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あなたは自分の役割をどのように演じたいですか?

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「この世は舞台、人は皆役者」

イギリスの劇作家、ウィリアム・シェークスピアによる喜劇『お気に召すまま』の有名な一節です。原文はもう少し長く「この世は一つの舞台だ。すべての男も女も役者にすぎない。それぞれ舞台に登場しては、消えていく。人はその時々にいろいろな役を演じるのだ」とあります。

つい先頃、この「役を演じる」ことについて、改めて考えさせられた体験があります。

マネージャーの意識と行動が変わるとき

部下であるAさんは、この1月からマネージャーとして部下をもつようになりました。Aさんは穏やかで明るい人柄で、普段から人に相談を持ちかけられたり、気さくに話しかけられたりしています。「いじられ役」になることもあり、時に周囲から愛を込めて「ゆるキャラ」扱いされることもあります。

先日の1on1の時間で、Aさんから不意にこんなことを言われました。

「大山さん、僕たち二人の関係の中では、私はゆるキャラでいいんです。冗談のコンテキストやニュアンスも共有できているので。でも、部下たちの前では私をゆるキャラ的に扱わないでいただきたいんです」

普段のAさんとは別人のような、毅然としたリクエストです。

「どういうこと?」

そのリクエストの背景を知りたくなり、尋ねました。Aさんは迷いのない目で、私にこう伝えてきました。

「私はそんなに出世に興味もないし、ちょっとゆるキャラっぽいところもあるかもしれません。でも最近、部下たちの前ではそういうキャラクターに映らないように意識しているんです。やっぱりマネージャーなので、部下たちにいい影響を与えたいんですよね。無理して人を牽引するようなキャラクターづくりをしようとは思いませんが、ちゃんと頼りがいがあるキャラクターというか、そんな役割を果たしたいと思ったんです」

内なる独り言が変わり、行動が変わる

私はさらに、Aさんにそう思うようになった背景を話してほしいと促しました。

Aさん曰く、本来のAさんは「穏やかな平和主義者」だといいます。人と競ったり何かに追われたりするのは好きではなく、本当は営業職のように目標やノルマがある世界は合わないと感じることもしばしばだそうです。

ただ、この半年間マネージャーとして部下と関わる中で、本来の自分であり続けることが、果たして彼らにとっていいことなのかという疑問がわいてきたというのです。

それよりも「部下を元気にしたい、成長の力になりたい、こういう成長をして欲しい。もっと自分たちが世の中に提供していることの価値に誇りを持ってほしい」という想いが強くなり、さらには「もっとポジティブな影響を与えられるようになりたい」と強く意識するようになったといいます。

そのことをきっかけに、Aさんの中の「独り言」が変化しました。

それまでは、難しい仕事を前にしたときに「大変そうだな、面倒だな」という「独り言」がAさんの頭の中にはこだましていました。それはおそらく「無理をしない」という本来のキャラクターのイメージを優先させていたからではないかとAさんは笑います。

それが最近は、どんなときであっても、

「メンバーは仕事を楽しんでいるだろうか?」
「自分がどのように関わると良いだろうか?」
「どういう役割を果たすことが、メンバーにとって価値があるだろうか?」

そんな独り言がこだまするようになったそうです。

こうした自分自身との対話、つまりAさんのいう「独り言」を「セルフトーク」と呼びます。Aさんの場合、役職が変わったことをきっかけに「素の自分」から離れて「役割」を明確に意識し、その過程でセルフトークが変化したのでしょう。

しかし「素の自分から離れる」といっても、「マネージャー」はあくまでもAさんにとって「役割」です。その役割を担うことでセルフトークが変わり、行動も変わったかもしれないが、本来の自分が変わるわけではない、とAさんは言います。

「そもそも『素の自分』というのも、実はいるようでいないのではないか、それ自体も一つの役割のような気がする」

というAさんの言葉が耳に残りました。

役割をどのように演じるかはあなた次第

Aさんの言葉は、シェークスピアの言葉と重なります。シェークスピアのいうように、私たちが人生という舞台で役割を演じる役者なのだとしたら、私たちは常に何らかの役割を演じているはずです。

Aさんは今回、自分の役割を明確に認識し、それをどのように演じるかを自ら決めました。翻って私自身はと考えると、自分がどんな役割を担っているか、それをどのように演じようとしているか、Aさんほどは意識できていなかったかもしれないことに気づきます。

もしかしたら、私と同様、自分がどんな役割を担っており、どんなふうにそれを演じようとしているかに無自覚な人も多いかもしれません。

会社の中で担っている役割、役職はもちろんあるでしょう。それ以外にも、親であるとか、子であるとか、その他の役割もあります。あなたは、それをどのように演じようと思っているでしょうか。

本来、同じ役「職」でも、その役「割」は、私たちが自分自身で決められます。どのように演じるかは、その役割を担う人の自由です。シェークスピアの言葉通り、私たちが皆役者なのだとしたら、自分の役割を認識し、どのように演じるかを決めることは、よい演技(パフォーマンス)につながるといえるのではないでしょうか。

あなたはいま、どんな役割を担っているでしょうか?
その役割をどのように演じたいですか?
そう思ったとき、あなたの中のセルフトークはどのように変化していきますか?

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【参考資料】
ウィリアム・シェイクスピア、『お気に召すまま』
鈴木義幸、『セルフトークマネジメント入門』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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