです。

組織の活動は、複数人が集まって成り立っています。組織には目的があり、それに向けて目標を定め、各人が役割を果たすことで前進します。そこに集まる個人がそれぞれ思いのままに活動していたら、目指す姿の実現が困難であることは想像に難くありません。

つまり、組織には向かう方向があり、それをその構成員が理解するという意味合いで「ベクトルを合わせる」という表現が使われます。

そう説明されると何となくわかった気になるものですが、「方向性が一致している」状態や、「目的が共有されている」状態とは、いったいどのような状態なのでしょうか。また、それはどのように実現されるのでしょうか。

緻密な分析や大胆な予測をベースに目標を定め、そこに向けた役割をデザインし、人を配置すればいいのかというと、そういうわけではありません。

そんな中、多くのリーダーが「ベクトルを合わせていくこと」に腐心しているのだと思います。

「べクトルを合わせる」ための工夫

リーダーが組織の「ベクトルを合わせ」ようとする時、私たちにはどのような選択肢があるのでしょうか。

  • 組織として目指していることの解像度を高め、多くの人が共通のイメージをもてるようにする。
  • 向かう方向を繰り返し言葉にして伝え、認識し、記憶に残るようにする。
  • 全体の方向性を分解し、それぞれの部署や役割における方向性を作らせ、全体とのつながりを意識させる。

このように「組織の目指す姿」が「絵に描いた餅」にならないよう、多くの企業がさまざまな工夫をしています。

こうしたさまざまな取り組みがある中でとくに印象的だったのは、ベクトルを合わせるために「歴史に触れる」ことを大切にしているという話です。

互いの歴史に耳を傾ける

三社が経営統合した会社があります。統合による効果を発揮するためには、言うまでもなく、統合前のそれぞれの会社が競争していた状態から、協力し合う関係を築いていくことが不可欠です。

その会社のトップの方が最初に行ったことの一つが「互いの会社の歴史を語り、お互いにその歴史に耳を傾ける」ということでした。

重要な戦略上の意思決定によって経営統合したことを考えると、社員に対していち早く中期計画や経営戦略、マーケットで置かれた環境などを説き、統合の果実を得たいところだと思います。しかし、その会社で最優先にしたのは、それぞれの会社が、どのようにして誕生し、どのように事業が拡充していったのか、そうした歴史を語り紡ぐことでした。

歴史とは、人間社会の活動の変遷です。

学校教育の中で歴史に触れる時、それは「過去の事実を知る、暗記する」というアプローチになりがちですが、本来歴史とは、その営みの変遷や蓄積を知り、「今を問う」ためのものではないでしょうか。

歴史に触れた時に、私たちには「もっと深く知りたい」という興味が湧きます。「なぜそうだったのか」を紐解きたいという思いに駆られます。

歴史を知ると、単に事実を認識するだけではなく、内側でさまざまな探求が起こるのを感じます。また、あまたの活動の上に自分や現在が存在することにも思いを馳せる機会にもなるでしょう。

つまり、歴史に触れることは、自分自身と、その歴史をもつ対象との重なりを見出していくことだとはいえないでしょうか。

互いの歴史を知り、重なりを見出す

前述の経営統合した会社で歴史を語るセッションでは、最後に、参加者に二つの問いが投げかけられました。

「なぜあなたは、ここにいるのだと思いますか?」
「あなたがこの歴史に加わることで、新しい会社の未来はどう変わっていくでしょうか?」

同じ会社で、同じ時代を共にしたわけではないにも関わらず、互いの歴史に耳を傾け、そこに自分自身の存在を加えようとする営みによって、「統合」という大きな変化に自分なりの意味が付与される瞬間であったといいます。

広辞苑には、「ベクトル」とは「大きさと向きを有する量」とあります。

「向き」については、「方向性を合わせる」という日常で使われている意味合いに近く、理解しやすいと言えます。しかし私たちにとって「大きさ」とは何でしょうか。

単に、向かう方向だけを合わせるのではなく、今を形作るに至った歴史を知り、感じて捉えるというところに、ベクトルの持つ「大きさ」という要素が見て取れるのではないでしょうか。

歴史を有するのは、社会や企業だけではありません。私たち一人ひとりも、歴史を有する存在です。一人ひとりが紡いできた歴史があるのです。

* * * 

組織やチームのベクトルを合わせようとする時、みなさんと組織のメンバーはどれくらいお互いの歴史に触れ、重なりを見出しているでしょうか。

まだまだやれることはありそうです。

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