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変化するために乗り越えるべきこととは

変化するために乗り越えるべきこととは
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新年度を迎えたこの時期は、組織に変化が多い時期です。

リーダーの中には、異動によって自らが環境の変化に適応しなければいけない人もいれば、自組織に新しいメンバーが加わるなど、組織全体の変化をマネジメントする必要のある人もいるでしょう。

「変化への対応」は、コーチングの中でもよく挙がるテーマです。

変えたのに変わらない

先日のコーチングで、クライアントのA氏が浮かない顔で言いました。

「目標を達成するために、この4月から組織を変えました。人も動かして変えたのですが、このままじゃダメなんですよ」

A氏は今回の組織変革を自ら決めて取り組み、新しくスタートさせたばかりです。理由を聞いていくと、そう思う背景には過去の体験があるようです。

「実は、過去に何もかも変わってしまうくらい大きく組織を変えてみたものの、しばらく経ってみたら、現実は何一つ変化していなかったことがありました。ただ組織を変えただけでは、うまくいかないことがあるんですよ」

「変えたのに変わらない」とは、どういうことか。何が変わって、何が変わらなかったのか。そこから見えてくるのは、「変化」の捉え方、定義は一通りではないということです。

「変化」と「トランジション」の違い

組織内の変化や変化マネジメントを専門とするウィリアム・ブリッジズ氏は『トランジションマネジメント』という著書の中で「変化とトランジションは同じものではない」と述べています。

「変化」とは、たとえば、新しい場所への移転、人の異動、組織内での役割の変更や新しい技術の導入など、組織において起こる具体的な出来事や状況が変わることを指します。

一方で「トランジション」とは、具体的で物理的な「変化」に伴い、その渦中にある人が経験する感情や思考の変化といった、心理的な変化を含む概念です。つまり、「トランジション」には時間的な幅があり、そこには、物理的、具体的な変化とともに、そこに適応していく心理的な変化が包含されるのです。

同氏の「トランジション理論」によれば、変化の適応には次の3つの段階があります。

第1段階 終わり
第2段階 ニュートラルゾーン
第3段階 新しい始まり

「トランジション」とは「終わり」によって始まり、「始まり」によって終わるのです。

たとえば、管理職に昇進する場合には、今まで取り組んできた現場の業務を手放すことになるかもしれません。さらに、かつての同僚たちと今までのようには接することができなくなるかもしれません。そして、求められることが変わり、今まで慣れ親しんできたやり方は通用しないかもしれません。

それが変化への適応の第1段階である「終わり」です。

昇進そのものはポジティブな変化かもしれませんが、過去の習慣、ものの考え方、関係性などを手放すプロセスでは、不安や躊躇、恐れ、喪失感などを味わう人も多いかもしれません。

言い換えれば、一見ポジティブな変化であっても、それに適応するための最初のステップである「終わり」の段階で味わう感情は、ポジティブなものとは限らないということです。

「終わり」がなければ「新しい始まり」はありません。つまり本当の意味で変化するためには、必ず「終わり」の段階を経る必要があるということです。

たとえ物理的な変化があったとしても、「終わり」のプロセスを経ることがなければ、「新しい始まり」は訪れません。つまり結果として何も変わらないということが起こり得るのです。

逆に言えば、変化に直面した人がいい結果に向けて新しいスタートを切るためには、「終わり」を受け入れる過程が必要だということです。変化に関わる人すべてが、「終わり」の段階を受け入れて、トランジションの3つの過程を乗り越えることができれば、本当の意味での変化につながるでしょう。

先に述べたA氏の過去の体験は、「終わり」の過程をうまく乗り越えられなかったのかもしれません。

「終わり」を一緒に乗り越える

私はコーチとして、変化に直面した人が「終わり」の段階を乗り越えるために、よく次のような問いを投げかけます。

Q 変化する前のあなたに、今なんと声をかけてみたいと思いますか?
Q この新しい変化で、何が変わったと思いますか?
Q 変化を受け入れたことで、あきらめたことは何ですか?
Q 変化してから、寂しいと感じることはなんですか?
Q あなたにとってこの変化はどんな意味があるのでしょうか?

過去を尊重しつつ、何が終わったのかをはっきりとさせる。そのことに対する感情を表現してもらい、共感を示し、抱えている感情に寄り添って、一緒に考えて、一緒に乗り越える。そんな問いです。

クライアントA氏も、今回は変化に関わる全ての人と話し、「終わり」に目を向けて棚卸しすることにチャレンジしたいと約束してくれました。

不確実なことばかりの世の中で、組織は絶えず変化しています。大規模な合併、加速するグローバル化、進化するテクノロジーなどといった変化は、私たちが適応することを待っていてはくれません。そんな中で、変化に飲み込まれるのではなく、自らも変化していくためには、トランジションをコントロールする意識が必要です。

変化に適応していく過程には、心理的な負担が生じる段階があるのは事実です。トランジションをコントロールするとは、その過程で味わう感情を無視するのではなく、受け入れ、乗り越えることです。それが、トランジションを成功させ、組織を新たなステージへと導く秘訣です。

組織の中で起こる「変化」に直面する人のために、
あなたはリーダーとしてどのような支援ができるでしょうか?

トランジションマネジメントの一環として、あなたが今すぐできることはなんですか?

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【参考資料】
ウィリアム・ブリッジズ、スーザン・ブリッジズ(著)、井上麻衣(訳)『トランジション マネジメント』、パンローリング株式会社、2017年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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