Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
未熟な対立
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営業 vs. 管理、現場 vs. 本社、研究 vs. 開発。どれもよくある組織の対立構造です。
同じ会社で、なぜ対立が生まれるのか。「対立は必要なことである。その上でもっと部門間連携を進めるべきだ」と言うのは簡単です。しかし組織において、わかりやすく完全な対立構造ばかりではないと思うのです。私はそれを身をもって体験しました。
対立は静かに生まれる
監査法人を退職し、美容の資格取得のために留学した私は、帰国後に美容会社の経営企画部長の機会をいただきました。私は昔から顧客としてその会社のお店に通っていたので、現場の方々の技術や、接客のすばらしさをよく知っています。資格も取得し「現場も技術もわかっているし、この仕事に自分ほどふさわしい人間はいない」とどこか驕った気持ちを抱えつつ、美容の仕事に携われることを心から嬉しく思っていました。
経営企画としての仕事は、中期計画や年度予算の実現に向けた課題解決や目標管理など、事業側に「●●をしてください」と厳しい方針や面倒な指示を伝えることが大半です。
そうした仕事は、現場をサポートすることになると信じていましたが、現場の事業部長たちからは「あの人、最近入社して現場のこともよくわからないくせに、上からいろいろものを言ってきて偉そうだ」と思われているようでした。それを感じて私も、事業部長たちと直接話すことを極力避けていました。
3年かけて準備した事業を責任者として立ち上げることになり、薄々感じていた対立が表面化する出来事がありました。
対立の表面化に頭が白くなる
新規事業で店舗を出すにあたり、既存店から腕のいい技術者を異動させることになりました。事業部長たちの協力が不可欠でしたが、彼女たちにしてみれば、お店の一番の稼ぎ頭を突然異動させられるわけです。会社の方針とはいえ、納得のいかない決定であることは明白でした。
一方の私は、新規事業を成功させたいと思う反面、事業部との軋轢を避けたい気持ちがありました。とはいえ、ベテランの技術者がいないと立ち上げが難しい現実も理解しており、揺れる気持ちを抱えていました。
そんな状態で迎えた、事業部長とのミーティングの日。緊迫した空気を察したのか、管理本部長がその場に同席してくださいました。広い会議室の向こう側に事業部長が4名、こちら側に私と管理本部長の2名が座ります。間に漂う空気は寒々しく、決して向こう岸にはたどり着けないと感じる距離感。静まり返る会議室で、私は淡々と説明を始めました。
「そもそもなんでこんなミーティングをやらないといけないんだろう。方針をただ指示して従ってもらえばいいのでははないか」本音の私は逃げ腰でした。
そんな私を見透かすかのように、事業部長のひとりが急に怒声を上げました。
「ふざけるな!こっちがどれだけ真剣に仕事しているか、あんたたちは全然わかってない。人材を引き抜かれるのがどれだけ現場にとって負担が大きいか、本当に想像できているんですか。そんな涼しい顔で説明されたって、納得できません。なんでこっちが苦しんでまで、あんたたちに協力しなきゃいけないんですか」
その事業部長は、現場で最も活躍し、何百人もの現場スタッフをまとめている強力なリーダーです。彼女はそう叫ぶと、泣きながら怒って、会議室を出て行ってしまいました。
仕事をしていて、こんなに感情をむき出しにされたのは私にとって初めてのことでした。びっくりして思考は停止、体温が急激に下がり、目の前は真っ白。吐き気を催して震えが止まらなかったことを覚えています。
私たちは何を手に入れたかったのか
私たちは、目の前の仕事にプライドをもっています。日々精一杯、自分の仕事に全力投球しています。誰でも簡単に代わりができることではないし、時間もかけています。
「相手の立場にたって考えれば理解できる」などという生易しいものではないし、逆に「理解されてたまるか」とも思っているかもしれません。
そういうプロ意識をもって仕事をする人たちが、対立の構図に入るとき、結局、お互いに何を手に入れたいと思っているのでしょうか。
自分の部署の目標達成や評価でしょうか。
自分たちが一番優れているというプライドでしょうか。
そもそも、私たちは何のために組織として集まって、仕事をしているのでしょうか。
私は、後悔しています。あそこまで感情をむき出しにして、本気で対立を挑んできた彼女に、私は無表情で無関心を装ってしまいました。「私だって、この事業を本気でやりたいんだ!」という熱意や「どうしても助けてほしいんだ!」というリクエストを、逃げずに伝えることができませんでした。彼女に正面から向き合わなかったことで、対立を未熟なまま放置してしまったような気がします。私の中には、後味の悪さが残っています。
私たちはあの時、泣いたり怒ったり吐いたりしてまで、いったい何を手に入れたかったんだろう?
コーチになった今、改めて振り返ると、やはりお互い美容の仕事が好きで、会社が好きで、お客様にきれいになってほしくて、それを叶えている技術者たちがかわいくて仕方なくて、そういう関わる人たち全てが幸せを感じるようなことを実現したかったのだと思います。
対立の先にあるものを手にするために
私たちは本当は何を実現したいのだろうか?
何のためにこの仕事をしているのだろうか?
一緒に取り組むことで、より大きな成果や異なる未来を手に入れられないだろうか?
目の前のことばかりにとらわれず、もっと大きな視点で、こうした問いに対して彼女と意見を交わしあえていたら、違った未来があったかもしれない。
そう思うと、残念な気持ちになります。
対立は、決して気持ちのいいものではありません。波風立てずに、穏やかな人間関係を維持し、できれば感情がざわつくようなやりとりは避けて通りたいものです。しかし、変化の激しい環境において、組織が停滞せず、イノベーションを起こし、未来に向かうためには、創造的な対立、意味のある対立が必要な場面が必ずあります。とはいえ、頭では理解していても、そう簡単に対立は受け入れられるものでもなく、乗り越えられるものでもありません。
あの時の私にコーチがいたら、どのような変化が生まれていたのでしょうか。
「わかっていてもできないんだよ」という葛藤に、一緒に立ち向かってくれる存在。私は今、コーチとしてそういう存在でありたいと思っています。
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