Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


「いかにモチベーションを上げるか」という問いは誰のものか

「いかにモチベーションを上げるか」という問いは誰のものか
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

みなさんのモチベーションの源はなんでしょうか?

私は年末にエントリーしているフルマラソンの完走に向けて、現在トレーニングを重ねています。42.195キロを走り切るモチベーションになっているのは、なんといっても走り終えた後の「達成感」です。20年前にフルマラソンを完走した時に味わった、「やり切った」というすがすがしい達成感が忘れられません。

この場合の私のモチベーションは「達成感」ですが、人の動機の源は、ほかにもいろいろあります。

  • 成長実感
  • 影響力の発揮
  • 帰属意識
  • 自由
  • 敬意
  • 公正さ
  • 新しさ

などがモチベーションとなる人もいるでしょう。

明確な目標や行動プランとモチベーションがうまくリンクすれば、パフォーマンスは自然と高まります。だからこそ、組織において多くの上司は、部下のモチベーションに働きかけようとします。

一方で、私はトレーニング中にこんなことも考えます。

「誰から言われたわけでもなく、報酬がかかっているわけでもないのに、なんで自分は走っているんだろうか、こんなきついことはやめてしまおうか」

つまり、フルマラソンを走り切ることに対してモチベーションはあるものの、それを常に維持できているわけではないということです。

自分自身ですらモチベーションを上げて維持するのは大変なことなのに、ましてや、他者のモチベーションを上げることなどできるのでしょうか? 

モチベーションを上げるのは誰の役割か

私のクライアントであるAさんは、あるときマネージャーから相談を受けました。

「日々、目の前の仕事をこなすのにいっぱいいっぱいでパフォーマンスが上がらない部下がいる。彼のモチベーションをどうやって上げたらいいのか」

もしかしたら同じような悩みを抱えるマネージャーは多いかもしれません。

しかし、相談を受けたAさんは、このマネージャーは上司の仕事がわかっていないと考えました。Aさんは言います。

「モチベーションは、他人が上げられるものではない。自分で上げていくものだ。上司の仕事は部下のモチベーションを上げることではなく、部下が"気持ちよく"仕事をやりたくなるようにすることだ」

たしかに、「どうしたら部下に学ぶ意欲を起こさせることができるか」「どうしたらもっと部下のモチベーションを上げられるか」といった問いは、一見、部下のことを考えているように聞こえますが、実は上司にとって「自分は何をすべきか」という自分に向けた問いともいえます。極端に言えば、そこに部下の存在はありません。

一方で、「どうしたら部下が気持ちよく仕事をやりたくなるか」「どうしたらすばらしい気持ちで仕事に取り組めるか」という問いを考えてみてください。そこには、部下の姿が浮かぶのではないでしょうか。

未来とのつながりが見えたときにやる気が湧いてくる

「どうしたら部下が気持ちよく仕事をやりたくなるか」「どうしたらすばらしい気持ちで仕事に取り組めるか」

そう考えたときに有効な方法が一つあります。それは、部下が自分の未来を考える機会を創ることです。

人は往々にして、目の前のことしか見えなくなります。しかし、自分が何のために、誰のために、なぜ今目の前のことをやっているのか、そうした大局的な視点で眺めることは、部下自身が自らの本質的なモチベーションに気づくきっかけとなります。そのことは、長期にわたって計り知れない好影響をもたらすでしょう。

コミュニケーション・サイエンティストであるヘスン・ムーン博士は、著書の中でこういいます。※

「人は望む結果を手に入れるための計画を詳細に練ったところで、必ずしも奮起するわけではありません。自分がなぜ、その結果を望んでいるのか気づいたときに、やる気が湧いてくるケースがほとんどなのです。」

「やる気」は、人の内面から生まれるもので、外から与えることができるものではありません。他者の気持ちを操作することはできないのです。

マネージャーの仕事は部下と一緒に考えること

Aさんは、相談をしてきたマネージャーにこうリクエストしました。

「モチベーションを上げようとするのではなく、どうしたら部下がパフォーマンスを上げられるかを考えてほしい」

* * *

しばらく経って、マネージャーやその部下にどんな変化があったかを尋ねると、A氏はこう答えてくれました。

「少しずつ変わってきていると思います。マネージャーも頭ではわかっていても、部下に急に未来について問いかけることはできません。

なので、まず私がマネージャーになぜ今の会社に入ったのか、なぜこの仕事を選んでいるのか、そしてこれから何をやっていきたいかを聞くようにしました。

僕がマネージャーに未来について問いかけなくなったら、マネージャーも部下に対してやらなくなりますね。

なぜこの仕事を選んでいるのか、未来に何を実現したいかを問いかけ続けることは、業務についてのコミュニケーションと同じくらい大事です」

あなたはどうなりたいのか?
あなたはどこに向かおうとしているのか?
誰と一緒にやりたいのか?
その先には何が待っているのか?

あなたも、相手が未来に向けて何を望んでいるのか問いかけてみませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
ヘスン・ムーン(著)、伊藤守(監修)、田村加代(翻訳)『Coaching A to Z 未来を変えるコーチング』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2023年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

ビジョン/理念 上司/部下 育成/成長

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事